社会保険料の引き下げも衆院選の争点に
衆院選では消費税減税が大きな争点になっているが、それに加えて社会保険料の引き下げを主張する党も少なくない。ともに家計の負担を軽減する措置である。
また、社会保険料が引き下げられれば、その恩恵を受けるのは現役世代だ。現役世代の手取りを増やすということは、主に国民民主党が掲げてきたスローガンであったが、他党もこれに追随する流れになっている。このことが、衆院選でも社会保険料の引き下げの主張が多くなされている背景にある。
さらに国民民主党は、178万円までの年収の壁対策(所得税減税)を自民党が受け入れたことから、現役世代の手取りを増やすことを目指す政策の重点を、所得税減税から社会保険料の引き下げに移している面もある。
従来、社会保険料の引き下げを最も前面に打ち出してきたのは、与党の日本維新の会だ。今回の衆院選の公約にも、現役世代の社会保険料を年間6万円引き下げることを掲げている(図表)。
また、社会保険料が引き下げられれば、その恩恵を受けるのは現役世代だ。現役世代の手取りを増やすということは、主に国民民主党が掲げてきたスローガンであったが、他党もこれに追随する流れになっている。このことが、衆院選でも社会保険料の引き下げの主張が多くなされている背景にある。
さらに国民民主党は、178万円までの年収の壁対策(所得税減税)を自民党が受け入れたことから、現役世代の手取りを増やすことを目指す政策の重点を、所得税減税から社会保険料の引き下げに移している面もある。
従来、社会保険料の引き下げを最も前面に打ち出してきたのは、与党の日本維新の会だ。今回の衆院選の公約にも、現役世代の社会保険料を年間6万円引き下げることを掲げている(図表)。
図表 衆院選での社会保険料引き下げ・社会保障制度改革についての各党の主張


壁に当たる日本維新の会の医療費削減の取り組み
日本維新の会が目指す社会保険料の引き下げは、昨年10月の自民党との連立合意にも盛り込まれた。日本維新の会は、高齢者の医療保険の自己負担を原則3割に引き上げること、「OTC類似薬」を保険適用外にすること、などを通じて医療費を年間4兆円削減することで、社会保険料を年間6万円引き下げることの実現を目指している。
しかし日本維新の会のそうした取り組みは、必ずしも前進していない。日本維新の会は、市販薬と成分や効能が似ている医療用医薬品のOTC類似薬を保険適用外にして、医療費の削減、医療保険料負担の削減につなげる施策を掲げていた。それを実現できれば、医療給付を1兆円削減できると試算した。
しかし、昨年12月に政府・与党は、このOTC類似薬の保険適用外の見送りを決めた。OTC類似薬を継続的に使う患者の経済的負担が大きくなることや、受診控えによる健康被害が生じるなどの批判に配慮したためだ。
また、現役世代との負担の不公平感をなくすことや、必要性の低い受診を減らして医療費を削減する狙いから、日本維新の会は高齢者の医療保険の自己負担の原則3割化を提案している。
しかしこれについても、高齢者の負担を増加させ、また受診控えによる健康被害が生じるなどの批判があり、議論は進んでいない。日本維新の会が主導してきた社会保険料引き下げは思うように進んでいないのが現状だ。衆院選で社会保険料引き下げを掲げる政党が多く出てきているが、それがすぐに実現に近づく訳ではないだろう。
しかし日本維新の会のそうした取り組みは、必ずしも前進していない。日本維新の会は、市販薬と成分や効能が似ている医療用医薬品のOTC類似薬を保険適用外にして、医療費の削減、医療保険料負担の削減につなげる施策を掲げていた。それを実現できれば、医療給付を1兆円削減できると試算した。
しかし、昨年12月に政府・与党は、このOTC類似薬の保険適用外の見送りを決めた。OTC類似薬を継続的に使う患者の経済的負担が大きくなることや、受診控えによる健康被害が生じるなどの批判に配慮したためだ。
また、現役世代との負担の不公平感をなくすことや、必要性の低い受診を減らして医療費を削減する狙いから、日本維新の会は高齢者の医療保険の自己負担の原則3割化を提案している。
しかしこれについても、高齢者の負担を増加させ、また受診控えによる健康被害が生じるなどの批判があり、議論は進んでいない。日本維新の会が主導してきた社会保険料引き下げは思うように進んでいないのが現状だ。衆院選で社会保険料引き下げを掲げる政党が多く出てきているが、それがすぐに実現に近づく訳ではないだろう。
中低所得層の社会保険料を減らす3つの選択肢
社会保険制度は大きな問題を抱えている。公的年金制度のうち公費が投入されているのは、厚生年金で40%程度、基礎年金で50%、公的医療保険制度では37.5%である。社会保険制度は保険料では維持できず、かなりの規模で公費が充てられているのが現状だ。
その中で、中低所得層の社会保険料を減らすためには、1)給付を削減する、2)高額所得層の社会保険料を引き上げる、3)公費の投入を増加させる、の3つの選択肢がある。
公的年金については、マクロ経済スライドなどの制度が確立されており、大きく修正するのは難しいだろう。そこで、給付の削減余地が大きいのは医療費だと思われる。
しかし、既に見たように、日本維新の会による4兆円の医療費削減の試みも壁にぶつかっている。高齢者の医療費自己負担を引き上げて、公的医療保険の医療費削減を実現させるには、自己負担割合の基準に、所得だけでなく資産を導入する必要があるだろう。退職して所得はゼロになっても、金融資産を多く保有する負担能力のある高齢者には、医療費の自己負担割合を高めてもらうことは検討に値する。ただしそのためには、個人の金融資産、不動産などの資産額を正確に把握する仕組みが必要となる。
その中で、中低所得層の社会保険料を減らすためには、1)給付を削減する、2)高額所得層の社会保険料を引き上げる、3)公費の投入を増加させる、の3つの選択肢がある。
公的年金については、マクロ経済スライドなどの制度が確立されており、大きく修正するのは難しいだろう。そこで、給付の削減余地が大きいのは医療費だと思われる。
しかし、既に見たように、日本維新の会による4兆円の医療費削減の試みも壁にぶつかっている。高齢者の医療費自己負担を引き上げて、公的医療保険の医療費削減を実現させるには、自己負担割合の基準に、所得だけでなく資産を導入する必要があるだろう。退職して所得はゼロになっても、金融資産を多く保有する負担能力のある高齢者には、医療費の自己負担割合を高めてもらうことは検討に値する。ただしそのためには、個人の金融資産、不動産などの資産額を正確に把握する仕組みが必要となる。
高額所得者の社会保険料の上限引き上げ
医療保険、厚生年金では、高額所得者の社会保険料に上限が設定されている。現状では月収65万円以上であれば、保険料は一律5万9,475円である。年収が1億円の人の厚生年金保険料は、月収のわずか0.7%と通常の9.15%と大きな開きがある。高額所得者の保険料の上限を引き上げていくことで、中低所得層の保険料を引き下げていくことは可能だろう。実際、来年からは段階的な引き上げが予定されている。しかし大幅な引き上げには、高額所得者の反発も避けられない。
社会保険料の引き下げを社会保障制度の大きな見直しの中に位置づけるべき
公費の投入割合を増やせば、社会保険料を減らすことも可能となる。しかし公費は税金で賄われることから、社会保険料の削減が増税につながり、手取りは増えないことになる。
そして社会保障の基礎的財源に位置付けられるのは、消費税である。社会保険料を減らせば現役世代の手取りは増えるが、それを全世代の人が負担する構図となる。そこに不公平感も生じるだろう。
また、社会保険料の引き下げを国債発行による公費で賄うと、財政環境が悪化してしまう。また、それは将来世代に負担を転嫁することに他ならない。
このように、各党が掲げる社会保険料の引き下げは簡単なことではない。それを安易に現役世代の手取りを増やす手段と位置付けるのではなく、社会保障制度の大きな見直しの中に位置づける必要があるだろう。そうした幅広い視点から、各党は社会保険料の引き下げを論じて欲しい。
そして社会保障の基礎的財源に位置付けられるのは、消費税である。社会保険料を減らせば現役世代の手取りは増えるが、それを全世代の人が負担する構図となる。そこに不公平感も生じるだろう。
また、社会保険料の引き下げを国債発行による公費で賄うと、財政環境が悪化してしまう。また、それは将来世代に負担を転嫁することに他ならない。
このように、各党が掲げる社会保険料の引き下げは簡単なことではない。それを安易に現役世代の手取りを増やす手段と位置付けるのではなく、社会保障制度の大きな見直しの中に位置づける必要があるだろう。そうした幅広い視点から、各党は社会保険料の引き下げを論じて欲しい。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。