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円安のメリットを強調した発言は個人への配慮を欠いていたか

早くも後半戦に入った衆院選では、高市首相の円安容認発言が注目を集めている。高市首相は「円安だから悪いと言われるが、輸出産業にとっては大チャンスだ。外為特会の運用もホクホク状態だ」と1月31日に発言した。この発言は円安容認と受け止められ、後に「(円安容認ではなく)為替変動にも強い経済構造を作りたい、という趣旨で言ったもの」と釈明に追い込まれることになった。
 
高市首相の発言は、「円安にはプラス面とマイナス面がある」、あるいは「為替の水準や方向性についてはコメントしない」というのが従来の政府の公式見解をやや逸脱した発言である。
 
円安は企業収益や輸出競争力にプラスの面がある一方、物価高を通じて個人にはマイナス面がある。最近の歴史的な物価高で、円安のマイナス面の方が個人にはより意識されるようになった。この点を踏まえると、高市首相の発言は個人への配慮をやや欠いたものと言えるだろう。
 
さらに、ドル高を嫌うトランプ米政権から、こうした高市首相の発言はけん制される可能性も考えられる。
 
一方、高市首相が外為特会に言及した意図は明らかではないが、円安による外為特会の剰余金の増加を消費税減税など経済対策の財源に充てる狙いがあるのだとすれば、それは問題だろう。
 
国民民主党は、外為特会の剰余金などを、積極財政の財源に活用すべきだとこれまでも主張してきた。確かに、外貨の運用利回りと円貨の調達利回りの差から生じる剰余金は、円安の局面では円換算で増加する。
 
しかし、外為特会の剰余金は一般会計(国の歳入)へ繰り入れることが原則となっており、最大7割を一般会計に繰り入れることができる仕組みになっている。外為特会の剰余金を減税や歳出増加などの経済対策に充てれば、その分歳入が減少してしまう。さらに外為特会の剰余金も防衛力強化に充てられている。
 
この点から、外為特会の剰余金を消費税減税の財源に充てても、それは新たな歳入を生み出すわけではない。

外貨準備の為替差益の活用は難しい

また、円安が進めば外為特会が保有する外貨準備の円換算額が膨らむ。この為替差益(含み益)を減税の財源に充てることも従来から主張されてきた。しかし、それを実現させることは簡単ではない。
 
外貨準備の為替差益を使うためには、外貨を売却しなければならないが、それは政府の為替介入に他ならず、他国との調整も必要になる。また、外貨準備の一部を取り崩せば、円買いドル売り介入の原資が減少する。それによって、為替介入の限界が意識され、効果が減じられる恐れがある。
 
外貨準備の外貨を売却せずに、為替差益を担保にした債券を発行して減税の財源に充てるとの主張もされてきたが、実際に外貨を売却して為替差益を確保できないのであれば、それは単なる通常の国債発行による財源確保と変わらなくなるだろう。さらに、為替の変動によって将来の為替差益は大きく変動してしまうことも問題だ。円安のメリットを減税など経済対策の財源に利用することは難しい。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。