不平等な対米投資計画の第1号案件が決定へ
赤澤経産大臣は米国時間12日に、ワシントンでラトニック商務長官と対米投資の第1号案件についての協議を行う予定だ。対米投資とは、昨年7月にトランプ政権が日本に対する自動車関税と相互関税を15%に引き下げることの条件として日本が約束した、米国での5,500億ドルの投資計画のことである。
日本の政府系金融機関が出資、融資、融資保証を行うが、その資金を使い投資を主導するのは、日本企業でなく米国企業になると見られる。また、投資案件を最終的に決定するのはトランプ政権である。このように、対米投資計画は日本にとっては極めて不平等な取り決めだ。
第1号案件として最終候補に残っているとされるのが、ソフトバンクグループが主導するデータセンター向けエネルギープロジェクト、メキシコ湾の深海石油ターミナル、半導体向け人工ダイヤモンドの3つだと報じられている。
この対米投資計画の対象となる分野は、日米政府が交わした「了解覚書(MOU)」の中で、半導体、医薬品、重要鉱物、造船、エネルギー、AI、量子などの「経済安全保障上重要な分野」と明記された。
経済安全保障政策の分野であれば、同盟国の日米双方の利益になりえることから、「不平等条約」との日本国内での批判を回避できると考えたのだろう。実際、この3つの第1号案件候補は、米国の経済安全保障政策に関わる分野に見える。しかしそれが、日本の経済安全保障の強化につながるものかどうかは分からない。
日本の政府系金融機関が出資、融資、融資保証を行うが、その資金を使い投資を主導するのは、日本企業でなく米国企業になると見られる。また、投資案件を最終的に決定するのはトランプ政権である。このように、対米投資計画は日本にとっては極めて不平等な取り決めだ。
第1号案件として最終候補に残っているとされるのが、ソフトバンクグループが主導するデータセンター向けエネルギープロジェクト、メキシコ湾の深海石油ターミナル、半導体向け人工ダイヤモンドの3つだと報じられている。
この対米投資計画の対象となる分野は、日米政府が交わした「了解覚書(MOU)」の中で、半導体、医薬品、重要鉱物、造船、エネルギー、AI、量子などの「経済安全保障上重要な分野」と明記された。
経済安全保障政策の分野であれば、同盟国の日米双方の利益になりえることから、「不平等条約」との日本国内での批判を回避できると考えたのだろう。実際、この3つの第1号案件候補は、米国の経済安全保障政策に関わる分野に見える。しかしそれが、日本の経済安全保障の強化につながるものかどうかは分からない。
中国のシェアが高い人工ダイヤモンドが第2のレアアースとなる可能性も
ところで、第1号案件の候補として特に注目を集めているのが、人工ダイヤモンドの製造である。人工ダイヤはその硬さから、ものを正確に切断できるため半導体や自動車製造などに不可欠な戦略物資となっている。
しかし、この分野では中国が圧倒的シェアを握っており、一部の人工ダイヤの輸出規制をちらつかせているとも言われている。日本や米国にとって、人工ダイヤは経済的威圧の対象となる第2のレアアースとなる可能性があり、中国がその輸出を規制すれば、ハイテク製品の製造に大きな支障が生じる恐れが出てくる。
この件については、中国共産党の官営メディアである環球時報も報じている。米国政府は人工ダイヤの国産化を強く推進していると紹介し、3月に予定される高市首相の訪米に先立って正式発表される見込みだと伝えている。
さらに、この人工ダイヤが半導体の超精密研磨や量子デバイス、軍事用レーダー部品など、軍民両用(デュアルユース)技術に不可欠な戦略物資であるとも解説している。一方で、中国がこの分野で圧倒的なシェア(2024年に世界の生産量の63%)を持っていることから、日米は中国に依存しない独自のサプライチェーン構築を急いでいると指摘している。
日米の協力によって両国が高純度製品や欠陥制御技術などのハイエンド領域で優位性を持つとしつつも、産業クラスターの欠如や高コスト構造という決定的な弱点を抱えていると論じ、日米がサプライチェーンを再構築するには5~10年の歳月と巨額の投資が必要で、現時点ではハイエンド生産ラインの在庫も中国のサプライチェーンに依存せざるを得ない、とした分析を紹介している。
人工ダイヤが第2のレアアースとなってしまうことは、日本企業にとっても大きな脅威である。
しかし、この分野では中国が圧倒的シェアを握っており、一部の人工ダイヤの輸出規制をちらつかせているとも言われている。日本や米国にとって、人工ダイヤは経済的威圧の対象となる第2のレアアースとなる可能性があり、中国がその輸出を規制すれば、ハイテク製品の製造に大きな支障が生じる恐れが出てくる。
この件については、中国共産党の官営メディアである環球時報も報じている。米国政府は人工ダイヤの国産化を強く推進していると紹介し、3月に予定される高市首相の訪米に先立って正式発表される見込みだと伝えている。
さらに、この人工ダイヤが半導体の超精密研磨や量子デバイス、軍事用レーダー部品など、軍民両用(デュアルユース)技術に不可欠な戦略物資であるとも解説している。一方で、中国がこの分野で圧倒的なシェア(2024年に世界の生産量の63%)を持っていることから、日米は中国に依存しない独自のサプライチェーン構築を急いでいると指摘している。
日米の協力によって両国が高純度製品や欠陥制御技術などのハイエンド領域で優位性を持つとしつつも、産業クラスターの欠如や高コスト構造という決定的な弱点を抱えていると論じ、日米がサプライチェーンを再構築するには5~10年の歳月と巨額の投資が必要で、現時点ではハイエンド生産ラインの在庫も中国のサプライチェーンに依存せざるを得ない、とした分析を紹介している。
人工ダイヤが第2のレアアースとなってしまうことは、日本企業にとっても大きな脅威である。
対米投資では日韓で状況が分かれる
多くの問題を抱える日本の対米投資計画であるが、その進捗は比較的順調とも言える。それと対称的なのは、韓国の対米投資計画だ。トランプ大統領は1月26日に、韓国への関税率を合意前の水準に引き上げる、と突然発表した。これは脅しの域を出ていないと思われるが、トランプ大統領が指摘したのは、対米投資計画を巡る法律、「対米投資特別法」の国会審議の遅れだ。
トランプ大統領は、通貨安を招くなどの課題がある対米投資を、韓国側が意図的に遅らせている、との疑念を持っている可能性があるようだ。
実際、11月の中間選挙で与党・共和党が敗れれば、トランプ政権はレームダック化し、対米投資計画も失速してしまう可能性がある。
トランプ大統領は、通貨安を招くなどの課題がある対米投資を、韓国側が意図的に遅らせている、との疑念を持っている可能性があるようだ。
実際、11月の中間選挙で与党・共和党が敗れれば、トランプ政権はレームダック化し、対米投資計画も失速してしまう可能性がある。
米最高裁による相互関税などの合法性判断の前に第1号案件をまとめる考えか
また、2月中にも米最高裁は、相互関税などの合法性の判断を示す。仮に違法判決となれば、相互関税は廃止になる。トランプ政権は、相互関税の税率を引き下げることへの交換条件として日本やその他の国に対米投資を約束させた。従って、相互関税が廃止になれば、対米投資計画がその有効性を失ってしまう恐れがある。そこで、トランプ大統領は韓国での法制化を急がせるために、関税率引き上げで脅しをかけたのではないか。
ところで、対米投資計画を巡る日本と韓国の違いは、韓国は国会で法制化するのに対して、日米間では法制化を行わない取り決めがなされたことだ。そのため、日本の対米投資計画は順調に進んでいるのである。しかし、本来、日本企業を支援する役割の政府系金融機関が米国企業の投資に資金を供給するこの不平等な対米投資計画を、国会で審議しない日本の方が問題なのではないか。
トランプ政権は、相互関税などについての最高裁の判断が出される前に、日本との間で投資計画の第1号案件をまとめ上げ、各国の対米投資計画が後戻りしないように図っている可能性もあるだろう。
(参考資料)
「5500億ドルの対米投資始動へ、エネルギー・半導体など3案件に絞り込み」、2026年2月12日、ブルームバーグ
「日本の対米投資に「人工ダイヤモンド」が浮上、中国に依存しないサプライチェーン構築へ―中国メディア」、2026年1月30日、Record China
「トランプ大統領が対韓関税引き上げ、日本は3月に対米投資計画第一弾を発表」、2026年1月28日、朝鮮日報
ところで、対米投資計画を巡る日本と韓国の違いは、韓国は国会で法制化するのに対して、日米間では法制化を行わない取り決めがなされたことだ。そのため、日本の対米投資計画は順調に進んでいるのである。しかし、本来、日本企業を支援する役割の政府系金融機関が米国企業の投資に資金を供給するこの不平等な対米投資計画を、国会で審議しない日本の方が問題なのではないか。
トランプ政権は、相互関税などについての最高裁の判断が出される前に、日本との間で投資計画の第1号案件をまとめ上げ、各国の対米投資計画が後戻りしないように図っている可能性もあるだろう。
(参考資料)
「5500億ドルの対米投資始動へ、エネルギー・半導体など3案件に絞り込み」、2026年2月12日、ブルームバーグ
「日本の対米投資に「人工ダイヤモンド」が浮上、中国に依存しないサプライチェーン構築へ―中国メディア」、2026年1月30日、Record China
「トランプ大統領が対韓関税引き上げ、日本は3月に対米投資計画第一弾を発表」、2026年1月28日、朝鮮日報
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。