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植田総裁から会談の具体的な内容の言及はなし

2月16日夕刻に、日本銀行の植田総裁と高市首相が2回目となる会談に臨んだ。自民党の歴史的勝利で終わった衆院選の後で初の会談である。
 
会談後に植田総裁は官邸で記者団に語った。植田総裁は、一般的な経済金融情勢の意見交換だったとし、高市首相から金融政策について要望は特になかったと述べた。しかし他方で、具体的な内容についての発言は控えるとした。
 
新政権発足後の1回目の会合は、重要な意味を持つ。石破政権や高市政権の例では、1回目の会合は総裁と首相が初顔合わせをし、そのうえで、日本銀行と政府との間で生じた軋轢を緩和する重要なきっかけとなった。
 
両政権ともに、政権発足直後は、経済への悪影響を警戒し、また政府のデフレからの完全脱却の妨げになるとして、日本銀行の利上げを明確にけん制した。しかし、日本銀行の植田総裁と首相が1回目の会談を行って以降、両政権からの利上げけん制姿勢は収まっていった。
 
高市政権下での2025年11月18日の1回目の会談は、12月の日本銀行の利上げに道を開くきっかけの一つになったと言えるだろう。

2012年衆院選での自民党大勝の経験

2回目以降の会談には、通常では、そのような重要な意味はない。ただし、今回は自民党の歴史的勝利で終わった衆院選後の初会談であることには注意が必要だろう。植田総裁の発言からは明らかにならなかったが、選挙結果を受けて、高市政権の日本銀行の金融政策に対する姿勢に変化が生じたかどうかを、今後も慎重に見極める必要があるだろう。
 
2012年の衆院選で自民党が大勝し、民主党から政権を奪い返した後、当時の安倍首相は日本銀行に対して物価目標の設定、大幅な金融緩和を強く求めた。それらを求める民意が選挙結果に表れた、と暗に主張したのである。そして、衆院選を契機に、それまで政権と対立していた日本銀行は政権に屈する形となり、2%の物価目標設定、政府と日銀の共同声明を受け入れ、「量的・質的金融緩和」へとつながっていった。
 
自民党は今回の衆院選で、当時のように日本銀行の金融緩和維持を公約に掲げなかった。そのため、選挙結果が金融緩和継続に対する民意を反映したとの主張は成り立たない。
 
それでも、選挙での大勝を受けて、高市首相が日本銀行に対する強気の姿勢に戻り、早期の利上げに再び難色を示す可能性は考えられるだろう。会合後の植田総裁の会見にそうした点は明確に表れなかったが、今後の高市首相の金融政策についての発言に変化が見られるかどうかについては、十分に注視していきたい。

衆院選とGDP統計の影響を注視

いずれにしても、衆院選は日本銀行の利上げ時期を後ずれさせる要因になると考える。本日発表された2025年10-12月期GDP統計で実質GDP成長率が事前予想を大きく下振れたことも、高市政権の積極財政姿勢を後押しする一方、日本銀行の利上げへの慎重姿勢を強める可能性があるだろう。
 
さらに、2月以降、消費者物価上昇率(除く生鮮食品)が前年同月比で+1%台まで低下する可能性が見込まれるが、それも日本銀行の利上げをしばらくは慎重にさせるとともに、高市政権は物価下振れを理由に再び利上げをけん制する要因になることも考えられる。
 
こうした点から、金融市場の早期利上げ観測は今後次第に後退していき、実際の利上げ時期は今年後半になると見ておきたい。
 
ちなみに、16日の国債市場では、30年、40年の超長期国債の利回りは久しぶりに大きく上昇した。これは、GDP成長率の下振れを受けて、高市政権が積極財政姿勢を強めるとの観測が再び浮上したためだ。超長期国債は、財政環境を反映しやすい。
 
他方、10年国債利回りは低下した。GDP成長率の下振れによって、日本銀行の利上げが遅れるとの観測を反映したものと考えられる。為替市場では寄り付きの1ドル152円台から153円台まで1円近くドル高円安が進んだ。これは、積極財政政策期待によって通貨の信認が低下したことと、日本銀行の早期利上げ期待がやや後退したことの影響が重なったためと考えられる。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。