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金融市場は消費税減税の財源確保を懸念

高市首相が18日に召集される国会で臨む施政方針演説の原案が、各種報道により明らかになってきた。その内容が現在報道されている通りなのであれば、既に高市首相が記者会見などで明らかにしている範囲にとどまる。
 
17日には10年国債利回りが大幅に下がっており、これは金融市場での日本銀行の早期利上げ観測の後退とともに、財政悪化懸念の緩和を反映している可能性がある。こうした金融市場の期待の変化を追認させる内容になるか、それとも再び財政悪化懸念を高めることになってしまうかが、施政方針演説の大きな注目点となる。
 
原案では、2年限定で飲食料品の消費税率をゼロにする案について、「検討を加速する」と改めて表明する。超党派の「国民会議」で夏前に中間取りまとめを行い、税制改正関連法案の提出を急ぐ考えを示す。これは、秋の臨時国会への法案提出を想定したスケジュールと考えられる。
 
また、飲食料品については特例公債に頼らない考えを改めて表明し、財政悪化につながらないようにする姿勢を示す。ただし、金融市場は財源の確保が難しいと考えており、財源が確保できない場合には飲食料品の消費税率ゼロを断念するのか、それとも財源が確保できなくても飲食料品の消費税率ゼロにするのか、政府の姿勢を知りたいと考えている。この点について演説で何らかの示唆があるかどうかも注目される。
 
また金融市場は、飲食料品の消費税率ゼロを2年間で終えることはかなり難しいと考えており、税率を戻すことができずに減税が恒久措置になってしまう場合の財源の選択肢についても知りたいところだ。

金融市場は積極財政による財政改善に納得していない

施政方針演説で高市首相は、財政悪化、財政の持続性に対する金融市場の懸念を緩和することも目指すだろう。高市首相は、「責任ある積極財政」を、政府の積極投資を通じて成長率を高め、それを税収増加につなげて、最終的には財政環境の改善に結び付ける、と説明している。積極財政を実施しながら、財政も改善できるというのは非常に魅力的な考えであるが、金融市場がそれを納得して受け入れていないことは、長期金利が上昇を続けてきたことから明らかだ。金融市場が、積極財政で財政再建が容易に実現できると考えるならば、昨年10月の高市政権発足以降、長期金利は低下してきたはずだ。
 
積極財政で財政再建ができるとの主張は、米国のレ-ガン政権や自民党内の「上げ潮政策」でも主張されたが、それが実現できた試しはない。

政府債務残高のGDP比率は再び上昇へ

演説で高市首相は、金融市場の財政悪化の懸念に対しては、成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高のGDP比率を引き下げる、と主張し、「財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保していく」と説明する。これは、政府債務残高の名目GDP比率が過去数年頭打ちになっていることから、比較的達成可能な目標であると高市政権は考えているためではないか。
 
しかし実際には、それは、急速な物価上昇で分母の名目GDPが膨らんでいることによる一時的な現象と考えられる。今後物価上昇率が低下していけば、プライマリーバランスが赤字のもとでは、比率は再び上昇し、財政の持続性に対する金融市場の懸念は強まっていくだろう。仮に物価上昇率が低下しなければ、長期金利が上昇して利払い費が増加し、それを含む分子の政府債務残高が増加することで、やはり比率は再び上昇する。
 
金融市場の財政への懸念を低下させるためには、言葉による説明だけでは十分でなく、具体的な施策で中長期的な財政健全化の姿勢を示す必要がある。そうした点が施政方針演説に盛り込まれることを期待したい。

複数年度の予算編成

日本経済新聞は、施政方針演説で高市首相が、危機管理投資の予算について多年度で、別枠で管理する仕組みを導入する考えを演説で表明すると報じている。
 
単年度主義の弊害を是正するため、複数年度の予算を編成する試みは、石破前政権のもとでも実施されてきたことだ。ただし、複数年度予算編成では、予算の執行状況が十分にチェックされないことから、無駄な支出につながりやすいという問題がある。その代表例が基金である。
 
昨年年末に会計検査院が公表した会計検査の結果によると、2023年度末の基金の残高は合計約20兆4,157億円に上った。会計検査院の今回の検査結果では、所要額を十分に考慮せずに基金の積増し額を算定していたものが4基金あった。また、基金法人については、使い残しが顕著な基金が36もあったという。これを踏まえて、会計検査院は、基金の不要な積増しや不適切な管理実態を指摘し、規模の見直しや使用する見込みのない資金の国庫返納を求めている。
 
世間で基金への批判が高まるなか、政府もそれに対応してきた。2023年末には基金に厳しいルールをつくり、2024年度補正予算では新設基金をゼロにした。ところが、積極財政を掲げる高市政権のもと、2025年度補正予算では7基金が新設されたのである。
 
高市政権が想定する危機管理投資の多年度予算化が、基金を利用する枠組みであるかどうかは分からない。しかし、いずれにせよ基金と同様に、不要な積増しや不十分な管理などの問題を生むリスクがあるのではないか。そうなることを避けるための仕組みについてもしっかりと構築し、演説で示して欲しい。
 
(参考資料)
「高市首相の施政方針案が判明―食品消費税ゼロへ法案提出」、2026年2月17日、共同通信ニュース
「成長・危機管理投資、複数年度の別枠予算に 高市首相の施政方針原案」、2026年2月17日、日本経済新聞電子版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。