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2月26日に厚生労働省が発表した人口動態統計の速報値によると、日本で2025年に生まれた子どもの数(外国人を含む)は、前年比2.1%減の70万5,809人となった。出生数は比較可能な1899年以降で最も少なく、この10年間で3割も減った。
 
国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した将来推計人口では、外国人を含む出生数が70万人台となるのは2042年とされていたが、実際にはそのタイミングは大幅に早まった形である。
 
日本の出生率(合計特殊出生率)は、最新の公表データ(2024年)で1.15である。これは、人口を維持する目安である約2.07を大きく下回る過去最低水準であり、前年の1.20からさらに低下した。
 
出生率の低下の理由の一つは、婚姻数の低下だ。今回の人口動態統計によると、2025年の婚姻数は前年比1.1%増の50万5,656組と、3年ぶりに50万組を上回った。増加は2年連続である。これは、コロナ禍の影響で大きく落ち込んだ反動がみられる。
 
しかし、婚姻率の上昇が出生率の上昇に直結する保証はない。「博報堂キャリジョ研プラス」の10~30代の未婚女性への調査によると、「結婚しても妊娠・出産するとは限らない。産むかどうかは自分で決めたい」との回答は78.5%に上ったという。
 
岸田政権は2023年に異次元の少子化対策を表明した。児童手当の大幅拡大を特徴とする少子化対策を実施したが、その効果は今のところ明確に確認できていない。一時的な給付ではなく、所得環境がこの先持続的に改善していくとの期待が、婚姻率と出生率を押し上げるのではないか。
 
他方、出生率の上昇、出生数の増加は、企業の将来の成長期待を高め、設備投資を促し、潜在成長率を高める。それによる将来の経済・所得環境の改善期待が出生率を押し上げるだろう。
 
このように、出生率と成長率の間には好循環が生じ得る。この点から、政府は少子化対策を成長戦略の中に位置づけ、好循環の実現を図ることが重要だ。
 
先日の施政方針演説で高市首相は、「少子化・人口減少は、我が国の活力を蝕(むしば)んでいく「静かな有事」です。少子化傾向を反転させるための対策を強化します」と述べた。
 
そのうえで、強い経済の実現により、若い世代の所得を増加させていくこと、子供・若者政策や子育て支援に加え、妊婦健診や出産に係る費用など、妊娠・出産に伴う経済的負担を軽減することを掲げた。
 
しかし高市政権の少子化対策は、政策全体の中での優先順位は必ずしも高くないように感じられる。少子化対策が奏功し、将来の人口見通しが改善すれば、それは企業の投資意欲を高め、日本経済の潜在力の向上に大いに貢献する可能性がある。この点から、少子化対策を成長戦略の第1の柱に位置付けて欲しい。
 
さらに少子化対策には、政府の予算計上を伴う施策だけでなく、従業員の出産・育児を強く支援する企業風土の醸成なども重要であり、政府はその点にも注力すべきだ。
 
(参考資料)
「2025年の出生数70.5万人 少子化は推計より17年早く、人口減も進行」、2026年2月26日、日本経済新聞電子版
「出生数回復阻む「2人目の壁」 25年結婚数、3年ぶり50万組超えでも」、2026年2月26日、日本経済新聞電子版

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。