イラン情勢の緊迫化を受けて、世界の金融市場は危機モードに入ってきた。3日の米国市場でダウ平均株価は一時1,200ドルを超える大幅下落となった。イラン情勢の混乱が長期化するとの懸念から、WTI原油先物価格が一時1バレル78ドル近くと、先週末から10ドル以上の上昇になったことを受けたものだ。
3月3日の東京市場で日経平均株価は一時1,900円を超える大幅下落となった。2日連続での大幅な株価下落である。米国の株価下落を受けて、4日の日経平均株価は3日連続の大幅下落となる可能性が高まっている。
2日に低下した国内の10年国債利回りは、3日にはやや上昇したが、これは米国市場の利回り上昇の影響を受けた側面が強く、リスク資産である株式市場から安全資産である国債などに資金が逃避する、「リスクオフ」の流れが引き起こされていると考えられる。安全資産の金も買われている。
そうした中、やや予想外の動きを見せているのが為替市場だ。金融市場でリスクオフの傾向が強まる際には、為替リスクを伴う海外資産から安全資産である日本国債に資金が移動することなどから、円高傾向が強まることが多い。しかし今回は、イラン情勢の緊迫化を受けて、ドル円レートは先週末の1ドル156円程度から157円台まで円安が進んでいる。
予想外に円安が進んだ背景には、主に3つの理由が考えられる。第1に、イラン情勢の緊迫化によって日本銀行の利上げが後ずれする、との観測が強まっていることだ。原油価格の上昇は物価を押し上げるが、それ以上に、日本銀行は経済への悪影響を懸念して利上げに慎重にならざるを得ないだろう。
また高市政権も、景気の下振れリスクが高まる中では、日本銀行の利上げを再びけん制する可能性が強まるだろう。
第2に、政府が新たな物価高対策を打ち出し財政環境が悪化するとの見方も、円安の要因となっていると思われる。ガソリン価格が上昇すれば、昨年末にかけて段階的に廃止したガソリン補助金を政府は再び復活させる可能性がある。また価格の上昇がその他の品目に広がりを見せる場合には、給付金も検討するだろう。
ただし、物価高対策は、物価高で特に打撃を受ける低所得者に絞った支援とし、全体の財政負担を抑えることが必要だろう。
イラン情勢の悪化で、高市政権が赤字国債を発行してでも飲食料品の消費税率を2年間引き下げることを断行するとの観測も、リスクオフによる円高要因を凌駕する円安の背景になっている可能性もある。
実際には、消費税率引き下げへの影響は不確実だ。原油価格上昇による景気の下振れと物価上昇率の上振れは、物価高対策の必要性を再び高め、消費税率引き下げの議論を後押しする可能性が考えられる。
しかし一方で、実施までに時間がかかり、物価上昇に対して迅速に対応できないという消費税率引き下げの弱点も浮き彫りになることから、当面の対策では給付金が実施され、より抜本的な物価高対策として、給付付き税額控除の導入を急ぐべき、との意見が強まり、消費税率引き下げの議論が後退する可能性もあるのではないか。
第3に、原油価格の上昇は日本の貿易収支を悪化させ、円安要因になる。エネルギーを海外に依存する日本経済の弱点が再び明らかになったとの見方も、円の価値を下げている可能性が考えられる。
しかし、リスクオフで株価が大きく下落する中で、円安が持続する可能性は高くないのではないか。また、ドル円レートが1ドル160円の政府の防衛ラインに近づけば、政府は為替介入の準備を始めるだろう。160円前後の壁は、当面、厚いと考えておきたい。
しかし、仮に1ドル160円を突破して円安が進む事態となれば、海外での原油価格上昇に円安の影響が加わり、国内物価の上昇は増幅される。それは、国内の消費活動に大きな打撃を与えるだろう。
3月3日の東京市場で日経平均株価は一時1,900円を超える大幅下落となった。2日連続での大幅な株価下落である。米国の株価下落を受けて、4日の日経平均株価は3日連続の大幅下落となる可能性が高まっている。
2日に低下した国内の10年国債利回りは、3日にはやや上昇したが、これは米国市場の利回り上昇の影響を受けた側面が強く、リスク資産である株式市場から安全資産である国債などに資金が逃避する、「リスクオフ」の流れが引き起こされていると考えられる。安全資産の金も買われている。
そうした中、やや予想外の動きを見せているのが為替市場だ。金融市場でリスクオフの傾向が強まる際には、為替リスクを伴う海外資産から安全資産である日本国債に資金が移動することなどから、円高傾向が強まることが多い。しかし今回は、イラン情勢の緊迫化を受けて、ドル円レートは先週末の1ドル156円程度から157円台まで円安が進んでいる。
予想外に円安が進んだ背景には、主に3つの理由が考えられる。第1に、イラン情勢の緊迫化によって日本銀行の利上げが後ずれする、との観測が強まっていることだ。原油価格の上昇は物価を押し上げるが、それ以上に、日本銀行は経済への悪影響を懸念して利上げに慎重にならざるを得ないだろう。
また高市政権も、景気の下振れリスクが高まる中では、日本銀行の利上げを再びけん制する可能性が強まるだろう。
第2に、政府が新たな物価高対策を打ち出し財政環境が悪化するとの見方も、円安の要因となっていると思われる。ガソリン価格が上昇すれば、昨年末にかけて段階的に廃止したガソリン補助金を政府は再び復活させる可能性がある。また価格の上昇がその他の品目に広がりを見せる場合には、給付金も検討するだろう。
ただし、物価高対策は、物価高で特に打撃を受ける低所得者に絞った支援とし、全体の財政負担を抑えることが必要だろう。
イラン情勢の悪化で、高市政権が赤字国債を発行してでも飲食料品の消費税率を2年間引き下げることを断行するとの観測も、リスクオフによる円高要因を凌駕する円安の背景になっている可能性もある。
実際には、消費税率引き下げへの影響は不確実だ。原油価格上昇による景気の下振れと物価上昇率の上振れは、物価高対策の必要性を再び高め、消費税率引き下げの議論を後押しする可能性が考えられる。
しかし一方で、実施までに時間がかかり、物価上昇に対して迅速に対応できないという消費税率引き下げの弱点も浮き彫りになることから、当面の対策では給付金が実施され、より抜本的な物価高対策として、給付付き税額控除の導入を急ぐべき、との意見が強まり、消費税率引き下げの議論が後退する可能性もあるのではないか。
第3に、原油価格の上昇は日本の貿易収支を悪化させ、円安要因になる。エネルギーを海外に依存する日本経済の弱点が再び明らかになったとの見方も、円の価値を下げている可能性が考えられる。
しかし、リスクオフで株価が大きく下落する中で、円安が持続する可能性は高くないのではないか。また、ドル円レートが1ドル160円の政府の防衛ラインに近づけば、政府は為替介入の準備を始めるだろう。160円前後の壁は、当面、厚いと考えておきたい。
しかし、仮に1ドル160円を突破して円安が進む事態となれば、海外での原油価格上昇に円安の影響が加わり、国内物価の上昇は増幅される。それは、国内の消費活動に大きな打撃を与えるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。