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イラン情勢は、トランプ政権の当初の想定から乖離してきていると思われる。その一つは、イランが周辺諸国に対して予想外に強力な攻撃を展開していることだろう。
 
イランはイスラエル、湾岸諸国(カタール、UAE、バーレーン、クウェート、サウジアラビア等)、イラク、ヨルダン、オマーン、キプロスなど、米軍基地や関連施設がある国々に対して、ミサイル、ドローン攻撃を実施している。
 
湾岸地域のアラブ諸国は、米軍と統合された迎撃ミサイルやレーダーを備えており、世界で最も先進的な防空システムを配備していると言われる。それでも、イランからのミサイル、ドローンを迎撃するミサイルを使い果たしてしまう可能性が指摘されている。
 
ミサイル1発を撃墜する際には、通常、2発から3発の迎撃ミサイルが必要となるとされる。今回の戦闘が生じる前に、イランは湾岸諸国に到達可能なミサイルを2,000発以上保有していたと推定されている。他方、UAEが保有する迎撃ミサイルは1,000発に満たず、クウェートは約500発、バーレーンは100発未満との推定がある。
 
湾岸諸国は米軍の迎撃ミサイルによっても防衛されている。しかし過去4年間にわたるウクライナ戦争で、ロシアの攻撃に対応する防空システムのために米国が保有するパトリオットの大部分が使われたことなどから、湾岸諸国には十分に配置されていない可能性が考えられる。
 
そうした中、湾岸諸国は迎撃ミサイルを温存する必要が出てきた。つまり、イランからのミサイルに迎撃ミサイルを使う一方で、大量のドローン攻撃には使わないとの選択である。その結果、ドローンの着弾を許すことで、湾岸諸国には被害が広がることになる。それは、海外からの投資、企業誘致、観光などに大きな打撃を与え、湾岸諸国の経済に長期間、悪影響を与える可能性がある。
 
さらに、米軍に基地を供給する一方、米国とイスラエルのイラン攻撃をきっかけに自国が攻撃の対象となっても米国は助けてくれないという状況になり、米国と湾岸諸国の関係が悪化する可能性もある。これは、米国によるイラン攻撃遂行の障害になる可能性があるのではないか。
 
米国がイランのミサイル設備を攻撃すれば、周辺国へのミサイル攻撃を減らすことはできるかもしれないが、安価で大量の製造が可能なドローンによる攻撃を止めることは難しいのではないか。
 
湾岸諸国がイランのドローン攻撃の標的になる中で、石油関連施設の被害が広がれば、原油価格のさらなる上昇を招くだろう。イランに対する湾岸諸国の防衛力も、戦況や原油市場、金融市場を大きく左右する要素だ。
 
(参考資料)
“Gulf States in Race Against Time to Repel Iran’s Onslaught(イランの波状攻撃、湾岸諸国は時間との戦い)”, Wall Street Journal, March 3, 2026

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。