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野村総合研究所と
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9日の東京市場では原油価格の上昇が続き、WTI原油先物価格は1バレル120ドルの水準に接近した。原油価格が仮に1バレル120ドルの水準を今後維持する場合、国内のガソリン価格は1リットル282円となり、実質GDPを1年間で0.47%押し下げ、物価を0.83%押し上げる計算となる。
 
原油価格の上昇は日本株の大幅下落を生じさせ、金融市場は危機モードとなってきた。そうした中、原油価格の上昇と株価の下落に歯止めをかけたのは、G7が9日の緊急会合で石油備蓄の共同放出を協議する、とフィナンシャルタイムズ紙が報じたことだ。このニュースは、ドル高の流れにも歯止めをかけ、対ドルで円はやや持ち直した。
 
しかし、G7が石油備蓄の共同放出を実施しても、イラン情勢の悪化が続く中では、原油価格の上昇を持続的に抑える効果は期待できないだろう。
 
日本には石油の国家備蓄が約146日分、民間備蓄が約101日分、産油国共同備蓄が約7日分、合計で約254日分ある。ただし、民間備蓄は原油から石油関連製品を製造する過程にあるものであり、緊急事態に備えた備蓄というよりも通常の在庫と考えるべきだ。この民間備蓄を除けば153日分、およそ5か月分となる。
 
G7の石油備蓄量は、約35億バレル~約39.2億バレルと考えられる。一方、IEAのOil Market Reportによると、世界の原油消費量は日量102~103百万バレルである。G7の石油備蓄の総量は、この世界の原油消費量の34~38日程度に相当すると考えられる。
 
これは相応の規模とも考えられるが、原油価格の上昇を抑えるためではなく、原油の調達が困難になるような緊急事態の際に企業に原油を供給し、経済活動を維持することが石油備蓄の目的だ。この点から、G7が石油備蓄の共同放出を行うとしても僅かな量にとどまるのではないか。
 
その場合、為替介入と同様に原油市場に心理面を通じて一時的な影響を与えることは可能であっても、需給関係に大きな影響を与えて、持続的に原油価格を押し下げることはできない。これも為替介入と同様であるが、抜本的な原油高対策ではなく、原油価格の上昇を短期間抑える「時間稼ぎ」の施策となるだろう。
 
基本的には、イラン情勢が安定化し、原油供給の支障が大きく緩和される状況とならない限り、原油価格の顕著な下落は生じないだろう。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。