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対米投資第2弾は、原発、液晶・有機ELディスプレイなど3事業が有力候補に

日本が相互関税の引き下げとの交換でトランプ政権と合意した5,500億ドルの対米投資計画は、米最高裁の違憲判断で相互関税が失効したことで、その根拠を失った。
 
しかし、関税策による成果の一つとして海外からの投資拡大を国民にアピールしたいトランプ政権は、米最高裁の判決が下される前に投資の実績作りを進めた。
 
2月下旬に日米両政府は、対米投資計画の第1弾として、ガス火力発電や原油輸出の施設整備、人工ダイヤモンド製造設備の3件を決めた。事業規模は計360億ドル(約5兆6千億円)である。
 
その後、米最高裁が相互関税などを違憲とした判決を下したが、トランプ政権との関係悪化を避ける必要から、日本政府は対米投資計画を継続する考えを明らかにした。さらに、3月19日に計画されている日米首脳会談で両国の協調を確認する観点からも、第2弾の検討が両国間で進んでいる。
 
読売新聞によると、対米投資の第2弾については、原子力発電所の建設、液晶・有機ELディスプレイ製造、銅精錬の3事業が有力候補となっているという。3事業の投融資の総額は1,000億ドル(約15兆円)を超えて、第1弾の360億ドルと合わせた事業規模は、5,500億ドルの投資計画全体の4分の1程度に早くも達する可能性がある。
 
このうち最も規模が大きいのは原発建設で、米ウェスチングハウス製の原子炉を10基建設する案が浮上しているという。日本企業は関連機器の供給などで参画するとみられている。銅精錬については数千億円規模で、米企業が主導する見込みとされる。
 
一方、液晶・有機ELディスプレイについて日本政府は、官民ファンド(旧産業革新機構)主導で誕生したジャパンディスプレイ(JDI)に米国での最先端ディスプレイ工場の運営を打診している、と日本経済新聞が報じている。事業規模130億ドル(約2兆円)が見込まれているという。

米国主導で日本側の利益は不透明

対米投資計画については、両国の覚書で、その対象は経済安全保障分野と明記されている。経済安全保障分野で両国は連携していることから、米国にとっての経済安全保障政策の強化に資する投資は、日本の経済安全保障政策の強化に資するとの考え方だ。
 
しかし、第1弾の3つの案件についても、経済安全保障分野とは言えない。人工ダイヤモンド製造設備への投資については、米国が人工ダイヤモンドの中国への依存度の低下を図る目的であることから、米国の経済安全保障政策の強化にはつながるが、日本の経済安全保障政策の強化にはつながるかどうかは不明確だ。米国で製造される人工ダイヤモンドが、将来、日本に優先的に供給される取り決めはないだろう。
 
第2弾案件の原子力発電所の建設、液晶・有機ELディスプレイ製造、銅精錬の3事業についても、経済安全保障分野とは必ずしも言えない。さらに、日本の経済安全保障政策の強化につながるかどうかはさらに不透明だ。
 
実際には、対米投資計画は、経済安全保障分野に対象を限ったものではなく、米国の製造業の復活など、米国に利益をもたらす案件に偏っていると感じる。案件の最終決定もトランプ大統領が行う。
 
他方、日本の政府系金融機関が融資、融資保証、投資を通じて、資金面で投資を支える。不平等な取り決めである一方、日本にとってのメリットが明確でないことが大きな問題だ。
 
日本政府は、投資は米国との間でWin-Winの関係であることをアピールする狙いから、米国主導の投資計画に日本企業をできるだけ関与させるように働きかけているのではないか。それが、投資決定のプロセスを遅らせている可能性も考えられる。
 
一方、米国主導の投資計画に日本企業の関与を強いれば、投資による日本企業のリターンが大きくない一方、リスクが大きくなってしまう恐れもあるだろう。日本の政府系金融機関の融資、融資保証、投資がリスクに晒されれば、それは日本国民の負担になる可能性もあるなど、問題点は多い。
 
(参考資料)
「対米投資第2弾15兆円、「原発建設」「液晶・有機ELディスプレー製造」「銅精錬」が有力」、2026年3月7日、読売新聞速報ニュース
「対米投資でJDI工場 政府が運営打診 2兆円規模、採算課題」、2026年3月8日、日本経済新聞 
「米関税15%「日本除外を」 経産相、商務長官に要請 対米投資第2弾も協議」、2026年3月8日、産経新聞

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。