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野村総合研究所と
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3月16日(月)に民間石油備蓄の放出が始まった。これが15日間続いた後、政府の公的備蓄の放出が1か月間程度行われる。さらに、19日(木)にはガソリン価格の上昇を全国平均レギュラーで1リットル170円程度までに抑える政府のガソリン補助金制度が開始される。この2つの政策によって、原油、ガソリンが不足するとの懸念などから先週生じた社会的な混乱は収束に向かうことが予想される。
 
ただし、ガソリン価格がいつ170円程度で安定するのかは不確実だ。ガソリンスタンドでのガソリン小売価格は、基本的には週単位で変更されると考えられる。主要元売り業者の多くは水曜日に、翌日から1週間分のガソリンスタンドへの卸売価格の変動幅を決める。ガソリンスタンドに新たな価格で売られ、消費者がそれを購入するのは概ね木曜日になると考えられる。
 
先週は、元売り業者が決めるガソリンの卸価格が11日(水)に1リットル当たり26円引き上げられたと報じられた。それが翌日12日(木)にガソリンスタンドで販売が始められ、20円~30円値上げするガソリンスタンドが相次いだ。一部では190円台も見られた。
 
主要な元売り業者は、海外での原油価格とドル円レートから、ガソリンの新たな卸売り価格を毎週水曜日に決める。円建ての原油輸入価格が石油精製のコストであることから、そのコストをガソリンの卸売価格に迅速に反映させる方式だ。
 
ただし、通常は、過去1週間程度の円建て原油価格の平均から将来のガソリン卸売価格の目標値を定め、1か月程度の時間をかけて緩やかに価格を調整していくのが普通と考えられる。この点から、1週間で26円もの大幅な卸売価格引き上げとなったのは異例なことだろう。
 
政府のガソリン補助金を通じた価格安定の効果は大きく、ガソリン価格は比較的早期に全国レギュラーの平均で、1リットル170円程度で安定すると考えられる。しかし、何日から170円程度になるのかまでは分からない。それは、元売り業者の価格設定行動に左右されるからだ。
 
重要なのは、政府がガソリン補助金を始めるのが19日(木)と、主要な元売り業者が1週間分のガソリンの新たな卸売り価格を決める翌日だということだ。元売り業者が翌日に始まるガソリン補助金を反映しない形で18日(水)に卸売り価格を決める場合には、来週の水曜日、つまり25日(水)まではガソリン価格は高止まりし、26日(木)からガソリンスタンドでの価格は大幅に下がることになる。
 
他方、翌日から始まるガソリン補助金の効果を織り込んで18日(水)に元売り業者が卸売価格を低めに設定したり、慣例を破って19日(木)以降に卸売価格を引き下げる場合には、26日(木)以降、ガソリン価格はかなり低下する可能性がある。
 
そうでない場合には、ガソリン価格の顕著な低下は、26日(木)からとなるだろう。すべては、元売り業者の価格設定の考え方次第となる。
 
ただし、元売り業者から高値で仕入れたガソリンを売り切るまでは小売価格を下げないガソリンスタンドがしばらく残る可能性を考えると、全国のガソリンスタンドでのガソリン価格が平均170円程度で揃ってくるのは、今月末になることも考えられるところだ。
 
政府のガソリン補助金は、元売り業者が設定するガソリン価格が小売り段階で1リットル170円程度になることを目指して実施される。今までの慣例であれば、元売り業者は海外の原油価格と為替レートから円建ての輸入原油のコストを踏まえてガソリンの卸売り価格を決める。海外で原油価格の上昇が続けば、国内ガソリンの実勢価格は上昇を続け、政府の補助金額は膨らみ続ける。ガソリンの実勢価格が1リットル200円の場合には、170円との差である30円分、政府は補助金を毎日出し続ける必要がある。1日のガソリンの消費量が1.2億リットル程度と考えられることから、補助金の額は36億円となる。他方、政府が現時点で確保している予算は2,800億円だ。78日でその予算を使い果たしてしまう計算になる。さらに灯油、軽油、重油も補助金の対象になる。片山財務大臣によれば、1か月で補助金総額は3,000億円程度になる見通しだという。この場合、現在の予算は1か月もたないことになる。その場合には、予備費などが活用されようが、際限なく補助金に予算を使うことはできない。原油価格の高騰が続く場合、2か月程度後には、政府はガソリン補助金制度を見直し、1リットル180円、あるいは190円などの水準までガソリン価格の上昇を認めざるを得なくなる可能性もあるのではないか。当面は、ガソリン価格は1リットル170円前後で安定する可能性が高いが、原油価格次第では再び上昇する余地もあるだろう。
 
他方、元売り業者が今後、ガソリンの実勢価格をどのように決めるかについては不確実性が高い。現在の海外の原油価格と為替レートから卸売り価格を決めるのは、3週間後などに原油が輸入された際の円建ての輸入原油のコストを前倒しでガソリン価格に反映するためだ。しかし、ホルムズ海峡から運ばれる原油は、今週末が当面最後となる。ホルムズ海峡を経由しない原油の輸入は続くが、その割合は2割程度と低いだろう。こうした現状下では、従来の価格設定方式の妥当性が問われる可能性もあるのではないか。
 
他方、今後、石油精製の大部分に利用される政府が放出する公的原油備蓄は、1か月前の産油国の原油価格の平均になるという。石油精製業者にとって、原油のコストは低めになる。それは、1リットル当たりのガソリン価格150円台に概ね相当するのではないか。
 
原油輸入が大幅に減少するという前代未聞の事態で、石油元売り業者がどの水準にガソリンの卸売り価格を設定するかは見通せない。ただし、それによって、ガソリン補助金の額や補助金制度の持続性なども大きく影響を受けることになるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。