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年内1回の利下げというFOMC見通しは変わらず

米連邦準備制度理事会(FRB)は、18日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、大方の予想通りに政策金利の据え置きを決めた。トランプ大統領の経済アドバイザーであるミラン理事のみが、0.25%の利下げを主張して政策金利据え置きの決定に反対した。
 
今回は、原油価格高騰を受けたFOMC、そしてパウエルFRB議長の説明に注目が集まっていた。FOMC参加者の見通しでは、今年年末時点での政策金利(フェデラルファンド金利の誘導目標)の予測中央値は3.4%と、昨年12月の前回と変わらなかった。また、今年10-12月期の個人消費支出物価指数(PCE)は前年同期比+2.7%と、前回から+0.3%ポイント引き上げられた。
 
物価見通しの上方修正幅は想定以内であり、また、政策金利を年内1回引き下げるとの見通しも前回と変わらない。これらの点は、イラン情勢を受けた原油価格高騰が、FRBの金融政策姿勢に大きな影響を与えていないことを示しているように見える。

物価見通しが改善しなければ利下げはない

しかし実際には、FRBは現時点ではなお、イラン情勢、原油価格高騰の経済への影響を見極めることはできていない、というのが実情だろう。パウエル議長は記者会見で、「中東情勢が米国経済に与える影響は不透明だ」「経済への潜在的な影響の範囲と持続する期間を知るには時期尚早だ」と述べた。
 
他方で「(物価見通しに)進展が見られなければ、利下げはないだろう」と利下げの慎重姿勢を示す、やや踏み込んだ発言をした。金融市場はこの発言に反応し、利下げ観測が後退して株安が進むとともに、ドル高と債券安も進んだ。
 
原油価格高騰といったサプライショックは、物価上昇率を押し上げるとともに景気を下振れさせることから、中央銀行の政策対応は概して難しい。通常は、当面様子見姿勢をとるのが定石だ。
 
他方でパウエル議長は、「参加者の大多数は利上げを基本シナリオとは見ていない」と述べ、次の政策変更が利上げ方向となる可能性は低いことも示した。

議長退任後もトランプ大統領と戦う姿勢のパウエル議長

次回FOMCは4月28~29日に開かれるが、5月15日に任期満了を迎えるパウエル議長にとって最後のFOMCとなる。イラン情勢を受けて金融市場が大きく混乱するようなことでも起こらない限り、政策金利は据え置かれる可能性が高い。
 
パウエル議長は今年5月15日に議長職の任期満了を迎えるが、理事職の任期は2028年1月31日まで残されている。パウエル議長は記者会見で「捜査が終わり、結果が透明性を持って確定するまで理事職を去るつもりはない」と述べ、捜査終了までは理事職にとどまる考えを示した。これは、議長職を退任する時点で理事職も辞するという従来の慣例を破るものだ。
 
パウエル議長が理事職も辞めれば、トランプ大統領はその後任に利下げ積極派を充て、FRBへの政治介入をさらに強めることになる。パウエル議長はそれを阻み、議長をやめてもなおトランプ大統領と戦う構えである。理事にとどまれば、トランプ大統領の任期が終わるまで、戦い続けることも可能となる。

年後半複数回の利下げの可能性も

FRB議長は理事の中から指名される。トランプ大統領が指名したウォーシュ氏は理事ではないが、ミラン理事の後任として指名されている。ミラン理事は今年1月に任期が満了しているが、後任が決まるまではその職を続ける。そして、ウォーシュ氏が上院で、FRBの理事と議長の双方について承認された時点で、ミラン理事は退任となる。
 
トランプ大統領の息がかかったハト派のミラン理事がウォーシュ氏に代わることから、FRB内での金融政策決定における勢力図には変わりはない。FRB本部理事7人のうち、3人がハト派という構成が続く。
 
今後のFRBの金融政策は、イラン情勢を受けた原油価格高騰の経済への影響とともに、ウォーシュ新議長のもとでの政治の影響が注目される。原油価格高騰による経済への悪影響が、現在燻ぶっているプライベートクレジット問題をより深刻にさせる可能性と政治的影響力の高まりを踏まえると、年後半には複数回の利下げが見込まれる。
 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。