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補助金によるガソリン価格は低下

政府は3月19日にガソリン補助金を開始した。ガソリン補助金は、レギュラーガソリンの全国平均価格のうち170円(1リットル当たり、以下同様)を超える部分について補助を行うものだ。軽油、重油、灯油についても同額の補助を行う。また、航空燃料についてはガソリン補助額の4割程度の補助を行う。
 
資源エネルギー庁によると、3月16日時点のレギュラーガソリンの全国平均価格は190.8円と、前週の161.8円から急激に上昇した。資源エネルギー庁は19日~25日の1週間のガソリンの店頭価格を200円20銭と見積もり、170円との差額である30.2円の補助金を決めた。補助金により、ガソリンの店頭価格が200円台に乗せることはぎりぎり回避された。
 
補助金の効果は即座に表れ、19日には早くもガソリンの店頭価格に下落傾向が見られた。全国のガソリン価格やガソリンスタンドのサービス情報を共有するガソリンスタンド情報共有サイトgogo.gs(ゴーゴージーエス)によると、19日の全国平均レギュラー価格(現金購入)は184.7円と、前日の186.6円から2円程度の下落が見られた。21日には180.5円と180円割れが見えてきている。

3月末に平均ガソリン価格は170円程度まで低下か

19日以降、石油元売り業者からガソリンスタンドへの卸価格は、小売価格に換算すると、平均で170円になっていると見られる。しかし、補助金が開始される前に高値でガソリンを仕入れたガソリンスタンドは、それが売り切れるまではその高い仕入れ値で販売を続けると考えられる。その在庫がなくなるにつれて、補助金の影響で下がった価格でガソリンを売るガソリンスタンドが次第に増えてくる。その結果、一気にではなく、徐々にガソリン価格は平均170円程度にまで下がっていく。
 
19日から21日の平均ペースでガソリン価格が低下する場合、gogo.gs(ゴーゴージーエス)の平均ガソリン価格は3月26日に170円程度まで低下する計算だ(図表)。しかし、3月16日時点でgogo.gs(ゴーゴージーエス)の平均ガソリン価格は183.9円、資源エネルギー庁が発表したガソリン価格は190.8円と約3円の差がある。これは、サンプルの違いなどによると推察される。
 
資源エネルギー庁が発表する公式のガソリン価格が170円程度に達するのは3月30日(月)となる計算となる。資源エネルギー庁は月曜日にガソリン価格の調査を行い、水曜日に公表することから、ガソリン価格が170円程度にまで低下したことを確認できるのは、4月1日(水)となる見込みだ。社会的混乱に発展したガソリン不足への懸念、ガソリンの買い急ぎといった社会的な混乱は終息に向かう。
 
図表 ガソリン価格の推移と予測

原油価格がさらに上昇すれば、補助金が大きく膨らむ可能性

ガソリン補助金は1リットル当たり30.2円で再開されたが、ガソリンの消費量が1日当たり約1.2億リットルとされるため、1日のガソリン補助金額は36億円程度に達する計算だ。政府は、ガソリンの店頭価格を30円程度引き下げる場合、ガソリンに軽油、重油、灯油、航空燃料を加えた補助金の総額を、1か月で3,000億円程度と見積もっている。現在ガソリン補助金のために確保している2,800億円の予算は1か月以内に使い果たしてしまう計算だ。その場合、2025年度補正予算で確保された予備費の7,098億円が充てられるだろう。
 
政府は今月末から原油の国家備蓄を1か月分放出する。随意契約で石油精製業者に売り渡される。その際の価格は、前月の産油国の平均公式価格に基づく。イラン紛争前の安い価格で売り渡されることから、石油精製業者の石油精製のコストを低下させる効果を生むだろう。その結果、石油元売り業者が決めるガソリン等の卸価格が下がれば、政府のガソリン補助金額はその分減額される。
 
しかし、国家備蓄の放出を4月以降も続ける場合には、石油精製業者に売り渡す価格はイラン紛争の影響で上昇した3月以降の価格が反映されるため、政府のガソリン補助金額は再び膨らむ。さらに、海外の原油価格の高騰が進めば、補助金額は無制限に大きくなるリスクがある。それは財政を圧迫し、財政悪化懸念を高めるという問題を生む。

補助金の長期化は化石燃料消費の効率化と脱炭素の取り組みに水を差す

こうした事態に至れば、政府は補助金額を抑制するために、いずれ補助金制度を見直す可能性が出てくるだろう。政府はガソリン価格の大幅な上昇は避けるだろうが、補助金を削減することでガソリン価格の緩やかな上昇を容認する可能性はあるのではないか。ガソリン補助金について政府も、「中東情勢の動向やそれを受けた原油価格の水準も見極めながら、事態が長期化した場合には、今後とも支援の在り方を柔軟に検討する」、と将来の見直しの可能性を示唆している。
 
原油備蓄の放出やガソリン補助金制度は、社会的な混乱を抑えるための緊急措置としては必要だったと考えられる。しかし、それは原油価格の高騰や原油調達の困難化に対する根本的な解決にはならない。我々は、原油調達の分散化や原油消費の効率化を進める必要がある。その中には、再生可能エネルギーのさらなる活用も含まれるだろう。
 
財政面での問題に加えて、補助金によってガソリンなど燃料の価格を抑えることで、化石燃料の消費を減らしていくという効率化と脱炭素の取り組みに水を差してしまうという弊害が補助金制度の長期化にはある点にも留意したい。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。