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第1次オイルショック時の4つの規制措置

イラン情勢を受け、海外からの原油調達が大幅に減少する状態が続いている。こうした中、1970年代のオイルショック時に日本で実施された節電・省エネなどの規制が再び検討される可能性がある。1973年の第1次オイルショック時には、以下のような規制が行われた。
 
第1は、行政指導による全国的な節電・省エネ要請である。政府は国民と企業に対して、以下の「石油節約運動」を強く要請した。
・日曜日の自家用車利用の自粛(サンデードライビング自粛)
・高速道路での低速運転の推奨
・暖房の設定温度の引き下げ(省エネの象徴的行動として実施)
・不要不急の照明・電力使用の削減(ネオン・看板照明含む)
・深夜のテレビ放送自粛
 
第2は、石油需給安定化を目的とした制度的対応である。1973年に石油会社に対し、生産計画の作成や国の指示を可能にする石油需給適正化法が制定された。これにより、石油の需給逼迫時に国が石油供給の調整を行えるようになった。そのもとで石油備蓄が強化され、1974年度中に60日分の石油備蓄が実施された。また1975年には「石油備蓄法」が制定され、民間備蓄の義務化がなされた。
 
第3は、国民生活に関わる消費抑制策である。当時の通商産業大臣による「紙の節約の呼びかけ」がテレビで報道されると、「紙がなくなる」という誤った情報が拡散し、大阪・千里ニュータウンで最初のトイレットペーパーの買い占め騒動が発生したとされる。買い占めの動きは洗剤・砂糖・塩などの他の日用品へも波及し、店頭行列、商品争奪、パニック買いが全国で発生した。
 
これを受けて政府は、買い占め・売り惜しみ防止法(生活関連物資緊急措置法)による紙類などの流通規制を行い、トイレットペーパー等を「特定物資」に指定して、価格基準の設定、供給調整を実施した。
 
第4は、電力の緊急節電措置である。電力会社に対して政府が行政指導を行い、1973年11月から大規模な節電運動を開始した。1974年1月12日には、戦後初の電力使用制限令が発令され、企業に対して使用電力量の削減を義務化した。契約電力500kW 以上の大口需要者に対し、使用電力量の 15%の削減を義務付けた。電力使用制限令は1974年4月30日に終了した。

電力使用制限の経済効果の考え方

この4つの施策のうち、日本経済に大きな影響を与えたのは、第4の電力使用制限令に基づく緊急節電措置だろう。
 
当時、契約電力 500kW 以上の大口需要者に対し、使用電力量の 15%の削減を義務付け、その措置は3か月半程度続いた。
 
現時点ではその可能性はまだ小さいものの、仮に同様の電力使用制限という極端な政策が今後講じられる場合の経済への影響について考えてみたい。実質GDPに与える影響は以下の式で決まる。
 
1年間の実質GDPへの影響=(企業の生産に占める契約電力 500kW 以上の大口需要者の割合)×(電力供給の削減率)×(電力供給制限の期間)×(電力供給が1%減少する場合の生産の減少率〈弾性値〉)
 
企業の電力需要に占める契約電力500kW以上の大口需要者の割合を、特別高圧+高圧の大規模需要者の割合から推測し、37.5%とした。電力供給の削減率は1974年と同様に15%、電力供給制限の期間も1974年と同様に3か月半とした。

生産の電力供給に対する弾性値

難しいのは、電力供給が1%減少する場合の生産の減少率、つまり生産の電力供給に対する弾性値である。これについては、先行研究を参考にした(図表)。代表的なこれらの研究結果の弾性値の平均値をとると0.57となった。
 
図表 生産の電力弾性値に関する先行研究

1年間の実質GDPを0.94%押し下げる計算に

これらの数値を上記の式に当てはめると、1年間の実質GDPへの影響=(企業の生産に占める契約電力 500kW 以上の大口需要者の割合【37.5%】)×(電力供給の削減率【15%】)×(電力供給制限の期間【3.5か月÷12か月】)×(電力供給が1%減少する場合の生産の減少率(弾性値)【0.57】) = 0.94% となる。
 
現時点では、第1次オイルショック後の1974年当時と同様の電力供給規制が実施されると考えるのは、まだ早過ぎるだろう。しかし、原油の調達が大幅に減少する事態が続けば、いずれそうした異例の措置を講じることも検討されるようになるだろう。
 
現在と比べて1974年当時のエネルギー効率が低く、生産活動に用いられる電力消費量が多かったことや、電力を多く使用する製造業の比率が高かったことから、同様の措置がとられるとしても、経済的打撃は当時と比べれば小さくなる。それでも、上記の試算では、1年間の実質GDPを0.94%押し下げるという大きなマイナスの影響が生じる可能性が示唆される。
 
電力供給規制の企業の活動への悪影響に加えて、自動車利用規制、エアコンの温度設定規制、照明・電力使用の自粛要請、深夜のテレビ放送停止などが行われれば、2011年の東日本大震災、2020年のコロナ禍のように、個人の生活にも大きな制約が生じることになるだろう。
 
こうした事態を避けるためには、政府によるホルムズ海峡の船舶運航の正常化に向けた外交努力、政府・企業による代替ルートを通じた原油調達の拡大が求められるところだ。さらに個人にも、規制の導入を待たずに、電気、ガソリン消費の節約や効率化などの取り組みが求められる。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。