&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

需給ギャップの推計値は大幅に上方修正

日本銀行は需給ギャップの推計方法を見直し、その結果を3月26日に公表した。従来の推計では、2020年4~6月期から2025年7~9月期まで需給ギャップはマイナスとしていたが、新たな推計では2022年1~3月期から最新の2025年7~9月期まで、3年9か月間プラスが続く形に上方修正した。
 
最新の2025年7~9月期の需給ギャップの推計値は、従来推計の-0.35%から新推計では+0.45%へと0.8%ポイントもの大幅上方修正となった。
 
需給ギャップ推計の上方修正は、日本銀行の利上げを後押しする材料の一つとなるだろう。そこで注目されるのは、需給ギャップ推計の見直しを踏まえた自然利子率の新たな推計である。
 
自然利子率は、需給ギャップに対して中立的な実質短期金利の水準であり、それに中長期の予想物価上昇率を加えて、短期金利(政策金利)の中立水準を算出することが一般的である。

自然利子率の推計値は予想外に小幅な修正

日本銀行は2024年8月に発表したワーキングペーパー「自然利子率の計測をめぐる近年の動向」に、6つの論文で示された自然利子率の6つの推計値を掲載した。その推計値は-1.0%程度~+0.5%程度の範囲(2023年1-3月期)だった。
 
今回の需給ギャップの推計の見直しと昨年12月に実施されたGDPの基準改定を反映させ、日本銀行は新たな自然利子率の推計値を、27日に日銀レビュー「自然利子率の動向と金融緩和度合いの評価」で発表した。自然利子率の新たな推計値は-0.9%程度~+0.5%程度の範囲(2025年7-9月期)となった。需給ギャップの大幅上方修正を受けて、自然利子率の推計値も大幅に上方修正される可能性も考えられたが、実際にはかなり小幅な上方修正となった。

筆者のターミナルレートの見通しを1.25%から1.25%~1.50%へ引き上げ

ただし、政策金利の中立水準を別のアプローチであるテーラールールで考えれば、需給ギャップの上方修正は、政策金利の中立水準の理論値を引き上げることになる。この点を踏まえ、筆者の従来のターミナルレートの見通しを1.25%から1.25%~1.50%のレンジへと引き上げたい。
 
日本銀行は、自然利子率の推計値には相当なばらつきがあり、不確実性が高いことから、金融緩和の度合いを評価する際には、実質金利と自然利子率の関係のみならず、経済・物価・金融情勢を丁寧に点検しながら、本支店で得られるヒアリング情報も活用して総合的に判断していく必要がある、と「自然利子率の動向と金融緩和度合いの評価」の中で述べている。

利上げは年後半と予想

需給ギャップの推計値の大幅上昇修正及び自然利子率の推計値の上方修正は、ターミナルレートの見通しには影響を与えるとしても、次の利上げの時期には大きな影響を与えないだろう。
 
イラン情勢の悪化による原油価格高騰の影響に加えて、原油不足による経済活動の制約が今後強まるリスクもある。先行きの不確実性が極めて高い中、当面、日本銀行は様子見姿勢を強いられるだろう。経済の混乱が深まれば、昨年のトランプ関税と同様に、半年などの一定期間、利上げを一時停止する可能性もある。
 
そこまでの事態に至らないとしても、4月の次回金融政策決定会合では政策は維持され、利上げは年後半になると見ておきたい。
 
仮に日本銀行が4月の次回決定会合で利上げを実施する場合には、事前に明確なサインを金融市場に送るはずだ。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。