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イエメンの親イラン武装組織フーシ派によって紅海ルートが閉ざされるリスク

イラン紛争から1か月が経過する中、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、米国とイスラエルへの攻撃を宣言した。ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く中、サウジアラビアは、紅海に面するヤンブー港からバベルマンデブ海峡を通るルートへと石油輸送を切り替えている。しかし、フーシ派が紅海周辺で船舶の攻撃を繰り返し、バベルマンデブ海峡を封鎖すれば、こうした代替ルートも閉ざされることになる。この点からフーシ派の参戦は、原油供給正常化の見通しをより厳しくし、原油価格の一段の上昇をもたらす。
 
ホルムズ海峡を経由して輸出される原油・石油製品は、日量約2,000万バレルとされ、世界全体の消費量の約20%を占める。中東から他のルートを使って輸出される原油・石油製品の量は正確にはよく分からない。
 
ホルムズ海峡を回避する代替ルートで最も輸送量が多いのが、サウジアラビアが産出する原油をパイプラインで輸送し、紅海に面するヤンブー港からバベルマンデブ海峡を通って輸出されるルートだ。輸送の最大能力は日量約700万バレルあるともされるが、その一部は国内精製向けであり、また、港湾の積出能力、タンカー手配の制約などを踏まえると、輸出に回せるのは日量500万バレル前後と国際エネルギー機関(IEA)などは試算している。

紅海ルート閉鎖で世界の原油供給量はさらに約5%減少か

原油をパイプラインで輸送してホルムズ海峡を回避するもう一つの代替ルートは、アラブ首長国連邦(UAE)によるものだ。アブダビ油田からパイプラインで原油を輸送し、オマーン湾のフジャイラ港から輸出する。輸出量は日量約150万~180万バレルとされる。
 
それ以外には、イラクからキルクーク–ジェイハン・パイプラインを使ってトルコ・ジェイハン港に輸送され、地中海から輸出されるルートがある。潜在能力は日量160万バレルあるとされるが、実効能力はさらに低いとも指摘されている。主に欧州向けに輸出される。
 
さらにイスラエル南部のエイラート(紅海・アカバ湾)と地中海沿岸のアシュケロンを結ぶ原油輸送パイプライン、トランス・イスラエル・パイプラインがある。ただし、輸出の実績はかなり限定的であるようだ。以上をまとめると図表のようになる。
 
図表 中東からの原油輸送ルートと輸送量の推定

サウジアラビアによるパイプラインを使った紅海ルートの輸送量の日量約500万バレルは、中東地域からの原油輸送量の約17.6%~17.8%、ホルムズ海峡ルートの約25.0%である。
 
ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、世界の原油供給に対する下押し圧力は約20%減少したが、仮に紅海ルートもフーシ派によって閉鎖されれば、世界の原油輸出量は追加で最大約5%減少することになる。これは、WTI原油先物価格を1バレル5~10ドル程度の押し上げる要因になり得るのではないかと考える。
 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。