&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

トランプ米大統領は米東部時間4月1日午後9時、日本時間4月2日午前10時に、「イランに関する重要な最新情報」について米国民向けに演説を行った。前日にトランプ大統領は、早期にイランから撤退する考えを示しており、原油市場、金融市場は戦闘の早期終結期待を強めていた。ところが実際の演説内容は期待外れであり、トランプ大統領の好戦的な姿勢が目立った。
 
トランプ大統領はまず、イラン攻撃で米国が予想以上の成果を挙げていることを強調し、イランの海軍は消滅し空軍は壊滅状態に陥ったとした。そして、向こう2~3週間、米国はイランを激しく攻撃するとした。
 
これが、中東に集結させている米軍による地上戦への移行を意味するかどうかは明らかではない。イランの石油設備の中核であるカーグ島への米国の地上軍投入の観測も依然燻ぶっている。
 
さらにトランプ大統領は、イランが戦闘終結に合意しなければ、発電所を攻撃するとした。イランを石器時代に戻す、とも発言している。他方、イランの再建の芽を残すため、石油設備は攻撃しないとも説明した。米国は戦争終結後のイランの原油を入手したいと考えているとの報道もある。
 
トランプ大統領はホルムズ海峡の再開について、米国ではなく、ホルムズ海峡からの原油輸入に依存した国々が自らの手で行うべき、と述べた。米国がイランの軍事力を大きく低下させた後であれば、それは難しくないとした。
 
演説の前にトランプ大統領は、ホルムズ海峡が再開されない限り、イランとの停戦には応じないと発言し、ホルムズ海峡が再開されなくても米国は早期にイランから撤退するとの前日の発言を修正した。しかしこの点は、演説の中では語られなかった。
 
米国とイスラエルが始めたイラン攻撃により、ホルムズ海峡が事実上封鎖に追い込まれ、ホルムズ海峡を通じた原油等の輸入に大きく依存している国々の経済には大きなリスクが高まっている。戦争を始めた米国が、ホルムズ海峡の再開はそうした国々が行うべきとする主張は非常に身勝手に思える。
 
ただし、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く限り、世界の原油価格は高止まりし、その結果、米国でのガソリン価格も高止まりする。それは、トランプ大統領に対する米国民の批判をさらに高めることになるだろう。この点から、米国は、ホルムズ海峡の再開に関与せざるを得ないだろう。
 
ただし、戦争状態が続く中では、ホルムズ海峡の安全は確保されず、原油価格の低下は望めない。日本を含む多くの国々では原油不足への懸念が一段と強まるだろう。
 
ホルムズ海峡の安全が確保されるには、米国・イスラエルとイランが戦争終結で合意することが必要だろうが、今回のトランプ大統領の演説からは、そうしたシナリオの実現は見通せなかった。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。