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企業経営への不安から個人投資家がファンド解約の動きを強めている

米国ではAIの影響によるソフトウェア企業の業績への懸念やイラン情勢を受けた企業の経営環境悪化への懸念から、急成長を遂げてきたプライベート・クレジット市場への不安が生じている。
 
足もとで目立っている動きは、個人投資家がプライベート・クレジット・ファンドの融資先企業の経営に不安を抱き、資金を引き上げるファンド解約の動きを強めていることと、ファンドがそれを制限していることだ。
 
ここ数週間では、アポロ・グローバル・マネジメント、ブラックロック、アレス・マネジメントなどが運用するファンドに対し、大規模な解約請求が発生しているとされる。
 
解約請求に直面しているファンドの多くは、プライベート・クレジット・ファンドの中でダイレクトレンディングと呼ばれる分野だ。これは、比較的リスクの高い企業にファンドが資金を貸し付けるものであり、そうした企業の多くは未公開企業である。
 
プライベート・クレジット・ファンドへの不安が表面化し始めたのは2025年後半である。融資先の未公開企業である米自動車部品メーカーのファースト・ブランズ・グループや、自動車ローン会社トライカラー・ホールディングスが相次いで破綻したことで、プライベート・クレジット・ファンドへの懸念が浮上した。
 
昨年11月には、ソフトウェア企業に積極的に投資していたブルー・アウル・キャピタルが、投資家に損失が生じる可能性があるとの懸念から、ファンドの合併計画を中止した。年末には解約請求が増加して、同ファンドは今年初めに引き出し制限の導入に備え始めた。今年1月にはブルー・アウルが手がけるファンドの一つが、資産の約15%に相当する資金の引き出しを投資家に認めた。同社は3つのファンドで計14億ドルの投資資産を売却し、その資金を投資家の解約請求に充てていくことを決めた。
 
その後、アポロ、ブラックロック、アレス、ブラックストーン、オークツリー・キャピタル・マネジメントといった大手のファンドでも同様の解約請求が相次ぎ、一部は引き出し制限を発動している。足もとでは、中東情勢の悪化から、投資家が、プライベート・クレジット・ファンドが行う高リスクの融資への懸念を強めている。

個人投資家を取り込む動きが拡大

プライベート・クレジット・ファンドは、年金基金や政府系ファンドといった大手機関投資家から資金の大半を調達することで、急速に成長してきた。しかし、さらなる顧客層の拡大を図る過程で、個人投資家を積極的に取り込んでいった。
 
プライベート・クレジット・ファンドは、長期の融資を行うため、大手機関投資家の長期投資の志向とマッチしていたと言えるだろう。プライベート・クレジット・ファンドは通常、プライベート・エクイティ(PE、未公開株)投資会社が保有する企業に直接融資をし、期間は概ね5年である。
 
しかし個人投資家はより短期志向であり、そもそもプライベート・クレジット・ファンドの長期の融資とはマッチしていなかった面もあったのではないか。

5%の解約の上限規定に従って一部の投資家の解約要請には答えない制限措置

個人投資家の資金を集めたのは、非上場BDC(ビジネス・デベロップメント・カンパニー:中小企業向け投融資会社)と言われるファンドであり、近年ではブラックストーン、アポロ、アレスといった企業がファミリーオフィス等を含む富裕層個人向けに販売を展開してきた。これらのファンドは通常、投資家が毎月資金を投じることを認める一方で、解約・払い戻しは四半期ごとに限られ、引き出し額もファンド価値の5%に制限されている。ただし、一定の柔軟性はあり、最大で7%程度まで引き上げられる場合もあるという。解約の制限はファンドの契約条件に組み込まれており、契約書の冒頭に、四半期ごとに最大5%の解約を認める、などと明記されているという。
 
現在、解約請求の影響を受けているのはこうしたファンドであり、多くの場合、請求額が上限を大きく上回っている。そこで、5%の解約の上限規定に従って、一部の投資家の解約要請には答えないという制限措置を行っている。

個人投資家の解約を巡り政治問題化の可能性も

プライベート・クレジット・ファンドの多くは、想定を大きく上回る規模の解約請求に直面しても、契約条件通りに、四半期ごとの償還制限の枠内に返金をとどめている。アレス・マネジメントが運用するファンドは、解約請求がファンド持ち分の11.6%に達したが、純資産の5%までに払い戻しを制限した。アポロ・グローバル・マネジメントも11.2%の解約要請に対し、同様の四半期上限を維持した。不満を募らせた投資家は、翌四半期に再び解約を請求することになるだろう。ブルームバーグは、複数ファンドにおける償還制限の結果、投資家が引き出せずに残る資金が累計で40億ドル超に達しているとの推計も報じている。
 
ファミリーオフィス等を含む個人投資家はプライベート・クレジット・ファンドの解約に動く一方、大手機関投資家はファンドへの投資を拡大させているともされる。
 
個人投資家がリスクを十分理解しないままファンドが販売されたとの指摘もある。個人投資家の解約圧力がさらに高まる一方、思うように解約できないことから個人が不満を募らせ、それが政治問題化する可能性も懸念されてきている。仮にそうなれば、プライベート・クレジット市場に対する規制強化の動きが米国で強まる可能性もあるだろう。
 
(参考資料)
“Why Private Credit Is Facing a Sudden Investor Exodus: Explainer(プライベートクレジット解約急増の理由を解説-金融危機の兆候なのか)”, Bloomberg, April 1, 2026
“Private Credit Exit Fight Is Showing Its Limits(プライベートクレジット、個人投資の抑制必要)”, Bloomberg, March 31,2026

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。