電力・ガソリン消費の自粛要請は近いか
高市首相は7日の記者会見で、年を越えて原油の供給を確保できるめどがついた、と説明した。他方で、電力・石油消費の抑制などの自粛を国民に要請することはなかった。
2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃以降、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続き、世界の原油供給は大きく減少した状態にある。それに伴って原油価格が高騰し、原油供給不足のリスクが高まる中、アジア諸国を中心に電力・石油消費の抑制策が始められている。日本ではまだそうした施策は実施されていないが、近い将来に政府は、国民や企業に対して消費の自粛要請などを打ち出す可能性があるだろう。それがさらに規制にまで進んでいけば、日本経済にも大きな悪影響が及ぶことになる。
国際エネルギー機関(IEA)の集計によると、4月2日時点で30か国近くが節電対策に乗り出している。石油備蓄を多く抱える韓国でも、大統領が国民や企業に車の利用抑制を呼びかけている。
そうした中、日本政府は、「あらゆる可能性を排除せず、臨機応変に対応する」としつつも、「現時点で石油や電力の供給に問題はない」ことから、電力・ガソリン消費の自粛要請は出していない。
政府が慎重な姿勢を崩していないのは、政府の自粛要請が国民の間に混乱を生じさせ、原油関連製品の前倒し購入などを引き起こせば、供給不足と価格高騰にむしろ拍車をかけてしまうことを恐れているからではないか。1970年代の第1次オイルショックの際には、政府による紙の節約の呼びかけがトイレットペーパーの買い占め騒動のきっかけとなったとされることも、政府の姿勢を慎重にさせているのではないかと思われる。
また、コロナ禍の経験に照らせば、自粛要請は経済活動にマイナスの影響を生じさせ、また国民の不満が高まり政府批判につながることも懸念されていると考えられる。
しかし、ホルムズ海峡を通じた原油・ナフサなどの輸入が正常化しない限り、国内でガソリンなど石油製品が底を突き、電力供給が削減される事態がいずれ生じることになる。そうしたタイムリミットをできるだけ先に延ばすためにも、自粛要請は早めに検討されるべきではないか。またそれは、エネルギーの消費をより効率化させることにも資する。
2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃以降、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続き、世界の原油供給は大きく減少した状態にある。それに伴って原油価格が高騰し、原油供給不足のリスクが高まる中、アジア諸国を中心に電力・石油消費の抑制策が始められている。日本ではまだそうした施策は実施されていないが、近い将来に政府は、国民や企業に対して消費の自粛要請などを打ち出す可能性があるだろう。それがさらに規制にまで進んでいけば、日本経済にも大きな悪影響が及ぶことになる。
国際エネルギー機関(IEA)の集計によると、4月2日時点で30か国近くが節電対策に乗り出している。石油備蓄を多く抱える韓国でも、大統領が国民や企業に車の利用抑制を呼びかけている。
そうした中、日本政府は、「あらゆる可能性を排除せず、臨機応変に対応する」としつつも、「現時点で石油や電力の供給に問題はない」ことから、電力・ガソリン消費の自粛要請は出していない。
政府が慎重な姿勢を崩していないのは、政府の自粛要請が国民の間に混乱を生じさせ、原油関連製品の前倒し購入などを引き起こせば、供給不足と価格高騰にむしろ拍車をかけてしまうことを恐れているからではないか。1970年代の第1次オイルショックの際には、政府による紙の節約の呼びかけがトイレットペーパーの買い占め騒動のきっかけとなったとされることも、政府の姿勢を慎重にさせているのではないかと思われる。
また、コロナ禍の経験に照らせば、自粛要請は経済活動にマイナスの影響を生じさせ、また国民の不満が高まり政府批判につながることも懸念されていると考えられる。
しかし、ホルムズ海峡を通じた原油・ナフサなどの輸入が正常化しない限り、国内でガソリンなど石油製品が底を突き、電力供給が削減される事態がいずれ生じることになる。そうしたタイムリミットをできるだけ先に延ばすためにも、自粛要請は早めに検討されるべきではないか。またそれは、エネルギーの消費をより効率化させることにも資する。
日本の原油はどの程度確保できたか
4月3日時点で、日本の石油備蓄は、国家備蓄の146日分、民間備蓄の80日分、産油国共同備蓄の6日分、合計で232日分ある。仮に海外からの原油輸入が停止しても、日本は8か月近く石油製品を消費し続けることができる計算だ。
ただし、3月に既に放出した民間備蓄は、原油から石油製品を精製する過程で生まれる原油と様々な石油製品の在庫であり、何かあった時のためにとっておく、国家備蓄とは異なる性格のものだ。その在庫がなくなれば、新たに原油を調達しても、しばらくの間は石油製品を国民や企業に提供できない。
さらに、在庫の余剰分を既に放出したため、これ以上取り崩すのは難しいと思われる。そのため、今後、原油を安定的に供給し続けることができるのは、146日分ある国家備蓄と考えられるだろう。
政府は、国家備蓄の放出を行う一方、ホルムズ海峡を通らない代替ルートからの原油の調達に奔走している。
日本は原油の90%以上を、ホルムズ海峡経由で輸入していた。また、世界全体の原油供給の約2割はホルムズ海峡経由で供給されていた。ホルムズ海峡が事実上封鎖されているもとでは、世界の国々が原油を求めて争奪戦を繰り広げている状況だ。その中で、日本がホルムズ海峡を通らない代替ルートからの原油を調達することは簡単ではない。
2025年の日本の原油輸入のうち 3.8%が世界最大の産油国である米国だった。中東諸国を除けば最大の輸入先である。さらに、3月の日米首脳会談で、日本の米国産原油の輸入拡大で両国は合意している。この点から、代替ルートからの原油調達の拡大余地が最も大きいのが米国だ。
実際、高市首相は7日の記者会見で、5月に米国からの原油輸入は前年比約4倍まで調達が拡大する見込み、と説明している。
しかし、米国から今後も安定的に原油の輸入を拡大し、それを維持することには、なお課題があるのではないか。第1に、イラン情勢の影響で世界の原油需給がひっ迫し、海外からの原油輸入が難しい中、国内需要への対応を優先させるために、米国は原油輸出の拡大に慎重になっていると考えられる。
第2に、米国本土の原油は軽質油だ。一方で日本の石油精製設備の大半が中東産の重質油に対応していることから、米国からの原油の輸入を拡大できても、石油製品を生み出す精製が進まないという問題が生じる可能性もあると考えられる。
第3に、ホルムズ海峡経由での原油輸入に大きく依存するアジアの国々が原油を確保できるように支援する主導的役割を日本は担っている。こうしたなか、日本が他国を押しのけるような形で米国やその他の国から原油を調達することには問題があるだろう。
このような点を踏まえると、ホルムズ海峡を通らない代替ルートからの原油調達を拡大することには引き続き制約があるように思われる。
高市首相は、原油の輸入は4月に前年比2割以上、5月に過半の調達に目途が立ったとしている。そのうえで、年を越えて原油の供給の確保に目途が立ったと説明している。
仮に、代替ルートでの原油の調達が、5月以降は高市首相が指摘するように従来の輸入の半分まで可能であるとしても、既に1か月分放出を決めた石油の国家備蓄は、向こう8か月弱の間、つまり年末までには底を突く計算となる。
高市首相が説明するように、年を越えて原油の供給の確保に目途が立ったとしても、ホルムズ海峡が再開しない場合には石油備蓄はいずれ底を突いてしまうことには変わりはない。原油供給が不足する時期をできる限り先送りする点と、改めてエネルギー消費の効率性を高める観点からも、政府は国民や企業に対して電力・石油消費の抑制などの自粛を早めに要請し、状況次第でそれを段階的に強化していくことが求められる。
ただし、3月に既に放出した民間備蓄は、原油から石油製品を精製する過程で生まれる原油と様々な石油製品の在庫であり、何かあった時のためにとっておく、国家備蓄とは異なる性格のものだ。その在庫がなくなれば、新たに原油を調達しても、しばらくの間は石油製品を国民や企業に提供できない。
さらに、在庫の余剰分を既に放出したため、これ以上取り崩すのは難しいと思われる。そのため、今後、原油を安定的に供給し続けることができるのは、146日分ある国家備蓄と考えられるだろう。
政府は、国家備蓄の放出を行う一方、ホルムズ海峡を通らない代替ルートからの原油の調達に奔走している。
日本は原油の90%以上を、ホルムズ海峡経由で輸入していた。また、世界全体の原油供給の約2割はホルムズ海峡経由で供給されていた。ホルムズ海峡が事実上封鎖されているもとでは、世界の国々が原油を求めて争奪戦を繰り広げている状況だ。その中で、日本がホルムズ海峡を通らない代替ルートからの原油を調達することは簡単ではない。
2025年の日本の原油輸入のうち 3.8%が世界最大の産油国である米国だった。中東諸国を除けば最大の輸入先である。さらに、3月の日米首脳会談で、日本の米国産原油の輸入拡大で両国は合意している。この点から、代替ルートからの原油調達の拡大余地が最も大きいのが米国だ。
実際、高市首相は7日の記者会見で、5月に米国からの原油輸入は前年比約4倍まで調達が拡大する見込み、と説明している。
しかし、米国から今後も安定的に原油の輸入を拡大し、それを維持することには、なお課題があるのではないか。第1に、イラン情勢の影響で世界の原油需給がひっ迫し、海外からの原油輸入が難しい中、国内需要への対応を優先させるために、米国は原油輸出の拡大に慎重になっていると考えられる。
第2に、米国本土の原油は軽質油だ。一方で日本の石油精製設備の大半が中東産の重質油に対応していることから、米国からの原油の輸入を拡大できても、石油製品を生み出す精製が進まないという問題が生じる可能性もあると考えられる。
第3に、ホルムズ海峡経由での原油輸入に大きく依存するアジアの国々が原油を確保できるように支援する主導的役割を日本は担っている。こうしたなか、日本が他国を押しのけるような形で米国やその他の国から原油を調達することには問題があるだろう。
このような点を踏まえると、ホルムズ海峡を通らない代替ルートからの原油調達を拡大することには引き続き制約があるように思われる。
高市首相は、原油の輸入は4月に前年比2割以上、5月に過半の調達に目途が立ったとしている。そのうえで、年を越えて原油の供給の確保に目途が立ったと説明している。
仮に、代替ルートでの原油の調達が、5月以降は高市首相が指摘するように従来の輸入の半分まで可能であるとしても、既に1か月分放出を決めた石油の国家備蓄は、向こう8か月弱の間、つまり年末までには底を突く計算となる。
高市首相が説明するように、年を越えて原油の供給の確保に目途が立ったとしても、ホルムズ海峡が再開しない場合には石油備蓄はいずれ底を突いてしまうことには変わりはない。原油供給が不足する時期をできる限り先送りする点と、改めてエネルギー消費の効率性を高める観点からも、政府は国民や企業に対して電力・石油消費の抑制などの自粛を早めに要請し、状況次第でそれを段階的に強化していくことが求められる。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。