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4月9日以降のガソリン補助金は1リットル当たり48.8円

「燃料油価格定額引下げ措置(緊急的激変緩和措置)」、いわゆるガソリン補助金について、経済産業省・資源エネルギー庁は4月9日以降のガソリン補助金が1リットル当たり48.8円になると4月8日に発表した。これは、4月2日から4月8日までの水準、49.8円を1円下回った。3月19日に始められたガソリン補助金の推移は以下の通りであるが、この間、前週の水準を下回ったのは今回が初めてとなる。
 
3月19日以降: 30.2円/リットル
3月26日以降: 48.1円/リットル
4月 2日以降: 49.8円/リットル
4月 9日以降: 48.8円/リットル
 
ガソリン補助金が減少したのは、大手元売り業者によるガソリンの卸価格が低下したためと考えられる。
 
現在のガソリン補助金は、大手元売り業者が毎週水曜日に決めるガソリンの卸価格を踏まえて、政府が補助金を出すことで、小売価格が全国レギュラー平均で1リットル170円を上回らないようにする措置だ。大手元売り業者がどのようにしてガソリンの卸価格を決めるのかは明らかでないが、過去1週間程度の海外の原油価格と為替の動きから算出していると考えられる。
 
4月2日から4月7日にかけて、WTI原油先物は1バレル100ドル程度から115ドル程度へと上昇した。この点から、4月9日以降のガソリンの卸価格が下がり、補助金が減少するのは意外である。

補助金減少は石油の国家備蓄放出の影響か

その背景には、3月26日以降の政府による石油の国家備蓄放出の影響があると推察される。随意契約で大手石油会社に3月に売り渡された国家備蓄の原油は前月、つまり2月の産油国の原油公定価格の平均値で決まる。その価格はイラン攻撃によって価格が高騰する前の水準である。その結果、国家備蓄の原油を購入した大手石油会社がガソリンを精製する際のコストは下がることになり、それが今回の大手元売り業者によるガソリンの卸価格の低下につながったものと推察される。
 
他方で政府は、米国や紅海ルートなど、ホルムズ海峡以外の代替ルートでの原油調達を拡大させている。5月には国内需要の半分以上の原油を代替ルートで調達できる、と政府は説明している。世界が原油の争奪戦を繰り広げる中、高い価格を提示して買い集めてくるため、その価格は割高となるだろう。
 
そうした代替ルートで調達した割高の原油を使って石油製品を精製する割合が高まっていけば、大手石油会社によるガソリンの生産コストは上昇し、大手元売り業者のガソリン卸価格も上昇していくだろう。
 
つまり、今回は、低めの価格での石油の国家備蓄放出の影響で大手元売り業者によるガソリンの卸価格が低下し、ガソリン補助金は減少したと考えられるが、この先のガソリン精製のコストとなる原油の構成(国家備蓄と代替ルートでの調達分の比率)を予測するのはかなり難しい。もちろん、4月8日に成立した2週間の停戦合意後の原油価格の動向にも大きく左右される。

「標準シナリオ」では6月10日にガソリン補助金の予算は枯渇

この点を踏まえ、この先のガソリン補助金の予算枯渇シミュレーションについては、前回と同様に、最新の補助金である1リットル当たり48.8円が続くケースを「標準シナリオ」、4月16日以降には1リットル当たり60円が続くケースを「悲観シナリオ」、4月16日以降には1リットル当たり30円が続くケースを「楽観シナリオ」とした。
 
現在のガソリン補助金の予算が枯渇するのは、それぞれ「標準シナリオ」で6月10日、「悲観シナリオ」で5月29日、「楽観シナリオ」で7月19日となる(図表)。
 
図表 ガソリン補助金の予算枯渇シミュレーション

ガソリン補助金は打ち切られないが減額を通じてガソリン価格が上昇する可能性

現在確保している予算が枯渇した場合でも、政府は新たに予算を確保することで、補助金制度は維持する可能性は高いだろう。しかし、現在のガソリン補助金制度を見直して補助金を縮小させることは考えられる。それは、ガソリン価格の上昇をもたらすだろう。
 
政府が補助金を縮小するとすれば、第1の狙いは財政負担の軽減だ。全国のレギュラーガソリンの平均価格を1リットル当たり170円程度に抑える現在の政府の補助金制度のもとでは、原油価格が上昇するほど補助金の金額が膨らんでいき、財政全体を圧迫することになる。
 
第2の狙いは、個人にガソリン消費の節約を促すことだ。政府はいずれ国民に対して、ガソリン消費の抑制を呼びかけることになると考えられるが、その際に、補助金でガソリン価格を比較的低位に安定させれば、抑制は進み難くなってしまう。
 
早ければ5月にもガソリン補助金が削減され、現在の1リットル170円程度が180円や190円、場合によっては200円まで引き上げられる可能性があると見ておきたい。ただしその場合でも、ガソリン価格の上昇で生活が大きな打撃を受ける低所得層などに対しては、給付金など、別途、支援策を講じる必要があるのではないか。
 
仮に政府が補助金を削減して1リットル200円までのガソリン価格上昇を容認する場合には、1リットル170円と比べてガソリン価格は17.6%上昇する。2人以上世帯の平均ガソリン消費額は2025年に7万2,474円だったが、それが17.6%増加する場合には、家計の負担額は年間1万2,755円増える計算だ。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。