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パキスタンの仲介で11、12日の2日間にわたって行われていた戦争終結の最終合意に向けた米国とイランの協議は、物別れに終わった。決裂ではないにしても、次回の協議は現時点では見通せない。
 
争点はウラン濃縮放棄(核兵器開発の放棄)とホルムズ海峡正常化の2つであったとみられる。米国によるこの2つの要求をイランは受け入れなかった。この2つは、イランが米国に対抗するための重要な切り札であるためだ。この結果、2週間の停戦合意の履行も怪しくなっている。
 
協議の後、世界の原油供給を大きく左右するホルムズ海峡を巡る情勢は、新たな展開を見せ始めた。トランプ大統領は12日に、米海軍がホルムズ海峡への「あらゆる船舶」の出入りを封鎖する措置を始めると表明した。米国自らが、ホルムズ海峡の封鎖に動いた形だ。トランプ氏はSNSに「国際水域においてイランに通航料を支払ったすべての船舶を捜索・阻止すると命じた」と投稿し、「支払った者は公海上で安全な航行を許さない」と強調した。これは、日本などの民間船舶が、イランに通航料を支払うことでホルムズ海峡を通航できる、という期待を大きく損ねるものとなった。
 
また米中央軍は12日、米東部時間13日午前10時(日本時間13日午後11時)からペルシャ湾やオマーン湾に面するイランの港湾に出入りするすべての海上交通を封鎖すると発表した。これらは、イランがホルムズ海峡の通航料や原油輸出から得る収入を絶ち、戦争継続能力を削ぐ狙いがあるのではないか。
 
しかし、こうした措置は、ホルムズ海峡を通じた原油供給の正常化を遠ざけ、原油価格を押し上げることになる。それは、ガソリン価格の上昇を通じてトランプ政権に対する米国民からの批判を高めるという問題を生じさせるだろう。
 
22日の停戦合意が切れれば、あるいはその前にも、トランプ政権がイランに対する大規模攻撃に踏み切る可能性があるだろう。一方で、既に勝利を収めていると繰り返し発言するトランプ大統領が、イランから一方的に兵を引き揚げる可能性も残されているだろう。
 
しかし、仮に米国が一方的に勝利宣言を出しても事態は収まらない。イランは周辺国の米国軍事施設を中心に報復攻撃をするのではないか。さらに、イランはホルムズ海峡の管理を強化するだろう。そのもとで、米国が批判する通航料の支払いを条件に、民間船舶の航行を一定程度認める可能性はあるだろう。
 
しかし、従来と同様の航行を認め、原油価格が大幅に下落すれば、米国のガソリン価格を低下させ、経済的に米国を攻撃する武器を自ら捨ててしまうことになる。この点から、イランはホルムズ海峡の船舶の航行の制限を続け、原油価格の高止まりを目指すのではないか。
 
米国とイランの協議は物別れに終わった後には、このように様々なシナリオが残されている。いずれも、ホルムズ海峡を通じた原油供給の正常化につながるものではない。
 
2週間の停戦合意を受けて下落した原油価格は再び上昇するだろう。13日朝には、WTI先物価格は1バレル105ドル台程度まで上昇している。また楽観方向に振れた金融市場ではその巻き戻しが進み、ドル高円安、株安、債券安の流れに戻るだろう。13日朝の時点で、ドル円レートは再び1ドル160円に接近し、日経平均先物は大幅安となっている。
 
(参考資料)
「トランプ氏がホルムズ海峡「逆封鎖」、機雷破壊 交渉頓挫で再び圧力」、2026年4月13日、日本経済新聞電子版

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。