日本銀行の利上げ見送りは自然な判断
一方、日本銀行は利上げを続ける方針は維持している。行き過ぎたインフレ期待を抑え、行き過ぎた円安を修正する観点からも、それは必要なことだ。しかし、昨年12月の利上げからまだ4か月程度しか経過しておらず、利上げの効果を見極めるには時間は短かすぎる。
さらに、イラン情勢によって原油価格の高騰、原油及びナフサの供給不足、石油関連品の減産の動き、日用品の値上げの動きなどが既に広まっており、それが経済や国民生活に与える影響は潜在的にはかなり大きい。
こうした状況で、日本銀行が利上げを急ぐ理由はないだろう。4月の決定会合で利上げを見送るのであれば、それは自然なことだ。そもそも、日本銀行がややタカ派な情報発信を行い、最近まで市場の利上げ観測を黙認していたのは、円安をけん制する狙いがあったのではないか。
物価見通しの大幅上方修正と利上げ見送りの整合性
4月28日の決定会合では、日本銀行は展望レポートも公表する。今回は2028年度まで予測期間を延長する。日本銀行は原油価格高騰などの影響を反映させ、2026年度を中心に物価見通しを大幅に上方修正することが予想される。
前回1月時点での消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率見通しはそれぞれ+1.9%、+2.0%だった。他方、前回はそれぞれ+1.0%、+0.8%としていた実質GDP成長率の見通しについては、イラン情勢を受けて下方修正する可能性が高い。日本銀行の見通しは、よりスタグフレーション色を強める方向に修正される。
日本銀行が4月28日の決定会合で利上げを見送る際には、物価見通しの大幅上方修正との整合性を説明することが求められる。原油価格上昇によって表面的な物価上昇率は高まっても、日本銀行が重視する基調的な物価上昇率には変化がないか、あるいは経済の下振れによって基調的な物価上昇率にも下振れリスクがあることから、現状では様子見を決めた、といった説明になるだろう。
それでも、基調的な物価上昇率という分かりにくい概念が、日本銀行の金融政策の説明を難しくさせる面があるだろう。
展望レポートでの物価目標達成時期の判断にも注目
トランプ関税の影響から金融市場が混乱した直後の昨年5月1日に公表した展望レポートでは、予測期間が延長される中、それまでの「見通し期間後半」という表現が据え置かれた。これは、物価目標達成時期の判断を後ずれさせたことを意味した。実際、日本銀行は、トランプ関税を受けて利上げを事実上一時停止したのである。
今回の展望レポートで、仮に昨年と同様に「見通し期間後半」という表現を据え置けば、それは物価目標達成時期の判断の先送りを意味し、金融市場の利上げ観測は大きく後退するとともに、長期金利の大幅低下を招く可能性があることから注意しておきたい。
実際には、「見通し期間中盤」などへと表現を改めることで、物価目標達成時期の判断が据え置かれる可能性が高いと見ておきたい。
しかし、国内経済の悪化がより目立てば、日本銀行は6月の決定会合でも利上げを見送る上に、7月の展望レポートで、物価目標達成時期の判断を後ずれさせて、利上げの一時停止を示唆する可能性が出てくるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。