4月23日の日経平均株価は、一時6万円台に乗せた。イラン情勢は依然として混沌としており、この状況が続けば、日本はいずれ原油・ナフサの不足やそれに対応する規制措置の影響などから、生産の減少傾向が強まるという未曽有の大きなリスクを抱えている。そうした中で株価が順調に回復しているのは不思議だ。日経平均株価はもはや「日本経済を映す鏡」となっておらず、日本経済の状況や企業全体の収益・経営環境を反映していないのではないか。
イラン情勢の混乱が続く中でも日本の株価が上昇している背景は3つ考えられる。第1は、米国での株高の影響だ。ホルムズ海峡封鎖が経済に与えるリスクの大きさという点で、日米間には大きな違いがある。日本は原油の9割程度を、ホルムズ海峡を経由した輸入に依存している。ホルムズ海峡の封鎖が続けば、いずれ原油・ナフサが不足する深刻なリスクを抱える。政府は代替ルートでの調達を進めているが、紅海経由のルートは、同地域に紛争が拡大すれば一気に途絶えてしまう恐れもある。また、ほぼすべての原油を輸入に頼る日本では、ホルムズ海峡封鎖に伴う原油価格上昇は、交易条件の悪化を通じて所得の海外流出を招く。
他方、米国の原油輸入のうち、ホルムズ海峡を経由するものは僅かであり、ホルムズ海峡の封鎖が米国経済に直接与える悪影響は小さい。米国は世界最大の原油生産国であり、純輸出国でもある。原油価格上昇は交易条件を改善させ、米国の所得を押し上げる。
日本の金融市場は米国の金融市場との連動性が強いなか、このように原油価格上昇に強い米国での株価上昇にけん引され、原油価格の上昇に弱いはずの日本の株価が予想外に押し上げられているという側面があるだろう。さらに、イラン情勢の混乱が続く中でも、米国のAIブームへの期待は落ちておらず、それは日本の多くの関連銘柄の株価に引き続き追い風となっている。
第2の背景は、第1とも関わるが、ドル高円安の影響だ。原油価格の上昇は原油の純輸出国である米国の貿易収支を改善させ、また所得増加をもたらすことから、ドル買いにつながっている。
その結果生じるドル高円安は、従来日本株の上昇要因である。これは、円安によって円建ての輸出収入が増加し、輸出企業の収益を押し上げるとの期待が高まるからだ。
他方、イラン情勢を受けた原油価格の上昇は企業収益の悪化要因であるが、大手企業はそれを製品価格に転嫁して収益を維持できる環境になってきた、との認識が金融市場で広まっている。中小・零細企業は原油高や円安によるコストの上昇を製品価格に転嫁するのは概して難しく、収益は悪化しやすい。しかし、大企業の株式で構成される日経平均株価は、そうした中小・零細企業の収益環境を反映しない。
第3の背景は、日本銀行の利上げ見送りである。イラン情勢を受けて、一時はほぼ確実視されていた4月28日の次回金融政策決定会合での利上げ観測は、急速に萎んだ。これが足元での株高要因の一つとなっているだろう。
そもそも、過去数年の株高傾向にも、日本銀行の金融緩和継続の影響がある。実質金利が低い状態に据え置かれることは、不動産、株式など資産の価格を押し上げる。また、金融緩和は円安を生じさせ、それが円安と物価高の連鎖を生んできた。
円安・物価高は実質賃金の低下、労働分配率の低下を通じて国民生活を圧迫してきたが、そうした歪みこそが、大企業の名目収益を増加させ、株高傾向を支えてきたのである。
このように、足もとの日本株高は、日本経済、国民生活、企業全体の収益・経営環境を反映したものではなく、一種の経済の歪みの反映とも言える。
イラン情勢の混乱が続く中でこうした株高現象が崩れるとすれば、それも日本経済の悪化を反映するとは限らない。リスクは米国経済にあるのではないか。原油高は産油国である米国の経済に追い風になる可能性があるが、短期的には日本などの原油輸入国と同様に、ガソリンなど燃料価格の上昇を通じて、個人消費には逆風となる。トランプ関税の影響などから既に雇用情勢に変調が見られる米国で、ガソリン価格の大幅上昇は、個人消費を失速させる可能性があるだろう。
また、米国では、非上場企業へ資金を貸し出すプライベートクレジットの問題が燻ぶっている。これらの問題が広がれば、非上場企業の資金調達が制約されることで、米国経済が下振れるリスクや、銀行システム問題に発展するリスクもあるだろう。
イラン情勢の混乱が続く中でも日本の株価が上昇している背景は3つ考えられる。第1は、米国での株高の影響だ。ホルムズ海峡封鎖が経済に与えるリスクの大きさという点で、日米間には大きな違いがある。日本は原油の9割程度を、ホルムズ海峡を経由した輸入に依存している。ホルムズ海峡の封鎖が続けば、いずれ原油・ナフサが不足する深刻なリスクを抱える。政府は代替ルートでの調達を進めているが、紅海経由のルートは、同地域に紛争が拡大すれば一気に途絶えてしまう恐れもある。また、ほぼすべての原油を輸入に頼る日本では、ホルムズ海峡封鎖に伴う原油価格上昇は、交易条件の悪化を通じて所得の海外流出を招く。
他方、米国の原油輸入のうち、ホルムズ海峡を経由するものは僅かであり、ホルムズ海峡の封鎖が米国経済に直接与える悪影響は小さい。米国は世界最大の原油生産国であり、純輸出国でもある。原油価格上昇は交易条件を改善させ、米国の所得を押し上げる。
日本の金融市場は米国の金融市場との連動性が強いなか、このように原油価格上昇に強い米国での株価上昇にけん引され、原油価格の上昇に弱いはずの日本の株価が予想外に押し上げられているという側面があるだろう。さらに、イラン情勢の混乱が続く中でも、米国のAIブームへの期待は落ちておらず、それは日本の多くの関連銘柄の株価に引き続き追い風となっている。
第2の背景は、第1とも関わるが、ドル高円安の影響だ。原油価格の上昇は原油の純輸出国である米国の貿易収支を改善させ、また所得増加をもたらすことから、ドル買いにつながっている。
その結果生じるドル高円安は、従来日本株の上昇要因である。これは、円安によって円建ての輸出収入が増加し、輸出企業の収益を押し上げるとの期待が高まるからだ。
他方、イラン情勢を受けた原油価格の上昇は企業収益の悪化要因であるが、大手企業はそれを製品価格に転嫁して収益を維持できる環境になってきた、との認識が金融市場で広まっている。中小・零細企業は原油高や円安によるコストの上昇を製品価格に転嫁するのは概して難しく、収益は悪化しやすい。しかし、大企業の株式で構成される日経平均株価は、そうした中小・零細企業の収益環境を反映しない。
第3の背景は、日本銀行の利上げ見送りである。イラン情勢を受けて、一時はほぼ確実視されていた4月28日の次回金融政策決定会合での利上げ観測は、急速に萎んだ。これが足元での株高要因の一つとなっているだろう。
そもそも、過去数年の株高傾向にも、日本銀行の金融緩和継続の影響がある。実質金利が低い状態に据え置かれることは、不動産、株式など資産の価格を押し上げる。また、金融緩和は円安を生じさせ、それが円安と物価高の連鎖を生んできた。
円安・物価高は実質賃金の低下、労働分配率の低下を通じて国民生活を圧迫してきたが、そうした歪みこそが、大企業の名目収益を増加させ、株高傾向を支えてきたのである。
このように、足もとの日本株高は、日本経済、国民生活、企業全体の収益・経営環境を反映したものではなく、一種の経済の歪みの反映とも言える。
イラン情勢の混乱が続く中でこうした株高現象が崩れるとすれば、それも日本経済の悪化を反映するとは限らない。リスクは米国経済にあるのではないか。原油高は産油国である米国の経済に追い風になる可能性があるが、短期的には日本などの原油輸入国と同様に、ガソリンなど燃料価格の上昇を通じて、個人消費には逆風となる。トランプ関税の影響などから既に雇用情勢に変調が見られる米国で、ガソリン価格の大幅上昇は、個人消費を失速させる可能性があるだろう。
また、米国では、非上場企業へ資金を貸し出すプライベートクレジットの問題が燻ぶっている。これらの問題が広がれば、非上場企業の資金調達が制約されることで、米国経済が下振れるリスクや、銀行システム問題に発展するリスクもあるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。