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為替介入で1ドル155円台半ばまで円高が進行

4月30日の海外市場で、日本政府はドル売り円買いの為替介入を実施した。同日の日本時間午後3時台に、ドル円レートは160円70銭近辺まで下落し、前回の円買い介入があった2024年7月以来の円の安値を付けていた。
 
これを受けて当局による異例の強い口先介入が行われた。三村財務官は「いよいよ断固たる措置をとる時が近づいている」「これは最後の退避勧告として申し上げる」とかなり強い口調での発言を行った。片山財務相も「外出の時もお休みのときもスマホを離さずに」と語った。
 
こうした発言を受けてドル円レートは1ドル159円台まで円高が進んだが、そのタイミングを逃さずに、円の押し上げ介入が行われたのである。日本時間の夜7時頃から急速に円高が進み、日本時間の午後8時台には一時1ドル155円台半ばまで一気に円高が進んだ。5時間程度の間に5円程度も円高が進んだことになる。

大型連休中に再度為替介入が行われる可能性も

政府によるドル売り円買いの為替介入は2024年7月‌以来であるが、⁠同年の4月末と5月初めの大型連休中にも為替​介入が行われた。今回も大型連休中に再びドル売り円買いの為替介入が行われる可能性があるだろう。大型連休中は市場参加者が限られ取引量が小さいことから、為替介入の効果は高まりやすい。
 
2024年に実施された為替介入の規模は、4月29日が5.9兆円、5月1日が3.9兆円、7月11日が3.2兆円、7月12日が2.4兆円、合計で15.3兆円であった。ドル円レートを5円程度と大きく動かしたことを踏まえると、今回の為替介入も5兆円前後の大きな規模であった可能性が考えられる。

為替介入は時間稼ぎの政策

日本銀行によると日本の外国為替市場の1日の平均取引高は、2025年4月時点で約4,402億ドルである。これは現在のドル円レートで換算すれば68.9兆円である。為替介入の規模はこの1日の取引高と比べれば小さく、為替市場の需給に大きな影響を与えることはできない。そのため、為替介入のみで円安の流れを変えることは難しい。
 
しかし、為替介入によって一時的に為替相場を動かせば、市場にはしばらくの間は為替介入への警戒感が続くことから、円安を一定期間食い止める効果が期待できる。
 
このように、為替介入は「時間を買う」政策であり、時間を稼いでいる間に為替市場を取り巻く環境が変化することを期待する政策だ。今回の為替介入によって、最短でも数週間、最長では数か月間は、1ドル160円を超える円安は回避できる可能性があるだろう。
 
足もとで円安が進んだ最大の理由は、イラン情勢と原油価格の高騰だ。これらは、日本の政策対応によって変えることはできない。日本政府は必要に応じて追加のドル売り円買い介入を実施した上で、イラン情勢と原油市場が安定を取り戻すのを待つ以外にできることはない。
 
(参考資料)
「連休はざまの円買い介入、投機筋狙い撃ち 一時155円台まで急騰」、2026年5月1日、日本経済新聞電子版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。