トランプ大統領がEU自動車の関税率を25%に引き上げると投稿
トランプ米大統領は5月1日に、欧州連合(EU)からの輸入自動車に対する関税を15%から25%に引き上げる、と投稿した。EU27か国が昨年署名した貿易協定を遵守していないことをその理由に挙げた。関税率を来週引き上げるとしたが、今のところ関税率引き上げに向けた公式な措置は講じられていない。現状では、トランプ大統領の常套手段である脅しによって、相手から譲歩を引き出す戦略の可能性が考えられる。
トランプ大統領が関税率の引き上げを示唆したのは、米国・イスラエルによるイランとの戦闘で欧州諸国が協力的でなかったことへの報復という側面があると考えられる。トランプ関税とイラン紛争という、トランプ政権が生み出した2つの大きな地政学リスクが結びつき始めた。
EUの自動車に対する米国の関税は、トランプ大統領がスコットランドでEUと締結した貿易協定の一環として、昨年15%に設定された。欧州議会は現在、EU側の協定履行に向けた法案の可決に向けた審議を進めている。トランプ政権が協定に基づく約束を破った場合に、EUが計画している対米関税引き下げを一時停止できるセーフガード条項を盛り込むべきだという主張もあり、審議は難航している。トランプ大統領が関税率引き上げを示唆したことで、法案可決に否定的な意見がEU内でさらに強まる可能性もあるだろう。
トランプ大統領は昨年、韓国に対しても同様の戦術を用いた。米韓の関税合意に基づく国内法可決の遅れを批判し、韓国からの自動車および自動車部品に対し25%の報復関税を課すと発表した。その後、度重なる交渉を経て、関税率は15%で合意した。
トランプ大統領が関税率の引き上げを示唆したのは、米国・イスラエルによるイランとの戦闘で欧州諸国が協力的でなかったことへの報復という側面があると考えられる。トランプ関税とイラン紛争という、トランプ政権が生み出した2つの大きな地政学リスクが結びつき始めた。
EUの自動車に対する米国の関税は、トランプ大統領がスコットランドでEUと締結した貿易協定の一環として、昨年15%に設定された。欧州議会は現在、EU側の協定履行に向けた法案の可決に向けた審議を進めている。トランプ政権が協定に基づく約束を破った場合に、EUが計画している対米関税引き下げを一時停止できるセーフガード条項を盛り込むべきだという主張もあり、審議は難航している。トランプ大統領が関税率引き上げを示唆したことで、法案可決に否定的な意見がEU内でさらに強まる可能性もあるだろう。
トランプ大統領は昨年、韓国に対しても同様の戦術を用いた。米韓の関税合意に基づく国内法可決の遅れを批判し、韓国からの自動車および自動車部品に対し25%の報復関税を課すと発表した。その後、度重なる交渉を経て、関税率は15%で合意した。
経済面でのトランプリスク
トランプ関税は、欧州経済に大きな打撃を与えている。欧州自動車工業会によると、米国は欧州自動車輸出にとって2番目に大きな市場であり、輸出総額の約5分の1を占めている。欧州自動車工業会は4月に、EUから米国への自動車輸出が2025年には2割程度減少したと発表した。これは主にトランプ大統領の関税措置によるものだったという。
ドイツは輸出品の中国市場の依存度を下げる中で、それを米国でのシェア拡大で補う戦略をとってきた。しかしそうした戦略は、トランプ関税によって打撃を受けている。
防衛支出と公共インフラ投資の拡大が今年のドイツ経済成長を後押しすることが期待されていたが、イラン情勢によるエネルギー価格の急騰がその期待を打ち砕いてしまった。そしてトランプ大統領がEUの自動車への関税を15%から25%に引き上げると発表したことは、ドイツ経済の見通しをさらに悪化させている。
ドイツは輸出品の中国市場の依存度を下げる中で、それを米国でのシェア拡大で補う戦略をとってきた。しかしそうした戦略は、トランプ関税によって打撃を受けている。
防衛支出と公共インフラ投資の拡大が今年のドイツ経済成長を後押しすることが期待されていたが、イラン情勢によるエネルギー価格の急騰がその期待を打ち砕いてしまった。そしてトランプ大統領がEUの自動車への関税を15%から25%に引き上げると発表したことは、ドイツ経済の見通しをさらに悪化させている。
安全保障面でのトランプリスク
イランとの戦闘で欧州諸国が協力的でなかったことを受けてトランプ大統領が欧州に打ち出しているのは、関税率引き上げだけではない。
トランプ大統領は、ドイツに駐留する米軍部隊のうち5,000人を撤収させることを決定した。ただし、それ自体がドイツの安全保障を大きく揺るがすわけではない。撤収される5,000人は現在ドイツに駐留している約3万6,000人の約14%に過ぎず、トランプ大統領が1期目に実施しようとした1万2,000人の削減よりもはるかに小さい。またドイツにある部隊の大半は世界中の米軍の軍事作戦に従事しており、ドイツを守るためにいるわけでもない。
より大きな懸念は、米国がドイツに巡航ミサイル「トマホーク」と極超音速ミサイル「ダークイーグル」を運用する大隊を配備しないことを決定したことだ。両ミサイルを運用する大隊の配備は、ロシアによる北大西洋条約機構(NATO)への攻撃を抑止する取り組みとして、2024年に当時のバイデン政権が結んだ合意に基づくものだった。この決定は、ドイツの対ロシアの安全保障体制を脆弱化させかねない。
ドイツはメルツ政権の下、2029年までに通常兵器による欧州最大の軍事力を保有することを目標に、軍事費を増額し、装備調達を加速させてきた。同時にドイツは、米国による軍事的保護への依存度を下げ、米国の核の傘を補完するためにフランスと合意を結んだ。しかし米国への依存度低下はなお道半ばであり、その中での両ミサイルの配備の後退は大きな打撃だ。
こうしたトランプ政権決定の背景には、イランとの戦闘で欧州諸国が協力的でなかったことへの報復以外にも、イラン紛争による米軍の武器の不足という問題もある。さらに、イラン紛争後、米国がロシアとの対立関係を緩和させていることが、欧州地域での軍事力後退の判断につながっていることを、欧州諸国は強く警戒している。
このように、イラン紛争をきっかけに、トランプ政権はEUを、経済面、安全保障面で大きく揺さぶりはじめた。
(参考資料)
“Trump Says He Will Raise Tariffs on EU Cars and Trucks”, Wall Street Journal, May 2, 2026
“Germany and Europe Have Bigger Trump Problems Than U.S. Troop Withdrawal(ドイツと欧州、部隊撤収より深刻な「トランプ問題」)”, Wall Street Journal, May 3, 2026
トランプ大統領は、ドイツに駐留する米軍部隊のうち5,000人を撤収させることを決定した。ただし、それ自体がドイツの安全保障を大きく揺るがすわけではない。撤収される5,000人は現在ドイツに駐留している約3万6,000人の約14%に過ぎず、トランプ大統領が1期目に実施しようとした1万2,000人の削減よりもはるかに小さい。またドイツにある部隊の大半は世界中の米軍の軍事作戦に従事しており、ドイツを守るためにいるわけでもない。
より大きな懸念は、米国がドイツに巡航ミサイル「トマホーク」と極超音速ミサイル「ダークイーグル」を運用する大隊を配備しないことを決定したことだ。両ミサイルを運用する大隊の配備は、ロシアによる北大西洋条約機構(NATO)への攻撃を抑止する取り組みとして、2024年に当時のバイデン政権が結んだ合意に基づくものだった。この決定は、ドイツの対ロシアの安全保障体制を脆弱化させかねない。
ドイツはメルツ政権の下、2029年までに通常兵器による欧州最大の軍事力を保有することを目標に、軍事費を増額し、装備調達を加速させてきた。同時にドイツは、米国による軍事的保護への依存度を下げ、米国の核の傘を補完するためにフランスと合意を結んだ。しかし米国への依存度低下はなお道半ばであり、その中での両ミサイルの配備の後退は大きな打撃だ。
こうしたトランプ政権決定の背景には、イランとの戦闘で欧州諸国が協力的でなかったことへの報復以外にも、イラン紛争による米軍の武器の不足という問題もある。さらに、イラン紛争後、米国がロシアとの対立関係を緩和させていることが、欧州地域での軍事力後退の判断につながっていることを、欧州諸国は強く警戒している。
このように、イラン紛争をきっかけに、トランプ政権はEUを、経済面、安全保障面で大きく揺さぶりはじめた。
(参考資料)
“Trump Says He Will Raise Tariffs on EU Cars and Trucks”, Wall Street Journal, May 2, 2026
“Germany and Europe Have Bigger Trump Problems Than U.S. Troop Withdrawal(ドイツと欧州、部隊撤収より深刻な「トランプ問題」)”, Wall Street Journal, May 3, 2026
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。