&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

米雇用情勢に改善の兆し

米労働省が5月8日に発表した4月分雇用統計で、非農業部門雇用者数は雇用情勢の改善を示唆した。
 
4月の非農業部門雇用者数は前月比11.5万人増となり、市場予想の約6.5万人増を上回った。昨年の雇用者増加数は前月比でプラスとマイナスを繰り返し、明確な増加傾向は見られなかったが、今年4月分ではおよそ1年ぶりに2か月連続での増加となった。また、2か月間の増加幅としては2024年以来の大きさとなり、雇用情勢の改善を示唆している。
 
製造業での雇用の調整はなお続いているものの、4月は医療と運輸・倉庫、小売で雇用拡大が目立った。運輸・倉庫と小売はいずれも2024年以来の増加となった。
 
建設と娯楽・ホスピタリティの雇用も2か月連続で増加した。両業種では、厳冬による悪影響の反動が出た可能性がある。また、データセンター建設ブームが建設業での雇用を押し上げている面もある。
 
他方で、情報業界の雇用は4月に16か月連続で減少した。メタ・プラットフォームズやマイクロソフトなどのハイテク大手は、AI(人工知能)への巨額投資を一因として人員削減計画を打ち出している。
 
原油価格高騰のもとでも米雇用には逆に回復の兆しが見られている。しかし、原油価格高騰の悪影響が雇用を含めて米国経済に本格的に表れるのはこれからと考えられる。

消費者心理は急速に悪化

ガソリン価格の高騰の影響を受けて、8日に発表された5月の米ミシガン大消費者信頼感指数は、過去最低の48.2まで一気に低下した。事前予想の平均は49.5程度だった。
 
4月雇用統計で、平均時給は前月比+0.2%、前年同月比+3.6%増と、いずれも市場予想を下回った。こうしたもとで、ガソリン価格の高騰が続けば、実質賃金は低下するだろう。
 
5月の米ミシガン大消費者信頼感指数でさらに注目されたのは、先行きの物価見通しだ。目先の物価高騰への消費者の懸念は強まる一方、1年⁠後の​インフレ期待​は4.5%と4月の4.7%から低下した。5年後のイン​フレ期待も3.4%と4月は3.5%から低下した。これは、目先の物価高騰が景気を悪化させ、それが1年後、5年後には物価上昇率を下振れさせるとの見通しを反映していると考えられる。
 
このように、原油価格高騰といったサプライショックによる物価上昇は、景気の悪化を通じて中長期的、基調的な物価上昇率を下振れさせる可能性がある。米連邦準備制度理事会(FRB)内では、当面の物価上昇リスクの高まりを受けて利上げを示唆する発言も見られているが、潜在的な景気の下振れと中長期的、基調的な物価上昇率を下振れリスクも相応にあるなか、金融政策は簡単には転換できない。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。