エネルギー危機では各国が置かれた状況に差異
G7(主要7か国)は5月18~19日に、パリで財務相・中央銀行総裁会議を開く。中東情勢緊迫化、原油価格高騰への対応と新型AI(人工知能)を利用した金融システム攻撃への対応の2つが主要議題となりそうだ。
中東情勢緊迫化、原油価格高騰への対応では、G7が共同歩調をとることは難しそうだ。それは各国が置かれている状況に大きな差異があるためだ。各国ともに原油価格の高騰が景気を減速させかねないリスクであることは共通している。しかしその原因は、米国・イスラエルとイランの対立であり、財務相・中央銀行総裁が直接関与できない領域だ。
一方、今回のエネルギー危機がもたらす最も本質的な問題は、供給不足である。世界の原油供給の2割程度を担っていたホルムズ海峡の事実上の封鎖状態が続く中、原油、ナフサの深刻な供給不足を生んでいる。
しかしその深刻度はG7各国によって大きく異なる。世界最大の原油生産国である米国、同じく石油生産国のカナダや英国は、原油、ナフサの深刻な不足に直面することはない。ドイツ、フランス、イタリアもホルムズ海峡を経由した原油、ナフサの調達の割合は高くない。
最も深刻な供給不足に直面しているのは、従来、9割以上の原油の調達をホルムズ海峡経由のルートに依存していた日本だけである。そのため、G7としてエネルギー危機への対応で共同歩調をとることは難しいだろう。
中東情勢緊迫化、原油価格高騰への対応では、G7が共同歩調をとることは難しそうだ。それは各国が置かれている状況に大きな差異があるためだ。各国ともに原油価格の高騰が景気を減速させかねないリスクであることは共通している。しかしその原因は、米国・イスラエルとイランの対立であり、財務相・中央銀行総裁が直接関与できない領域だ。
一方、今回のエネルギー危機がもたらす最も本質的な問題は、供給不足である。世界の原油供給の2割程度を担っていたホルムズ海峡の事実上の封鎖状態が続く中、原油、ナフサの深刻な供給不足を生んでいる。
しかしその深刻度はG7各国によって大きく異なる。世界最大の原油生産国である米国、同じく石油生産国のカナダや英国は、原油、ナフサの深刻な不足に直面することはない。ドイツ、フランス、イタリアもホルムズ海峡を経由した原油、ナフサの調達の割合は高くない。
最も深刻な供給不足に直面しているのは、従来、9割以上の原油の調達をホルムズ海峡経由のルートに依存していた日本だけである。そのため、G7としてエネルギー危機への対応で共同歩調をとることは難しいだろう。
金融政策面での共同歩調は金融市場が大きく混乱する局面のみ
金融政策面での対応についても同様だ。欧州では、物価高に対応して利上げの議論が浮上している。米国でも一部で利上げが議論されている。
他方、日本の対応はより難しい。日本銀行が利上げをしても、物価高の原因である原油の価格を下げることはできず、また、様々な物価高の原因となっているナフサ由来の石油関連製品の生産を増加させ、供給不足を緩和することはできない。
利上げで唯一期待されるのは、物価の上昇見通しが定着しないようにけん制するという心理的な効果だけである。しかし、足もとでは日本銀行の利上げ観測が強まる中、長期金利は一段と上昇しており、利上げ観測がインフレ期待の上昇を抑える効果を発揮しているようにも見えない。エネルギー危機への金融政策面での対応は、日本が最も難しい。
G7が金融政策で共同歩調をとる局面があるとすれば、長期金利の急騰、株価急落など金融市場が大幅に混乱し、G7が協調緩和策をとることを強いられる局面だけではないか。
他方、日本の対応はより難しい。日本銀行が利上げをしても、物価高の原因である原油の価格を下げることはできず、また、様々な物価高の原因となっているナフサ由来の石油関連製品の生産を増加させ、供給不足を緩和することはできない。
利上げで唯一期待されるのは、物価の上昇見通しが定着しないようにけん制するという心理的な効果だけである。しかし、足もとでは日本銀行の利上げ観測が強まる中、長期金利は一段と上昇しており、利上げ観測がインフレ期待の上昇を抑える効果を発揮しているようにも見えない。エネルギー危機への金融政策面での対応は、日本が最も難しい。
G7が金融政策で共同歩調をとる局面があるとすれば、長期金利の急騰、株価急落など金融市場が大幅に混乱し、G7が協調緩和策をとることを強いられる局面だけではないか。
ミュトス問題で金融機関はリスク管理モデル再設計が求められる
G7財務相・中央銀行総裁会議でもう一つ大きな議論となるのは、米新興企業アンソロピックが開発した新型AI「クロード・ミュトス」が、金融システムの安定を脅かしかねないリスクとなっている、いわゆるミュトス問題への対応だ。
このミュトスは、専門家が27年間も見つけられなかった堅牢なシステムの脆弱性を数時間で特定したという。このミュトスを使って悪意のある人物、組織が、サイバー攻撃をしかけ、金融システムに甚大な被害を与えることへの対応が検討されている。また同社は、他社の開発は6~12か月ほど遅れているため、この時間を有効に活用し、信頼できるパートナーに限定公開することで、脆弱性の発見と修正に向けて取り組んでいくとしている。
アンソロピック社は、ミュトスの提供先を、グーグルやマイクロソフトといった米大手IT企業などに限ってきた。しかし、今後はサイバー攻撃への対応強化のために、海外の主要企業にもその対象を広げていく考えだ。日本のメガバンクはミュトスへのアクセス権を付与されると報じられている。
ミュトスなど新世代AIのリスクに対して、金融機関は単なるサイバー対策の高度化にとどまらず、リスク管理モデル再設計が求められている。それは第1に、脆弱性発見の大幅加速だ。脆弱性が見つかったソフトを修正し、サイバー攻撃に備える時間を従来の数週間から数時間などに短縮することが求められる。第2に、金融は相互接続性が高く、1箇所の障害が全体に波及しやすい。共通ソフトやクラウド依存により、複数の機関が同じ脆弱性を持つ。従って、対応は個別金融機関ではなく、金融機関全体で進める必要があるだろう。第3に、人海戦術に頼ったソフトの修正には限界があることから、AIを防御ツールとして活用し、AIに脆弱性検出からソフト修正の自動化(AIパッチング)までを担わせる必要があるだろう。
日本の金融機関は古い勘定系システムを抱えるところが多く、脆弱性のリスクはG7の中でも相対的に高い可能性があるのではないか。
(参考資料)
「G7財務相、新型AI「ミュトス」が主要議題に 金融リスク対策で協調」、2026年5月16日、日本経済新聞電子版
「新型AIの脅威 金融システムの防御を万全に」、2026年5月17日、読売新聞速報ニュース
「アンソロピック、AIミュトス対策組織を米国外に拡大 中国の脅威強調」、2026年5月15日、日本経済新聞電子版
このミュトスは、専門家が27年間も見つけられなかった堅牢なシステムの脆弱性を数時間で特定したという。このミュトスを使って悪意のある人物、組織が、サイバー攻撃をしかけ、金融システムに甚大な被害を与えることへの対応が検討されている。また同社は、他社の開発は6~12か月ほど遅れているため、この時間を有効に活用し、信頼できるパートナーに限定公開することで、脆弱性の発見と修正に向けて取り組んでいくとしている。
アンソロピック社は、ミュトスの提供先を、グーグルやマイクロソフトといった米大手IT企業などに限ってきた。しかし、今後はサイバー攻撃への対応強化のために、海外の主要企業にもその対象を広げていく考えだ。日本のメガバンクはミュトスへのアクセス権を付与されると報じられている。
ミュトスなど新世代AIのリスクに対して、金融機関は単なるサイバー対策の高度化にとどまらず、リスク管理モデル再設計が求められている。それは第1に、脆弱性発見の大幅加速だ。脆弱性が見つかったソフトを修正し、サイバー攻撃に備える時間を従来の数週間から数時間などに短縮することが求められる。第2に、金融は相互接続性が高く、1箇所の障害が全体に波及しやすい。共通ソフトやクラウド依存により、複数の機関が同じ脆弱性を持つ。従って、対応は個別金融機関ではなく、金融機関全体で進める必要があるだろう。第3に、人海戦術に頼ったソフトの修正には限界があることから、AIを防御ツールとして活用し、AIに脆弱性検出からソフト修正の自動化(AIパッチング)までを担わせる必要があるだろう。
日本の金融機関は古い勘定系システムを抱えるところが多く、脆弱性のリスクはG7の中でも相対的に高い可能性があるのではないか。
(参考資料)
「G7財務相、新型AI「ミュトス」が主要議題に 金融リスク対策で協調」、2026年5月16日、日本経済新聞電子版
「新型AIの脅威 金融システムの防御を万全に」、2026年5月17日、読売新聞速報ニュース
「アンソロピック、AIミュトス対策組織を米国外に拡大 中国の脅威強調」、2026年5月15日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。