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1-3月期実質GDPは年率+2.1%と事前予想をやや上回る

内閣府は19日に2026年1-3月期GDP統計(1次速報値)を発表した。実質GDPは前期比年率+2.1%と事前予想の平均値である+1.6%程度(日本経済新聞社調べ)を上回り、2四半期連続のプラスとなった。
 
実質輸出は前期比+1.7%増加し、成長率全体をけん引した。トランプ関税の影響が和らいだことなどが背景とみられる。中国政府は昨年11月から日本への渡航自粛を呼びかけている。3月時点で中国からの訪日客数は前年同月比-55.9%と予想を上回る減少が続いている。しかし、他地域からの訪日客数が堅調であることから、GDP統計では輸出等に計上されるインバウンド需要は、1-3月期も比較的堅調を維持したと見られる。
 
実質個人消費は前期比+0.3%増加したが、前期に0.0%と下振れた反動は大きく現れておらず、比較的低調である。物価高による個人消費への逆風は続いている。実質設備投資も前期比+0.3%と前期の+1.4%から大きく減速しており、内需は総じて力強さを欠いている。
 
債券市場は原油高による物価上昇懸念を足もとで強めているが、1—3月期のGDPデフレータは前年同期比+3.4%、国内需要デフレータは+2.6%と、それぞれ前期と同水準にとどまった。

4-6月期以降はスタグフレーションの様相が強まる

1—3月期の実質GDPは事前予想をやや上回ったが、問題はイラン紛争と原油価格高騰などの影響が本格的に反映され始める4-6月期以降の経済情勢だ。イラン情勢の膠着とホルムズ海峡の事実上の通航停止が続けば、日本では原油・ナフサ不足への懸念から生産減少が続き、それが品不足と価格高騰をもたらす。つまり、スタグフレーション的な様相は強まっていく方向だ。
 
現時点では日本経済の状況はなお比較的落ち着いているものの、時間とともに徐々に厳しさを増していくことが予想される。最悪のケースでは、石油備蓄を使い果たし、海外から調達できる原油・ナフサの供給水準まで、需要を削減する必要が生じる。その場合、日本経済は大幅な縮小を強いられる。
 
そうした事態は簡単には生じないとしても、企業が原油・ナフサの調達への不安から生産削減を続ければ、日用品などの品不足傾向が徐々に強まっていき、価格の高騰と相まって個人消費は一定程度の縮小を強いられるだろう。
 
高市首相は、6月には原油の代替ルートでの調達量が従来の7割程度になるとの見通しを発表した。また、原油から作られるナフサの調達も年明けまでめどがついたとしている。
 
しかし一方で、ナフサ由来製品の供給不足などのニュースが連日報じられている。足もとでは、カルビーが印刷インク原料の供給不安から、ポテトチップスなどの一部主力商品でパッケージを白と黒の2色に切り替える措置を発表している。政府の発表と実際の企業の対応との差はどこから生まれるのだろうか。

原油・ナフサの供給不足に対する企業の不安が解消されない3つの理由

原油・ナフサの供給不足に対する企業の不安が解消されていないことに、その差の原因があると思われる。企業の不安が続く背景は3つだ。第1に、政府が、目途が立ったとしている原油・ナフサの調達であるが、世界中で原油・ナフサの争奪戦が繰り広げられている中、今後も安定的に調達を続けることができる保証はない。また、原油・ナフサの代替ルートでの調達のかなりの部分を占めると考えられる紅海ルートは、紛争の拡大でいつ閉ざされるか分からない状況だ。
 
第2に、政府が代替ルートを通じて確保したナフサは、個々の企業が必要とする種類、成分構成のナフサとは限らないことだ。いわゆるミスマッチが生じているのである。
 
第3は、原油・ナフサの価格高騰だ。ナフサの価格が高騰すると、ナフサからエチレンなどを生産しても、価格高騰分を製品に価格転嫁できなければ、企業は生産するだけ損失を拡大させてしまう恐れがある。また、仮に価格転嫁ができるとしても、価格上昇により製品の需要(販売)が減ればやはり損失が生じる。
 
このように、異例の価格高騰が企業の減産を生んでいるのである。またそうした動きが製造プロセスの川下にまで広がると、ナフサ由来の日用品に深刻な供給不足が生じ、それが価格の上昇を招く。供給不足と価格高騰が様々な製造・流通段階で相乗的に進むリスクがあるのが現状だ。

ホルムズ海峡の正常化と原油価格下落が待たれる

以上の点から、政府が原油・ナフサの代替ルートでの調達を進めても、企業の供給不足への懸念は残り、その結果、減産の動きが続く。時間の経過とともに各種製品の供給不足と価格高騰のリスクを高めるだろう。それは日本経済全体で見れば、スタグフレーションの様相をより強めることになる。
 
こうした事態が解消に向かうきっかけとなるのは、ホルムズ海峡の船舶の通航が正常化する見通しとなり、原油価格が大きく低下することだろう。その場合でも価格の上昇や各種製品の品不足は、半年程度は続く可能性があるものの、企業が原油・ナフサの供給不足への懸念を緩和させ生産を増加させることで、事態は徐々に安定へと向かうだろう。

長期金利の上昇も景気下振れ要因に

日本銀行の政策金利である0.75%はなお十分に低い水準であり、それが景気の足を引っ張ることはないだろう。しかし、10年国債で2.8%に達した長期金利は、既に景気抑制的な水準まで上昇してきた可能性がある。
 
長期金利の上昇が家計に与える直接的な影響は、固定型住宅ローンの金利上昇などに限定されるが、企業の資金調達コストの上昇が設備投資を下振れさせ、また、企業収益の悪化が雇用、賃金を下振れさせるなど、家計にも悪影響が及ぶ可能性がある。また長期金利の上昇が株価を下落させることから生じる経済への悪影響も考えられるところだ。
 
長期金利の上昇は世界的な現象であり、原油価格高騰の物価への影響が長期化するとの懸念が背景にある。ただし日本では、政府が補正予算編成を検討するなど、財政環境のさらなる悪化懸念も長期金利の上昇を促している。政府は、長期金利の上昇や円安進行を、財政の健全性を懸念する金融市場の警鐘と真摯に受け止め、財政の持続性により配慮した政策運営を進めていくことが求められる。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。