四半期末の解約可能時期に懸念は高まりやすい
今年3月に一気に盛り上がった米国プライベート・クレジット・ファンドへの懸念は、その後やや落ち着きを取り戻した感もある。しかし、実際には懸念はなお続いているのだろう。3月に入ってにわかに注目を集めたのは、セミリキッド(半流動性)BDC(ビジネス・デベロップメント・カンパニー、非上場企業に投資するファンド)に対する解約請求が増えた一方、ファンドは規則に基づいてそれに制約をかけたためだ。資産価値の下落に不安を感じて自身の投資資金を回収しようとする際に、それが思う通りにできないことが、投資家の不安を増幅させた。
制限付きの解約は四半期末に解約を可能とするケースが多いとみられる。それが四半期末の3月に入って問題が注目された背景だ。次の解約可能時期である6月に、プライベート・クレジット・ファンドへのリスクは再び注目を集めることになるだろう。3月に解約できなかった投資家は、6月にも解約を申請するとみられる。しかし、解約制限によって再び申請した解約が実現できなかった投資家は、9月にも解約を申請するだろう。こうして問題は長期化しやすい。
プライベート・クレジット・ファンドの貸出先企業の一部にデフォルトが生じたことが、解約申請増加のきっかけとなった。さらに今年に入ってからは、ファンドの主な貸出先の一つであるソフトウエア会社がAIによって業務を奪われるという「SaaS(Software as a Service)の死」懸念が、解約申請を増幅した。
制限付きの解約は四半期末に解約を可能とするケースが多いとみられる。それが四半期末の3月に入って問題が注目された背景だ。次の解約可能時期である6月に、プライベート・クレジット・ファンドへのリスクは再び注目を集めることになるだろう。3月に解約できなかった投資家は、6月にも解約を申請するとみられる。しかし、解約制限によって再び申請した解約が実現できなかった投資家は、9月にも解約を申請するだろう。こうして問題は長期化しやすい。
プライベート・クレジット・ファンドの貸出先企業の一部にデフォルトが生じたことが、解約申請増加のきっかけとなった。さらに今年に入ってからは、ファンドの主な貸出先の一つであるソフトウエア会社がAIによって業務を奪われるという「SaaS(Software as a Service)の死」懸念が、解約申請を増幅した。
制度上の問題という点が小さくない
プライベート・クレジット・ファンドに関わる問題は、融資先企業の経営悪化以上に、制度上の問題という点が小さくないように思われる。本来、5~7年といった長期の資金を中小企業に融資するための、途中解約ができないクローズド・ファンドの仕組みであった。
しかし、短期志向が強く、資産の流動性への選好が強い個人投資家の資金を取り込む過程で、クローズド・ファンドの性格が変容していき、一定程度の解約を認める仕組みが広がっていった。その結果、中途半端な仕組みになってしまった感がある。
完全にクローズドなファンドで、途中解約が認められていなければ、今回のような混乱は生じなかった可能性がある。他方、いつでも解約可能なオープン・ファンドであれば、いつでも解約できるとの安心から、投資家の不安はここまで高まらなかったのではないか。セミリキッドBDCという中途半端な仕組みこそが、今回の混乱の底流にあるのではないか。
さらに、ファンドの資産が長期の融資である一方、資金調達が短期となれば、両者にミスマッチが生じる。解約が相次げば、ファンドは自らの資金を融資に充てる、借り入れを増やす、新規の融資を抑えるなどの対応が必要となる。新規の融資を抑えれば、中小企業の経営や経済全体にもマイナスの影響を生じさせ、それが融資先の企業のデフォルト率上昇などにつながる可能性もあるだろう。
しかし、短期志向が強く、資産の流動性への選好が強い個人投資家の資金を取り込む過程で、クローズド・ファンドの性格が変容していき、一定程度の解約を認める仕組みが広がっていった。その結果、中途半端な仕組みになってしまった感がある。
完全にクローズドなファンドで、途中解約が認められていなければ、今回のような混乱は生じなかった可能性がある。他方、いつでも解約可能なオープン・ファンドであれば、いつでも解約できるとの安心から、投資家の不安はここまで高まらなかったのではないか。セミリキッドBDCという中途半端な仕組みこそが、今回の混乱の底流にあるのではないか。
さらに、ファンドの資産が長期の融資である一方、資金調達が短期となれば、両者にミスマッチが生じる。解約が相次げば、ファンドは自らの資金を融資に充てる、借り入れを増やす、新規の融資を抑えるなどの対応が必要となる。新規の融資を抑えれば、中小企業の経営や経済全体にもマイナスの影響を生じさせ、それが融資先の企業のデフォルト率上昇などにつながる可能性もあるだろう。
不透明な銀行の関与
金融当局や金融市場にとって大きな懸念であるのは、プライベート・クレジット・ファンドに銀行がどの程度関与しているか、という点だ。
金融調査局(OFR)によると、大半のファンドはほとんど借り入れをしていないが、5%のファンドは資本の3.6倍以上を借り入れているという(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。これは銀行の平均的な数値である10倍超を下回っているが、ファンドとしては高い水準だ。金融当局はまた、ファンドは十分な情報開示を求められていないことから、銀行借り入れが多層的になり、全体像が見えなくなっている可能性を警戒している。
金融安定理事会(FSB)は5月6日に、「プライベートクレジットのレバレッジは複数の層にさまざまなレベルで存在しており、投資先企業やプライベート・クレジット・ファンドの内部、スポンサーレベルのほか、投資家の資金調達にも存在する。市場が圧迫された場合には、この多層的な効果によって損失が拡大する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
6月の解約時期に向けてプライベート・クレジット・ファンドへの懸念は再び高まり、金融市場、金融システム全体に悪影響を及ぼすことへの懸念は払しょくできない状況がなおも続くだろう。
(参考資料)
“Private Credit Isn’t a Major Threat-Probably(プライベートクレジットは大きな脅威でない、恐らくは)”, Wall Street Journal, May 12, 2026
金融調査局(OFR)によると、大半のファンドはほとんど借り入れをしていないが、5%のファンドは資本の3.6倍以上を借り入れているという(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。これは銀行の平均的な数値である10倍超を下回っているが、ファンドとしては高い水準だ。金融当局はまた、ファンドは十分な情報開示を求められていないことから、銀行借り入れが多層的になり、全体像が見えなくなっている可能性を警戒している。
金融安定理事会(FSB)は5月6日に、「プライベートクレジットのレバレッジは複数の層にさまざまなレベルで存在しており、投資先企業やプライベート・クレジット・ファンドの内部、スポンサーレベルのほか、投資家の資金調達にも存在する。市場が圧迫された場合には、この多層的な効果によって損失が拡大する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
6月の解約時期に向けてプライベート・クレジット・ファンドへの懸念は再び高まり、金融市場、金融システム全体に悪影響を及ぼすことへの懸念は払しょくできない状況がなおも続くだろう。
(参考資料)
“Private Credit Isn’t a Major Threat-Probably(プライベートクレジットは大きな脅威でない、恐らくは)”, Wall Street Journal, May 12, 2026
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。