USMCAの6年ごとの見直し時期が近づく
米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を巡る米国とメキシコの2国間交渉が5月27日に始まった。米国とメキシコは6月16・17日に米ワシントンで2回目、7月20日以降にメキシコで3回目の交渉を行うことで合意した。
他方、米国とカナダとの交渉はまだ始まっていない。この2つの国への米国の対応の違いは、米国企業にとって、カナダよりも生産コストがかなり低いメキシコでの生産がUSMCAの見直しによって受ける影響がより大きく重要であること、トランプ関税を巡って米国とカナダが対立したことで、貿易問題を巡る両国間の交渉が途絶えてしまったことが関係しているとみられる。
3国間には1994年から北米自由貿易協定(NAFTA)が結ばれていたが、それにトランプ大統領が不満を持ち、トランプ第1次政権時代に新たに交渉をして2020年に発効させたものがUSMCAだ。
USMCAでは、自動車の域内調達比率の条件強化(北米で生産された付加価値が62.5%以上⇒75%以上)、労働基準強化、デジタル貿易のルール新設、環境・知的財産の強化などが実施された。NAFTAは自由貿易の推進が目的であったのに対して、USMCAは米国の保護主義的な政策をより反映するものに修正された。
さらに、USMCAは期限付きの協定(サンセット条項)になったことも、NAFTAからの大きな修正点だ。USMCAは2036年までの16年間が期限であり、6年ごとに協定を見直す。その最初の6年目が今年の7月に当たる(ジョイント・レビュー)ことから、米国、メキシコの2国間交渉が始められたのである。3か国が合意すれば協定は2042年まで延長されるが、合意できなければ毎年見直し交渉を繰り返す必要があり、不確実性が強く残ることになる。
他方、米国とカナダとの交渉はまだ始まっていない。この2つの国への米国の対応の違いは、米国企業にとって、カナダよりも生産コストがかなり低いメキシコでの生産がUSMCAの見直しによって受ける影響がより大きく重要であること、トランプ関税を巡って米国とカナダが対立したことで、貿易問題を巡る両国間の交渉が途絶えてしまったことが関係しているとみられる。
3国間には1994年から北米自由貿易協定(NAFTA)が結ばれていたが、それにトランプ大統領が不満を持ち、トランプ第1次政権時代に新たに交渉をして2020年に発効させたものがUSMCAだ。
USMCAでは、自動車の域内調達比率の条件強化(北米で生産された付加価値が62.5%以上⇒75%以上)、労働基準強化、デジタル貿易のルール新設、環境・知的財産の強化などが実施された。NAFTAは自由貿易の推進が目的であったのに対して、USMCAは米国の保護主義的な政策をより反映するものに修正された。
さらに、USMCAは期限付きの協定(サンセット条項)になったことも、NAFTAからの大きな修正点だ。USMCAは2036年までの16年間が期限であり、6年ごとに協定を見直す。その最初の6年目が今年の7月に当たる(ジョイント・レビュー)ことから、米国、メキシコの2国間交渉が始められたのである。3か国が合意すれば協定は2042年まで延長されるが、合意できなければ毎年見直し交渉を繰り返す必要があり、不確実性が強く残ることになる。
トランプ政権は協定見直し後も関税維持の考え
トランプ政権は米国がカナダ、メキシコに対して巨額の貿易赤字を抱えていることに強い不満を持っており、貿易赤字の縮小と米国への生産移転を促す方向で協定を見直す考えだ。
通商代表部(USTR)は、「現協定をそのまま更新することはない」と宣言しており、トランプ大統領は「USMCAはもはや不要」とし、協定離脱も辞さない強硬姿勢を見せている。
USTRのグリア代表は5月26日に、USMCAの見直しについて、「メキシコのような国や、同じ半球内の他の国に対しても、巨額の貿易赤字を抱えている限り関税は続く」と述べ、USMCAが無関税の貿易協定として継続することはない、との考えを示した。同氏は先月、協定見直し後も自動車や鉄鋼への関税は維持されると述べており、関税継続はこの2分野を主に念頭に置いている可能性がある。いずれも分野別関税の対象である。
トランプ政権はUSMCAという自由貿易協定を結んでいながら、追加関税にはカナダ、メキシコの両国も対象とした。ただし、国内自動車産業などの意見を反映させ、USMCAの基準を満たす製品への関税猶予や優遇措置を受け入れる、という配慮をしてきた。
通商代表部(USTR)は、「現協定をそのまま更新することはない」と宣言しており、トランプ大統領は「USMCAはもはや不要」とし、協定離脱も辞さない強硬姿勢を見せている。
USTRのグリア代表は5月26日に、USMCAの見直しについて、「メキシコのような国や、同じ半球内の他の国に対しても、巨額の貿易赤字を抱えている限り関税は続く」と述べ、USMCAが無関税の貿易協定として継続することはない、との考えを示した。同氏は先月、協定見直し後も自動車や鉄鋼への関税は維持されると述べており、関税継続はこの2分野を主に念頭に置いている可能性がある。いずれも分野別関税の対象である。
トランプ政権はUSMCAという自由貿易協定を結んでいながら、追加関税にはカナダ、メキシコの両国も対象とした。ただし、国内自動車産業などの意見を反映させ、USMCAの基準を満たす製品への関税猶予や優遇措置を受け入れる、という配慮をしてきた。
原産地規則の厳格化と中国製品の米国への迂回輸出封じを求めるか
米国の自動車メーカー、販売店、部品メーカーを代表する7つの団体は、USMCAにより、「年間で数百億ドルの節約につながっている」としている。そのうえでこれらの団体は、現行のUSMCA協定を更新するようトランプ政権に要求している。
トランプ政権は、カナダとメキシコとの間の貿易赤字を縮小すること、両国を通じた中国企業の米国への迂回輸出を阻止すること、両国から米国への生産移転を通じて、米国の製造業の復活を支えることを念頭に置き、USMCAの見直しを進める考えだろう。
この観点から、自動車などで原産地規則をさらに厳格化すること、中国製品の米国への迂回輸出を封じるため、他国に対する関税引き上げを求めることが予想される。それ以外にも、労働ルール・投資規制の強化も求める可能性がある。
これらの見直しは、カナダとメキシコの利害と大きく対立するため、交渉は難航が避けられない。
トランプ政権は、カナダとメキシコとの間の貿易赤字を縮小すること、両国を通じた中国企業の米国への迂回輸出を阻止すること、両国から米国への生産移転を通じて、米国の製造業の復活を支えることを念頭に置き、USMCAの見直しを進める考えだろう。
この観点から、自動車などで原産地規則をさらに厳格化すること、中国製品の米国への迂回輸出を封じるため、他国に対する関税引き上げを求めることが予想される。それ以外にも、労働ルール・投資規制の強化も求める可能性がある。
これらの見直しは、カナダとメキシコの利害と大きく対立するため、交渉は難航が避けられない。
想定される3つのシナリオ
トランプ政権の姿勢を踏まえれば、USMCAが現状のまま承認される可能性は極めて低い。そのうえで今後のシナリオは大きく3つ考えられる。
第1は、カナダとメキシコが、トランプ政権の要求を受け入れ、USMCAが修正されるシナリオだ。この場合、関税の対象は拡大し、USMCAの自由貿易協定としての性格はさらに後退する。大幅な見直しとなれば、米議会の承認が必要となる。
第2は、3か国の交渉が決裂し、USMCAが承認されないシナリオだ。この場合には、毎年見直しを継続することになり、企業にとって強い不確実性が残る。
第3は、米国がUSMCA離脱を通告するシナリオだ。その場合、米国はNAFTA以前のようにカナダ、メキシコとそれぞれ2国間協定を締結することを目指すことになるだろう。離脱は通知から6か月で発効する。USMCA修正の交渉が決裂し、トランプ政権が離脱を通知してから6か月の間に新たな2国間協定を締結することは難しいだろう。その場合、カナダ、メキシコで生産を行い、米国に製品を輸出する企業は大きな打撃を受ける。
第1は、カナダとメキシコが、トランプ政権の要求を受け入れ、USMCAが修正されるシナリオだ。この場合、関税の対象は拡大し、USMCAの自由貿易協定としての性格はさらに後退する。大幅な見直しとなれば、米議会の承認が必要となる。
第2は、3か国の交渉が決裂し、USMCAが承認されないシナリオだ。この場合には、毎年見直しを継続することになり、企業にとって強い不確実性が残る。
第3は、米国がUSMCA離脱を通告するシナリオだ。その場合、米国はNAFTA以前のようにカナダ、メキシコとそれぞれ2国間協定を締結することを目指すことになるだろう。離脱は通知から6か月で発効する。USMCA修正の交渉が決裂し、トランプ政権が離脱を通知してから6か月の間に新たな2国間協定を締結することは難しいだろう。その場合、カナダ、メキシコで生産を行い、米国に製品を輸出する企業は大きな打撃を受ける。
USMCAが一気に解消される可能性は低いか
このうち第3の可能性が最も低いのではないかと考える。トランプ政権は、関税問題でも他国に非常に厳しい態度をとってはいるが、米国企業には十分に配慮してきた。USMCAを一気に解消し、米企業がカナダやメキシコで生産した製品の輸入に高関税を課すことは避けるのではないか。
現在、国際緊急権限法(IEEPA)に基づく相互課税とカナダやメキシコに対する一律関税は、最高裁の違法判決によって失効しており、10%の代替関税がすべての輸入品に課されている。しかしトランプ政権は、通商法301条に基づく関税で、相互関税を復活させようとしている。その際に、カナダやメキシコに対するいわゆるフェンタニル関税も復活させるのであれば、その関税率は原則25%になるだろう。
また、分野別関税では原則、自動車に25%、鉄鋼に50%が課せられている。仮にUSMCAが解消されれば、USMCA原産地規則を満たす製品は例外とする適用はなくなり、カナダ、メキシコからの輸入品にそれらの関税が一気にかかる可能性が出てくる。それは、米企業への大きな打撃となることから、トランプ政権は避けるのではないか。
他方、第1と第2のシナリオは、共に実現可能性が相応に高いように思われるが、第1のシナリオの可能性の方がやや高く、これがメインシナリオなのではないか。
第1のシナリオの場合には、カナダやメキシコから輸入する際の課税対象範囲が拡大することになる。他方、第2のシナリオの場合には、現状と変わらないが、強い不確実性が残ることになり、企業活動に対しては打撃となるだろう。
また第1のシナリオの場合には、関税強化の動きが自動車、鉄鋼中心となるのか、それ以外の分野にも広がるのかが、大きな注目点となる。
(参考資料)
「どうなるUSMCA見直し交渉、壁はトランプ氏 米企業「現状維持を」」、2026年5月24日、日本経済新聞電子版
「米・メキシコ、カナダ抜きで3回の通商交渉 USMCA見直しで」、2026年5月27日、ロイター通信ニュース
現在、国際緊急権限法(IEEPA)に基づく相互課税とカナダやメキシコに対する一律関税は、最高裁の違法判決によって失効しており、10%の代替関税がすべての輸入品に課されている。しかしトランプ政権は、通商法301条に基づく関税で、相互関税を復活させようとしている。その際に、カナダやメキシコに対するいわゆるフェンタニル関税も復活させるのであれば、その関税率は原則25%になるだろう。
また、分野別関税では原則、自動車に25%、鉄鋼に50%が課せられている。仮にUSMCAが解消されれば、USMCA原産地規則を満たす製品は例外とする適用はなくなり、カナダ、メキシコからの輸入品にそれらの関税が一気にかかる可能性が出てくる。それは、米企業への大きな打撃となることから、トランプ政権は避けるのではないか。
他方、第1と第2のシナリオは、共に実現可能性が相応に高いように思われるが、第1のシナリオの可能性の方がやや高く、これがメインシナリオなのではないか。
第1のシナリオの場合には、カナダやメキシコから輸入する際の課税対象範囲が拡大することになる。他方、第2のシナリオの場合には、現状と変わらないが、強い不確実性が残ることになり、企業活動に対しては打撃となるだろう。
また第1のシナリオの場合には、関税強化の動きが自動車、鉄鋼中心となるのか、それ以外の分野にも広がるのかが、大きな注目点となる。
(参考資料)
「どうなるUSMCA見直し交渉、壁はトランプ氏 米企業「現状維持を」」、2026年5月24日、日本経済新聞電子版
「米・メキシコ、カナダ抜きで3回の通商交渉 USMCA見直しで」、2026年5月27日、ロイター通信ニュース
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。