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トランプ政権がFRB理事解任の動き

パウエル前FRB(米連邦準備制度理事会)議長は、議長退任から1週間ほど経った5月31日に演説を行った。これはボストンで開催された式典で、故ジョン・F・ケネディ元大統領の遺族からパウエル氏が政治的勇気を讃える賞を受賞した際のものだ。政治的勇気とは、パウエル氏がトランプ大統領によるFRBへの政治介入に果敢に抵抗したことを意味するのだろう。
 
演説でパウエル氏は、FRBへの政治介入について強い警鐘を鳴らした。それは「いかなる政権も政策上の意見の相違を理由にFRB職員を解任する方法を見つけたとしたら、将来の政権も同様のことをするだろう」という発言だ。
 
パウエル氏のこの発言は、トランプ大統領がFRBのクック理事を解任しようとしていることを受けたものだろう。昨年、トランプ大統領は住宅ローン詐欺に関与したという疑惑を理由に、クック理事の解任を試みた。大統領が現職のFRB理事の解任を試みたのは、FRB創設113年の歴史においてはじめてのことだ。最高裁判所は数週間以内に、この解任について判決を下す。
 
また、議長を退任してもなお理事の職にとどまり、トランプ大統領の政治介入からFRBを守ろうとするパウエル氏に対しても、トランプ大統領はその理事職の解任を試みる可能性がある。パウエル氏は、自身も含めてFRB理事の不当な解任を許さないために、今後もトランプ大統領と戦い続ける覚悟だ。

トランプ政権が地区連銀総裁人事に介入する可能性も

さらにパウエル氏が警戒している第2の点は、地区連銀総裁人事への政治介入だ。パウエル氏は、大統領が任命する理事とともに金利決定に投票する12人の地区連銀総裁の選任や再任に、政府は「一切関与しない」と力説した。
 
これは、トランプ政権が、FRB理事だけでなく地区連銀総裁の人事にも関与し、それを通じて金融政策決定への関与を強化することを狙う可能性もあるからだ。
 
パウエル氏は、地区連銀総裁の選任権を政府ではなくFRBが保持することの重要性を強調した。これらの総裁は、FRB本部の承認を条件として、各地区連銀の社外取締役(企業や非営利団体のリーダー)によって選出される仕組みであり、現在の制度の下では政府が関与する余地はない。
 
しかし、アトランタ連銀総裁が2月末に退任したため、現在、その後任の選考が行われている。また今後2年間で、金利決定への恒久的な投票権を持ち、米連邦公開市場委員会(FOMC)の副議長を務めるニューヨーク連銀総裁も含む2名の地区連銀総裁が退任する。この端境期に、トランプ政権が地区連銀総裁の選任に関与できるように制度改正を行うことを、パウエル氏は強く警戒しているのである。
 
パウエル氏は講演で、政治哲学者エドマンド・バークの言葉を引用し、制度の構築には細心の努力が必要だが、崩壊は瞬く間に起こりうると警告した。
 
FRBへの政治介入を阻止し、FRBが長年かけて築いてきた信頼性という財産を、パウエル氏はFRBの守護神となって守ろうとしている。
 
(参考資料)
“Former Fed Chair Powell Delivers a Pointed Warning, Wrapped in Abstraction”, Wall Street Journal, June 1, 2026

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。