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米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、世界最大の産油国である米国と最大の輸入国である中国が、ホルムズ海峡の事実上の閉鎖を受けた世界の原油需給の逼迫緩和と原油価格の安定に一定程度貢献していると指摘する。
 
米国は4月と5月に原油輸出量を日量500万バレル以上に増やし、近年の平均である日量約400万バレルから約100万バレル増加させた。特に日本は、米国からの原油輸入を急増させている。
 
一方、中国政府の通関統計によると、ロシアからパイプラインで調達する原油を含め、中国の5月の原油輸入量は日量780万バレルであり、近年の平均である約1,100万バレルから減少した。減少した300万バレルは、イタリアとフランスの1日の合計石油消費量と概ね同程度だ。
 
米国と中国の合計で、日量400万バレル程度、世界の原油需給を緩和させている計算となる。ホルムズ海峡は日量2,000万バレル程度の原油等を世界に供給していたことから、海峡の事実上の封鎖による供給減少、それによる需給逼迫分の概算で2割前後を両国が緩和させ、原油価格の安定に貢献していることになるだろう。
 
中国では構造的に、燃料としての原油需要は減少してきた。短距離航空やガソリン車の利用は、電気駆動の高速鉄道や電気自動車(EV)の利用に代替される傾向にある。また、電力は主に石炭と再生可能エネルギーによって賄われている。
 
さらに中東情勢緊迫化以降、その傾向は強まっている。中国交通運輸省によると、5月1日前後のメーデーの連休中、航空旅客数は前年同期比で約5.7%減少した一方で、鉄道旅客数は4.6%増加した。また、中国国家エネルギー局のデータによると、連休期間中の高速道路でのEV充電量は53%急増した。交通運輸省は、メーデーの連休中に1日平均1540万台のEVが走行したと推定しており、前年比で33%の増加となった。
 
中国での原油需要は、燃料としての利用から、プラスチックなどの原料となる基礎化学品の生産へと比重を移している。
 
中東情勢緊迫化以降、石油精製業者は、先行きの原油不足懸念に対応して、国営、民間の双方で稼働率を大幅に引き下げている。アーガス・メディアによると、5月までに製油所の稼働率は10%ポイント低下し、ナフサなどの炭化水素原料をより軽い化学物質に分解するスチームクラッカー(ナフサ分解装置)の稼働率は7ポイント低下したという。
 
中国は原油輸入量を300万バレル程度削減しているが、今のところ経済活動への悪影響は目立っていない。しかし今後は、原油輸入を増加させることで、ナフサ由来の生産の増加に動く可能性もある。また、石油備蓄を取り崩すことが、中国が原油の輸入を削減し、米国は原油の輸出を拡大させることを可能にしている面もある。しかし、備蓄には限りがある。
 
現時点では、米国と中国が、世界の原油需給の逼迫の緩和と原油価格の安定に一定程度貢献していると言えるだろうが、それがどの程度続くかは不確実だ。こうした動きが続く間に、ホルムズ海峡の正常化が展望できる状況になるかが重要だ。
 
(参考資料)
“China Is Propping Up the World Economy by Importing a Lot Less Oil(中国の原油輸入大幅減、世界経済を下支え)”, Wall Street Journal, June 12, 2026

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。