&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

米企業の間ではAIの利用に2つの潮流が見られる。中小企業の間でAIの利用が一段と広がる傾向が見られる一方、大手企業の間ではコスト抑制のため、AIの利用を控える動きも見られ始めている。
 
かつては大企業中心だったAIの利用が、中小企業にも浸透しつつある。現在では、中小企業のサプライチェーン管理や生産計画の立案などの業務をAIが支えている。シチズンズ・フィナンシャルが3月に実施した調査によると、従業員数20~99人の企業では84%が今四半期にAIを活用する予定と回答し、100人以上の企業では91%がすでに生産性向上に活用していると答えているという(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。
 
一方、AIの利用を急拡大させてきた大企業の間では、AIの利用を控える動きが見られている。これはコスト増加を受けた動きである。
 
企業が従業員にAIの積極利用を認め、促したことで、AIのデータ処理の基本単位であるトークンの費用が大幅に増加した。多くのAIは使用したトークン数に応じて課金される。一部の企業では、わずか3か月で年間予算を使い果たしたり、AI関連の支出が2~3倍に膨らんだりするケースも出てきた。
 
そこで企業は、AI関連支出を抑えるために、従業員のAI利用を制限したり、より安価な自社開発ツールへの移行を促したりしている。
 
AIの費用がその生産性向上効果に見合っていないとの見方も出ている。例えば、従業員が簡単な質問への回答に高価なAIモデルを使っているケースが、費用対効果の観点から問題視されている。従業員のスキルを向上させ、費用対効果を高める方法を模索し始めている企業もある。
 
先進的なAIコーディングツールを使用している2,000社以上のデータを集計したスタートアップ企業、エンテリジェンスAIによると、トークンに費やされた費用のうち、実際にユーザーに届く最終的な製品コードとして出荷されているのは、わずか18%にとどまっているという。つまり、AIの費用対効果は必ずしも高いとは言えない。
 
AI利用にかかる費用を削減するため、企業が安価なAIモデルに移行する可能性はあるが、安価なAIモデルは中国で開発されたものが多いことが、その動きを現在制約している面もあるとされる。
 
AnthropicやOpenAI、Googleなども主力モデルの廉価版を提供している。OpenAIはさらに大幅なトークン価格引き下げを検討していると報じられている。
 
AIモデルでは企業のコスト意識が高まり、選別傾向が強まる中、価格競争が激化するなど、新たな局面に入ってきた。その結果、AI企業の急成長にブレーキがかかる可能性も考えられるのではないか。
 
(参考資料)
“AI Expands From Multibillion-Dollar Enterprises to Main Street(AI活用、大手から中小企業の「実体経済」へ拡大)”, Wall Street Journal, June 8, 2026
“Corporate America Is Starting to Ration AI as Cost Skyrockets(AI利用を制限し始めた米企業 コスト急増で)”, Wall Street Journal, June 3, 2026

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。