原油価格が60ドル台まで下がる可能性は低いか
米国とイランの間で戦闘終結に向けた覚書が署名された。米国はイランに対する海上封鎖を解除し、また、ホルムズ海峡の船舶の航行が確認されている。覚書の署名は、戦闘終結に向けた両国の議論が始まったことを意味するものであり、最終的な合意に達するまでにはなお紆余曲折があるだろう。覚書の署名から60日以降のホルムズ海峡でのイランによるサービス料徴収やイランの核保有に関して、両国の間になお意見の隔たりがある。またレバノンではイスラエルとヒズボラの戦闘が続いており、両国が順調に戦闘終結に向けた最終合意に至るかどうかはなお流動的だ。それでも、2月末のイラン攻撃以降、事態は最も改善している状態であることは疑いがない。
WTI原油先物価格は過去1週間で、1バレル90ドル台から足元では75ドル程度まで大きく下落している。この過程で市場は、ホルムズ海峡の完全再開と原油供給の正常化への期待をほぼ織り込んだと考えられる。そのため、今後、これらが実現していく中でも、原油価格の下落の余地はもはや大きくないと考える。イラン攻撃以前の60ドル台まで低下する可能性は低いだろう。
WTI原油先物価格は過去1週間で、1バレル90ドル台から足元では75ドル程度まで大きく下落している。この過程で市場は、ホルムズ海峡の完全再開と原油供給の正常化への期待をほぼ織り込んだと考えられる。そのため、今後、これらが実現していく中でも、原油価格の下落の余地はもはや大きくないと考える。イラン攻撃以前の60ドル台まで低下する可能性は低いだろう。
ガソリンの平均小売価格は向こう1~2週間で170円を下回る可能性も
イラン情勢の改善、原油価格の下落が国民生活に与える影響を考えると、最も早く原油価格の下落の恩恵を実感できる可能性があるのは、ガソリン価格の下落である。
政府は全国レギュラーガソリン価格の平均が1リットル170円を超える部分に補助金を支給し、小売価格が170円程度になるようにするガソリン補助金を、3月から実施している。元売業者によるガソリンの卸売価格は、海外の原油市況と連動して設定されており、海外の原油価格が変動すると1週間程度の時間差で変動する。原油価格が下落すると、補助金がなくても全国レギュラーガソリン価格の平均が1リットル170円を下回ることになり、補助金の支給は停止される。
WTI原油先物価格の1バレル75ドル程度は、ちょうど国内のガソリン小売価格が補助金なしで1リットル170円程度となる水準と計算される。今後、原油価格がさらに低下すれば、補助金がない状態で消費者は1リットル170円を下回る水準でガソリンを購入することができるようになる。そうした状況は向こう1~2週間で生じることが見込まれる。
ただし、WTI原油先物価格が60ドル台までは低下しないとすれば、ガソリン価格は165円程度が下限となるだろう。
原油価格下落の恩恵を国民が最も早く実感できるのはガソリン価格の下落であり、それは向こう1~2週間で生じることが見込まれるものの、現状の1リットル170円程度と比べれば最大で5円程度の下落幅にとどまり、それほど大きな恩恵とは言えないだろう。
政府は全国レギュラーガソリン価格の平均が1リットル170円を超える部分に補助金を支給し、小売価格が170円程度になるようにするガソリン補助金を、3月から実施している。元売業者によるガソリンの卸売価格は、海外の原油市況と連動して設定されており、海外の原油価格が変動すると1週間程度の時間差で変動する。原油価格が下落すると、補助金がなくても全国レギュラーガソリン価格の平均が1リットル170円を下回ることになり、補助金の支給は停止される。
WTI原油先物価格の1バレル75ドル程度は、ちょうど国内のガソリン小売価格が補助金なしで1リットル170円程度となる水準と計算される。今後、原油価格がさらに低下すれば、補助金がない状態で消費者は1リットル170円を下回る水準でガソリンを購入することができるようになる。そうした状況は向こう1~2週間で生じることが見込まれる。
ただし、WTI原油先物価格が60ドル台までは低下しないとすれば、ガソリン価格は165円程度が下限となるだろう。
原油価格下落の恩恵を国民が最も早く実感できるのはガソリン価格の下落であり、それは向こう1~2週間で生じることが見込まれるものの、現状の1リットル170円程度と比べれば最大で5円程度の下落幅にとどまり、それほど大きな恩恵とは言えないだろう。
電気・ガス料金の低下は来年1月からか
電気・ガス料金も、ガソリン価格と同様に海外の原油価格の変動の影響を大きく受ける。電力会社には、海外から輸入する原油、液化天然ガス(LNG)などの価格の変動を家庭の電気料金に転嫁する、燃料費調整制度が適用されている。この制度のもとで、6月に各社は電気料金を引き上げたが、それは、1~3月の輸入原油、LNGの価格上昇を反映したものだ。しかし、その時期は未だ価格はイラン情勢の影響を大きく受けていないため、値上げ幅は限られた。さらに政府は家庭が支払う7~9月の電気・ガス料金への補助金を決めたため、家計の電気・ガス料金の負担増加は抑えられている。
イラン情勢の影響を大きく受けるのは4~6月の輸入原油、LNG価格の上昇を反映した次回9月の価格改定である。家計の支払いは10月以降となる。この時点で電気料金は6%程度引き上げられる可能性がある。政府が補助金の延長を決めれば、家計の電気・ガス料金の負担増加は引き続き抑えられるだろう。
そして足もとの原油価格下落の影響が家計の電気・ガス料金の値下げにつながるのは、7~9月の輸入原油、LNG価格の上昇を反映した次回12月の価格改定である。その時点で、電気・ガス料金は大きく下落するだろう。その家計の支払いは来年1月以降となる。
このように、足もとの原油価格下落は電気・ガス料金の低下をもたらすが、家計がその恩恵を得ることができるのは、来年1月以降とかなり先になると考えられる。
イラン情勢の影響を大きく受けるのは4~6月の輸入原油、LNG価格の上昇を反映した次回9月の価格改定である。家計の支払いは10月以降となる。この時点で電気料金は6%程度引き上げられる可能性がある。政府が補助金の延長を決めれば、家計の電気・ガス料金の負担増加は引き続き抑えられるだろう。
そして足もとの原油価格下落の影響が家計の電気・ガス料金の値下げにつながるのは、7~9月の輸入原油、LNG価格の上昇を反映した次回12月の価格改定である。その時点で、電気・ガス料金は大きく下落するだろう。その家計の支払いは来年1月以降となる。
このように、足もとの原油価格下落は電気・ガス料金の低下をもたらすが、家計がその恩恵を得ることができるのは、来年1月以降とかなり先になると考えられる。
7月~9月に物価上昇は広がりを見せる
原油価格は下落しても、足元までの原油やナフサの価格高騰の影響は既に様々な石油関連原材料の価格に転嫁されていることから、日用品の価格上昇はなお続く可能性が高い。むしろ7月以降、価格上昇はより本格化していくだろう。それは10月頃まで続き、消費者が物価情勢の落ち着きを実感できるのは、11月以降と考えられる。
4月以降、ごみ袋、包装材、シンナー、塗料、医療品などの価格高騰が見られた。6月にはゴム製品であるタイヤの価格も上昇した。7月以降は値上げの動きがナフサ由来の製品を中心にさらに広がりを見せ、洗剤、シャンプー、化学繊維を用いた衣料品、各種プラスチック製品の価格上昇が目立ってくることが予想される。
また、生鮮食品など食料品の値上げの動きもなお続く可能性が高いが、その上昇幅はナフサ由来の製品と比べれば緩慢だろう。原油・ナフサの価格が生鮮食品の価格に与える影響は、平均で5%以下と考えられる。
11月以降には、国民は原油価格の下落を受けた物価情勢の安定を確認できるようになると考えるが、物価の水準が低下する、つまり物価上昇率がマイナスになる可能性は低く、あくまでも物価上昇率の低下にとどまるだろう。ごみ袋など大幅に価格が上昇した一部の製品では価格の下落は生じるだろうが、平均の価格が下落に転じることはないだろう。
4月以降、ごみ袋、包装材、シンナー、塗料、医療品などの価格高騰が見られた。6月にはゴム製品であるタイヤの価格も上昇した。7月以降は値上げの動きがナフサ由来の製品を中心にさらに広がりを見せ、洗剤、シャンプー、化学繊維を用いた衣料品、各種プラスチック製品の価格上昇が目立ってくることが予想される。
また、生鮮食品など食料品の値上げの動きもなお続く可能性が高いが、その上昇幅はナフサ由来の製品と比べれば緩慢だろう。原油・ナフサの価格が生鮮食品の価格に与える影響は、平均で5%以下と考えられる。
11月以降には、国民は原油価格の下落を受けた物価情勢の安定を確認できるようになると考えるが、物価の水準が低下する、つまり物価上昇率がマイナスになる可能性は低く、あくまでも物価上昇率の低下にとどまるだろう。ごみ袋など大幅に価格が上昇した一部の製品では価格の下落は生じるだろうが、平均の価格が下落に転じることはないだろう。
深刻な品不足は比較的早期に解消へ
足元のナフサ由来製品の価格上昇は、川上の原油、ナフサの価格の上昇と品不足の双方の要因の影響を受けてきた。企業は、先行き原油、ナフサの供給が滞ることを警戒し、生産量を減らして手元に原材料を確保するといった自衛的な行動を取ってきたとみられる。これが、いわゆる流通の「目詰まり」を引き起こした原因の中心だろう。
しかし、ホルムズ海峡の再開見通しが強まったことで、企業は減産の手を緩め、増産に転じていくことが見込まれる。その結果、ナフサ由来製品の深刻な供給不足と、それによって引き起こされている異常な価格高騰は、向こう数か月で比較的速やかに解消されていくことが予想される。
物価の本格的な上昇はこれから始まるとしても、ごみ袋のように価格が一部で何倍にもなるような事態はなくなっていくだろう。
また、ホルムズ海峡の再開への動きによって、日本経済が深刻な原油・ナフサ不足に陥り、消費や企業の生産活動をそれに合わせて大幅に縮小させることを強いられるリスクはかなり後退した。物価上昇はこれから本格化するが、イラン情勢を受けて大幅に悪化した家計や企業の景況感は、比較的早期に回復していく可能性が高いと思われる。
しかし、ホルムズ海峡の再開見通しが強まったことで、企業は減産の手を緩め、増産に転じていくことが見込まれる。その結果、ナフサ由来製品の深刻な供給不足と、それによって引き起こされている異常な価格高騰は、向こう数か月で比較的速やかに解消されていくことが予想される。
物価の本格的な上昇はこれから始まるとしても、ごみ袋のように価格が一部で何倍にもなるような事態はなくなっていくだろう。
また、ホルムズ海峡の再開への動きによって、日本経済が深刻な原油・ナフサ不足に陥り、消費や企業の生産活動をそれに合わせて大幅に縮小させることを強いられるリスクはかなり後退した。物価上昇はこれから本格化するが、イラン情勢を受けて大幅に悪化した家計や企業の景況感は、比較的早期に回復していく可能性が高いと思われる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。