&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

高市政権は従来、予算編成のあり方を大きく変える考えを標榜してきた。今年度予算は高市政権発足時には既に編成作業が進んでいたことから、高市カラーが本格的に表れるのは来年度予算からとなる。
 
高市首相は、「補正予算依存からの脱却」を掲げ、秋の補正予算編成が常態化し、当初予算との区別が曖昧になっている点を問題視し、安易な補正予算編成をしない考えを示してきた。これについては、望ましい改革の方向だ。
 
一方、高市首相は、経済成長に資する施策向けに予算の特別枠を創設する方針だ。各省庁からの概算要求の上限は設けず、複数年度の計画に基づき予算を確保する。
 
予算の複数年度化は、単年度主義の弊害を減らすものとして、歴代の政権も取り組んできた。ただし、複数年度予算にはプラス面とマイナス面がある。複数年度予算は、中期的な政策を支えるものとしてはメリットがある一方、予算の必要性や使途が十分にチェックされず、予算の無駄使いになりやすいという明確なデメリットがある。予算を複数年度にわたって支出できるようにと多く創設されたのが基金である。
 
高市政権は、「戦略17分野」への投資を柱とする成長戦略や、地方活性化に向けた地域未来戦略の複数年度の計画について、民間の投資を引き出す呼び水の役割を狙った政府投資の予算を、この特別枠で計上する考えだ。
 
予算編成では例年、各省庁が概算要求基準(シーリング)の範囲内で財務省に要求しているが、この特別枠では要求上限を設けない。政府の支出が1年で終わり、翌年度以降の支出が不透明であれば、民間企業が投資に踏み切ることに慎重になってしまうとの懸念が複数年度予算の考えの背景にある。
 
しかし、政府が複数年度の投資を約束しないと民間企業が投資に踏み切らないのであれば、それはそもそも十分に高い収益性が見込めるビジネス領域とは言えないのではないか。政府が複数年度で巨額の予算をつぎ込んでも、思ったように民間投資が増えない、あるいは民間投資が失敗に終わり、政府投資が無駄になってしまうリスクもあるだろう。
 
これは「戦略17分野」などの官民投資計画が抱える重要な問題である。政府による小規模の投資が民間企業の大規模の投資を引き出す、まさに呼び水の役割を果たすことができる重要分野に政府投資は絞り込むべきであり、見通しが不確実な分野への投資は控えるべきだ。予算の複数年度化も最小限の分野に絞り込むべきだ。
 
「戦略17分野」などの官民投資については、「つなぎ国債」で賄う考えを政府は示しているが、その償還財源はなお明確でない。官民投資、予算の複数年度化は、金融市場の信認をしっかりと維持できる範囲内で、慎重に進めるべきだ。
 
(参考資料)
「成長分野 予算『特別枠』」、2026年6月24日、読売新聞

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。