&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

米国の2026年の経済成長の約4分の1はハイパースケーラーの設備投資

米国ではAI開発・データセンター投資ブームが続いている。ファクトセット(FactSet)のデータによると、ハイパースケーラー(超大規模クラウド事業者)と呼ばれるアルファベット、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、オラクルの5社による2026年の設備投資額は前年比約75%増加し、7,410億ドルに上ると推定されている。
 
これは、2025年の米国名目GDPの30兆7,671億ドルの2.4%に相当する。国際通貨基金(IMF)は2026年の米国の名目GDP成長率を4.0%と予想しているが、その成長のうち4分の1程度は、このハイパースケーラーの設備投資による計算だ。

日本の戦略17分野の官民投資計画のAI投資規模では太刀打ちできない

ところで、ハイパースケーラーの2026年の設備投資額の予測値は、円換算でちょうど120兆円となる。24日に高市政権が公表した2027年度から2040年度までの戦略17分野の官民投資計画の合計は370兆円、年換算値で26.4兆円、そのうちAI関連のAI用半導体が4.9兆円、バーティカルAIが1.7兆円、フィジカルAIが0.8兆円(それぞれ年換算値)と、米企業の投資額と比べてかなり小さく、これで国際的な競争力を高めるのは無理だろう。そのため、成長戦略としての投資の効果は見えてこない。

FRBのウォーシュ議長はAIによる物価上昇率の押し下げ効果を強調するが。。

FRBのウォーシュ議長は、AIによる物価上昇率の押し下げ効果を主張する。同氏は、昨年11月のウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で、「AIは生産性を高め、米国の競争力を強化することで、強力なディスインフレ要因となるだろう」と論じた。ウォーシュ議長は、将来的にFRB内の議論を利下げ方向に誘導することを試みる際には、AIによる物価上昇率の押し下げ効果を強調することになるのではないか。
 
確かにAI投資の拡大は、やや長い目で見れば生産性向上を通じて物価上昇率を低下させる要因になり得る。しかしブームの初期段階といった比較的短期で見れば、投資需要の増加が需給をひっ迫させ、逆に物価上昇率を押し上げるだろう。
 
全米企業エコノミスト協会(NABE)の調査では、回答者の81%が、AI関連のインフラ整備が今後1年間のインフレを高めると予測している。

AI関連需要の増加による価格上昇が経済全体に波及

AIのデータセンターに必要なのは、半導体だけではない。高度なコンピューティング機器、機器の過熱を防ぐ冷却システム、電力・光ファイバーケーブル、停電を防ぐための予備発電機なども必要となる。
 
コロンビア大学の経済学者スタイン・ファン・ニューウェルブルフ氏は、2032年までのAI関連設備インフラへの支出が約8兆ドルに達する可能性があると試算している。AI関連のインフラ整備に対する需要が急増する中、それに不可欠な多くの資材や部品の価格も上昇する。それらはAI以外の用途にも広く使われているため、価格上昇の影響は経済全体へと波及しやすい。
 
例えば、メモリやストレージ用チップは、ゲーム機から自動車に至るまで、多岐にわたる家電製品や電子機器に使用されている。任天堂、マイクロソフト、ソニーはいずれも、自社製品の価格を引き上げている。
 
米労働省のデータによると、5月のコンピュータ・ソフトウェアおよび周辺機器の消費者価格は、前年同月比で約15%上昇した。電子部品・付属品の卸売価格指数は、先月、前年同月比で27%も上昇している。
 
データセンター建設の現場で需要が高まっている労働者の賃金は上昇傾向にあり、電気・配線工事請負業者の平均時給は4月に前年同月比6.5%上昇した。これらは、建設部門全体の人件費上昇につながり、物価全体の押し上げへと波及していく可能性があるだろう。

金利上昇は株式市場のAIブームに逆風

AI関連の物価高は、米国経済全体に好ましくない影響を与える可能性がある。価格上昇によって、AI関連投資に慎重になる企業が出てくるかもしれない。既にコスト意識を高めた企業は、より安価なAIモデルにシフトする動きを見せている。
 
さらに物価高はFRBの利下げを妨げ、利上げを促す。それは、AIブームに直接大きな打撃を与えるほどではないとしても、株式市場のAIブームには水を差す可能性があるのではないか。ハイテク株は特に金利上昇に弱いためだ。
 
(参考資料)
“The Data-Center Boom Is Sparking a Third Wave of Inflation”, Wall Street Journal, June 25, 2026

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。