&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

消費税率引き下げの財源議論は事実上先送りに

自民党の小野寺・税制調査会長は、24日に開かれた社会保障国民会議の実務者会議で、消費税減税などの中間とりまとめ案を示した。2027年4月から2年間、食料品の消費税率を1%に引き下げ、「所得連動給付」と合わせて「実質ゼロ」を実現するとした。さらに26日には、その財源についての考えを示した。
 
財源について、「特例公債(赤字国債)に頼らず、補助金・租税特別措置の見直しや追加的な税外収入」などで確保するとしつつ、具体策については、年末にかけての2027年度の予算編成にあわせて結論を出すとし、「歳出・歳入全般のあらゆる見直しを通じて確保する」と記された。財源の議論を事実上先送りしたと言えるだろう。
 
食品の消費税率引き下げについては、社会保障国民会議で2月から議論をしていながら、財源については現段階で何ら具体策を示すことができないのは大いに問題だ。食料品の消費税率を0%にするか1%にするかなどを議論する前に、まず財源の議論から始めるべきだった。高市首相も消費税率引き下げの財源を「特例公債(赤字国債)に頼らない」と明言しており、財源の確保が難しいのであれば、消費税率引き下げを見送るべきだ。

全くめどが立たない財源議論

年間5兆円規模になる財源については、補助金・租税特別措置の見直しや追加的な税外収入と説明しているが、産業向けの補助金は2024年度で4.7兆円、法人向けの租税特別措置による減税分は2023年度で2.9兆円しかないと考えられる(朝日新聞)。ここから年間5兆円の食料品の消費税を2年間ゼロにすることの財源を捻出するのは極めて難しく、仮にそれを実施すれば、政府の産業政策に甚大な打撃となってしまうだろう。
 
また、財源として検討されている「追加的な税外収入」とは、具体的に何を意味しているのかは分からない。税外収入は、国有地や建物の売却収入、国有財産の貸付料、日本銀行や政府系機関(JRAなど)からの納付金、パスポートや許可申請の手数料、行政サービスの利用料、交通違反の反則金などである。
 
これらの税外収入を単に消費税率引き下げに充てても、それは財源を確保したことにならない。税外収入は既に歳入に含まれているからだ。現状の税外収入をさらに増額することが必要となるが、それは簡単ではない。
 
例えば、国有資産の売却収入は2024年度に786億円、日本銀行の国庫納付金は2024年度に約2兆1,510億円であった。これらをさらに5兆円規模で増加させることはかなり難しい。
 
日本銀行の国庫納付金は、日銀の年間の当期剰余金(当期利益)から、準備金、配当などを差し引いて決まる。つまり、当期剰余金が上限となる。2024年度の当期剰余金は約2兆2,642億円だった。日本銀行の主な収入は保有する国債から得られる利子所得(いわゆるシニョレッジ)であるが、保有する国債は減少を続ける一方、利上げによって当座預金に適用される付利金利は引上げられており、当期剰余金はこの先減少する方向にある。

消費税率引き下げには野党、与党内から批判

提示された消費税減税などの中間とりまとめ案については、財源問題を先送りしていることに野党から強い反発が出ている。また食料品の消費税率1%案を巡っては、野党のみならず、自民党からも異論が出ている。25日に開いた自民税調幹部の会合では、1%案に賛同する声はなく、減税分を給付で賄うべきだとの主張が多かったという。
 
さらに小渕優子元選対委員長は、税調の中枢を担う「インナー」を辞任する意向を示した。消費税率引き下げに反対していることが理由とみられている。

金融市場は財政悪化への懸念を強める

財源の議論を事実上先送りしながら、一方で、食料品の消費税率引き下げの法制化の手続きを進めれば、金融市場は、最終的に赤字国債で賄われるとの警戒を強めるだろう。さらに、政府が発表した17分野の成長投資についても、政府分の投資の財源は示されておらず、「つなぎ国債」によって財源問題が事実上先送りされる懸念がやはり生じている。
 
政府の財源先送り傾向がさらなる財政悪化につながるリスクに、金融市場はセンシティブになっており、円安、債券安(長期金利の上昇)が引き起こされかねない。また政府債務の増加は、将来の民間需要を減少させることになり、企業の設備投資を慎重にさせ、経済の潜在力を低下させかねない。
 
政府は、確実に財源を確保できる目途が立たないのであれば、できるだけ早期に消費税率の引き下げの見送りを決めるべきだ。
 
(参考資料)
「消費減税、財源先送り とりまとめ案に明示せず 国民会議」、2026年6月27日、朝日新聞
「「食品消費税1%」財源、補助金削減や税外収入 国民会議案 「赤字国債頼らず」」、2026年6月27日、日本経済新聞

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。