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大企業製造業、大企業非製造業の景況感はともに改善

日本銀行は7月1日に、短観(6月調査)を発表した。前回3月の調査ではまだ明確には表れなかった中東情勢の緊迫化、原油価格高騰の影響と、足もとでの中東情勢の改善、原油価格の下落の影響の双方が、企業の景況感にどのように表れるかが最大の注目点だった。
 
日本経済新聞の事前の予測集計によると、大企業製造業の業況判断DI(現状)の予測中心値はプラス16と、前回の3月調査から1ポイントの悪化、大企業非製造業の業況判断DI(現状)の予測中心値はプラス35と、3月調査から1ポイントの悪化が見込まれていた。
 
しかし実際には、大企業製造業の業況判断DI(現状)はプラス22と5ポイントの改善、大企業非製造業の業況判断DI(現状)はプラス37と1ポイントの改善になった。
 
大企業製造業では、原油価格高騰によるコスト増で、石油・石炭製品、化学の景況感が大きく悪化することが予想されていたが、実際にはそれぞれ9ポイントの悪化、6ポイントの改善となり、いずれも事前予想を上回った。他方、AIブームも後押しとなり、汎用機械、生産用機械、業務用機械、電気機械はいずれも景況感が改善した。
 
大企業非製造業では、原油価格高騰による収益悪化で電気・ガスの景況感の悪化が予想されたが、実際には前回比4ポイントの悪化と、比較的小幅の悪化にとどまった。他方、物価高の悪影響が懸念された個人消費関連の小売、対個人サービス、宿泊・飲食はいずれも予想外の改善となった。特に、宿泊・飲食のDIは前回比12ポイントの大幅改善である。
 
このように企業景況感が予想以上に良好であった背景には、6月に入ってからの中東情勢の改善、原油価格の下落の影響が思ったよりも大きく調査に反映された可能性が考えられる。それに加えて、企業がコスト上昇分を比較的円滑に価格転嫁できていることが考えられる。

進む企業の価格転嫁と個人消費への打撃

製造業の価格判断DIで、仕入れ価格判断DI(現状)は前回比16ポイントと大きく上昇したが、一方で販売価格判断DIも前回比12ポイントと大きく上昇しており、企業がコスト上昇分を販売価格に転嫁し、それによって収益環境の悪化を回避している姿がうかがえる。
 
その結果、原油価格上昇の影響は企業収益で吸収されるのではなく、最終的に消費者に転嫁される割合が高まっていると考えられる。
 
企業(全規模全産業)の物価見通しでは1年後、3年後、5年後の物価見通しはいずれも前回調査から0.1%ポイント上昇し、5年後の見通しは+2.6%となった。原油価格上昇の影響で、消費者物価の上昇率が先行き高まることが予想されるが、これは個人消費活動にはマイナスとなる。
 
業況判断DI(現状)は予想よりも良好だったが、先行きについては、消費関連の食料品、小売、対個人サービス、宿泊・飲食はいずれも大きく悪化している。今後の注目点は、原油価格上昇による企業収益の悪化から、価格転嫁が進むことによる消費者物価の上昇とそれが個人消費に与える悪影響に移ってきた。

消費者物価上昇は7月から本格化か

6月に入って米国とイランとの間には戦争終結の最終合意に向けた覚書が締結されるなど、中東情勢には改善の方向が見られる。それを受けて一時1バレル100ドルを上回っていたWTI原油先物価格は、足もとでは70ドル前後にまで大幅に低下している。
 
ホルムズ海峡の封鎖が長期化し、日本で原油、ナフサの調達が行き詰まることで日本経済が深刻な打撃を受けるリスクを企業は警戒してきたが、その可能性は低下してきている。しかし、足もとでの原油価格の下落とは対照的に、日用品、食料品の価格上昇はこれからが本番となる。
 
7月以降、価格上昇はより本格化し、それは10月頃まで続くことが見込まれる。消費者が物価情勢の落ち着きを実感できるのは11月以降と考えられる。
 
4月以降、ごみ袋、包装材、シンナー、塗料、医療品などの価格高騰が見られた。6月にはゴム製品であるタイヤの価格も上昇した。7月以降は値上げの動きがナフサ由来の製品を中心にさらに広がりを見せ、洗剤、シャンプー、化学繊維を用いた衣料品、各種プラスチック製品の価格上昇が目立ってくることが予想される。
 
また、生鮮食品など食料品の値上げの動きもなお続く可能性が高いが、その上昇幅はナフサ由来の製品と比べれば緩慢だろう。原油・ナフサの価格が生鮮食品の価格に与える影響は、平均で5%以下と考えられる。
 
11月以降には、国民は原油価格の下落を受けた物価情勢の安定を確認できるようになると考えるが、物価の水準が低下する、つまり物価上昇率がマイナスになる可能性は低く、あくまでも物価上昇率の低下にとどまるだろう。ごみ袋など大幅に価格が上昇した一部の製品では価格の下落は生じるだろうが、平均の価格が下落に転じることはないだろう。

日本銀行の追加利上げを後押し

今回の短観調査で、現状の企業景況感の改善、価格判断DIの上昇、企業物価見通しの上昇などは、日本銀行の追加利上げを後押しするものだ。さらに、日本銀行が注目する金融環境を示す資金繰り判断DI、金融機関の貸出態度判断DIも前回と同水準を維持し、引き続き金融環境が良好であることを示している。
 
6月に利上げを実施したばかりであることから、7月に日本銀行が利上げを行う可能性は極めて低いが、最短では10月に利上げの可能性が出てくるだろう。筆者は12月の利上げを予想している。
 
日本銀行内では、物価上昇への対応が遅れること、いわゆるビハインド・ザ・カーブを警戒する非執行部の多くが早期利上げに引き続き前向きと見られ、今後は比較的慎重な執行部との間で調整が行われるだろう。
 
他方、高市政権は今月に発表する骨太の方針に、日本銀行の利上げを牽制する内容を盛り込む方向である(コラム「骨太の方針原案で明らかになる政府による日本銀行の利上げ牽制姿勢と円安進行リスク」、2026年7月1日)。今後の金融政策を巡って、日本銀行は内部での意見調整と政府との調整の双方を同時に求められる状況だ。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。