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「過去最高の税収額」、「税収の上振れ」は財政の余裕を意味しない

財務省は7月3日に、2025年度の国の一般会計税収を発表した。税収額は84兆2,226億円となり、6年連続で過去最高を更新した。
 
この数字から、日本の財政には余裕があると考える向きがあるとすれば、それは誤りだ。名目GDPが増加している局面では、税収額が増加すること、名目GDPが過去最大規模を更新する中では税収額も過去最大規模を更新することは自然なことだ。
 
一方、一般会計の歳出額も増加することから財政赤字は続き、その分国債発行が増えて政府の借金は増加を続けている。
 
名目GDPを実質GDPと物価に分解した場合、現在は実質GDPの成長率のトレンドが従来よりも高まっているのではなく、歴史的な物価高によって物価上昇が上振れている。こうした状況では、一般会計の歳出額も物価上昇分だけ増加しやすいことから、財政収支が顕著に改善することにはならない。
 
仮に実質GDP成長率が上振れて名目GDP成長率が高まる場合には、税収額が増える一方で歳出額は増えにくい。景気が強いことから、政府は緊縮的な財政政策を行う可能性があり、それは歳出削減や増税策を通じて財政収支を顕著に改善させる。しかし現状はそうではない。
 
「過去最高の税収額」と並んで「税収の上振れ」という言葉も頻繁に聞くが、これも、想定以上に税収が増え、財政に余裕があると認識するのは誤りだ。「税収の上振れ」とは当初予算段階で見積もった税収額よりも、補正予算段階の予想額や決算での実績額が上振れることをいう。
 
当初予想より上振れるとしても、税収が歳出額を賄うことができず、政府のお金が不足している状況は変わらない。近年の「税収の上振れ」は、やはり歴史的な物価高によるところが大きい。

税収の上振れ分を財源に充てる議論にはさらなる円安、債券安をもたらすリスク

食料品の消費税率引き下げ、17分野の官民戦略投資、給付付き税額控除、防衛費増額など、歳入減少や歳出増加を伴う政府施策が数多く予定されている。他方で、その財源の議論は全く進んでいない。
 
このことが、金融市場の財政悪化懸念を高め、足もとで円安・債券安が進んでいる。そうした中、税収の上振れ分を財源に充ててこうした施策を実施する方向で議論がなされていくことが懸念される。
 
既に述べたように、税収の上振れをもたらしているのは、日本の経済力が高まり、実質GDP成長率のトレンドが向上したことによるものではなく、円安、原油高などによる一時的な物価上昇率の上振れによるところが大きいと考えられる。
 
既に原油価格は低下している一方、先行き、円安のさらなる進行が回避されれば、物価上昇率は顕著に低下し、税収増加率は低下していくだろう。一時的な税収増加を様々な施策の財源に充てることは適切ではない。今後、そうした方向に議論が進めば、金融市場では円安・債券安が一段と進み、政府の積極財政政策に対して「NO」を突き付けることになるだろう。

物価上昇による税収増加には国民生活を圧迫する「インフレ増税」の側面

さらに、物価上昇率の上振れによる税収増加には、「インフレ増税」の側面がある。所得税の課税最低限や税率区分は、名目の所得額で決まっているため、物価上昇率が高まり、名目所得が増えると、実質所得が減っていても、つまり物価上昇ほどには名目所得が増えなくても、新たに所得税を支払う人や、従来よりも高い税率が適用される人が出てくる。物価高によって実質増税が進むことになるのは、国民生活を圧迫することになり、問題だ。
 
さらに、生活保護など社会保障給付が名目額で決まっている場合、物価上昇率が高まれば、支援額は目減りしてしまう。このような、実質増税や実質的な社会保障給付の削減から国民生活を守るためには、給付付き税額控除のような新たな制度の導入を検討する必要がある。そうした議論を進めずに、物価上昇率の上振れによる税収増加分を新たな歳出増加の財源に充てることは、国民生活重視の政策とは言えない。また、財政悪化懸念から金融市場では円安・債券安が一段と進み、国民生活をさらに悪化させてしまう恐れもある。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。