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省庁の自主点検で明確に廃止の方針が示されたのはわずか1件

政府は2025年11月に、租税特別措置、補助金、基金の無駄を見直すことを目的に、内閣官房内に「租税特別措置・補助金見直し担当室」を設置した。これは米実業家イーロン・マスク氏が率いた米政府効率化省(DOGE: Department of Government Efficiency)になぞらえて、「日本版DOGE」と呼ばれる。設立のきっかけとなったのは、行政の無駄の削減に前向きな日本維新の会が、昨年10月の自民党との連立合意書に「租税特別措置及び高額補助金について総点検を行い、政策効果の低いものは廃止する。そのための事務を行う主体として政府効率化局(仮称)を設置する」との文言を盛り込んだことだ。
 
租税特別措置・補助金見直し担当室は今年1月から2月にかけて、広く国民から意見を募り、寄せられた意見は3.7万件に及んだ。それに基づき各省庁が6月末までに政策減税の租税特別措置(租特)や補助金を自主的に点検した。13府省庁が7月8日までに公表した計約120項目のうち、明確に廃止の方針が示されたのはわずか1件にとどまった。それは、企業の事業再編にかかる登録免許税の軽減措置だ。2024年度の開始から申請の実績がなく、経済産業省は「制度の終了が相当」と認めた。こども家庭庁が、両親や祖父母からの結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置については「延長を慎重に検討する」と記載するなど、制度の終了を示唆した。

年末に向けて財務省と各省庁との協議を本格化

この結果に片山財務相は、「我々査定官庁から見て是認されるものではない」「1件1件きちっと見させていただく」と強い不満を表明した。また片山財務相は、「補助金も含め、来年度予算の概算要求や税制改正の要望を出す段階で(さらなる)見直しもやっていただけなければ困る」とし、今回の点検結果を踏まえて、年末に向けて財務省と各省庁との協議を本格化させる考えを示した。
 
廃止検討の対象は租税特別措置と補助金であったが、実際には租税特別措置の見直しのみで、しかも来年度以降の継続が決まっていないものが検討の中心となったとみられる。
 
2021年度の開始から2024年度まで適用件数はわずか4件という実績が極めて乏しいシェアサイクルの普及を目的としたポート(置き場)の設備の固定資産税軽減措置については、国土交通省は廃止としなかった。また、2024年度からの実績がわずか3件のロボットや通信技術を活用する「スマート農業」を手がける会社の設立時などに登録免許税を軽減する措置についても、農林水産省は廃止を見送った。
 
それぞれ2024年度に3,330億円、1,885億円と規模が大きく、見直しによる財政効果が大きい中小企業向けの賃上げ促進税制、法人税率の中小企業向け優遇措置も、大幅な見直しの対象とはなっていない。

省庁の自主点検には限界

このように、各省庁による租税特別措置、補助金の自主的な見直しの結果が期待外れに終わった背景には、大きく3つの要因が考えられる。
 
第1は、一度導入した租税特別措置、補助金は既得権益となり、廃止などの見直しが難しいことだ。租税特別措置、補助金の恩恵を受ける企業は、それが廃止されないように各省庁に要望をする。また、各省庁も自らが作成した、産業政策を担う租税特別措置、補助金を自らの手で削減することには前向きになれない。それは、各省庁の権限の縮小や予算の削減につながるためだ。省庁による自主点検は、現状維持となりやすい。
 
この点から、政府が強いリーダーシップを発揮しない限り、企業や省庁の既得権益を崩して、租税特別措置、補助金の大幅な削減をすることは難しいのではないか。

第三者による独立した評価機関が必要

第2は、租税特別措置、補助金がどの程度政策として有効であるかが十分に検証されていないことがあるだろう。それゆえに、廃止や削減の候補も見えてこない。これについては、省庁による自己評価中心の制度を見直して、第三者による独立した機関が政策効果の定量的な検証を包括的に行う制度の導入を検討すべきだろう。例えば、米国のGAO(Government Accountability Office)、英国のNAO(National Audit Office)のような、政府の政策を評価する高い独立性と強い権限を持つ組織が必要なのではないか。
 
第3に、政府は戦略17分野の官民投資計画を掲げている。これは、政府が投資に加えて、租税優遇措置や補助金などで個別産業を支援し、投資を引き出すものとなるだろう。このように一方で、租税優遇措置や補助金を増やす方向であることから、それらを削減していくという政府の方針が、日本維新の会との連立合意を守るための政治的ポーズと省庁から受け止められ、それが大胆な見直しを阻んでいる面もあるのではないか。

食料品の消費税率引き下げの財源は見えてこない

ただし、期待される経済効果を生まない無駄の多い租税優遇措置や補助金を温存させることは、国民の税金を無駄遣いしていることに他ならず、それを容認することは決してできない。今後は、政府が強いリーダーシップを発揮して、措置の廃止などの見直しを強く進めていって欲しい。
 
さらに重要なのは、政府は租税優遇措置や補助金を食料品の消費税率引き下げの財源にすると説明してきたことだ。その財源を確保する目途がほぼ立っていないことが今回明らかになった。そうした状況のままで、食料品の消費税率引き下げの議論を進めていることが、金融市場で先行きの財政悪化懸念を高め、長期金利の大幅上昇や円安進行という形で、国民生活を圧迫している点にも政府は十分に配慮する必要があるだろう。
 
(参考資料)
「税優遇「廃止」、120件中1件どまり 無駄見直す「日本版DOGE」、省庁点検」、2026年7月9日、朝日新聞
「日本版DOGE、税優遇廃止1件 財務相「満足できない」」、2026年7月8日、日本経済新聞
「租税特別措置:「制度終了」は1件 租特120件中 府省庁自主点検」、2026年7月8日、毎日新聞
「日本版DOGE「税優遇廃止」1件のみ 13府省庁120件、財源捻出見通せず」、2026年7月6日、日本経済新聞電子版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。