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新たな給付制度を2029年度に導入へ

超党派の「社会保障国民会議」の実務者会議は7月16日に、所得に連動した新たな給付制度を2029年度から導入することで大筋合意した。一方、各党の意見の隔たりが大きい食料品を対象とした消費税減税については議論を継続する。
 
高市首相は15日の党首討論で、食料品の消費税率引き下げに関する国民会議の結論について、「8月の頭ぐらいであれば十分間に合う」と述べた。ここで言う間に合うとは、減税実現のための税制改正関連法案を秋の臨時国会に提出することに間に合うという意味だろう。
 
当初は、税と社会保障の一体改革として、税額控除(減税)と給付を組み合わせた「給付付き税額控除」の導入を目指していた。しかし、事務負担の大きさを踏まえて当面は給付に一本化する方針に転換された。ただし減税との組み合わせについては、「将来的に給付のみと決め打ちすることなく検討を継続する」としている。
 
給付の対象となるのは「一定の勤労性の所得や税・社会保険料負担」がある勤労者で、働く高齢者や個人事業者、フリーランスも含まれる。給付対象は個人単位とし、子育て世帯を支援するために扶養する18歳以下の子どもの人数に応じて加算する。
 
また、給付額は所得の額に応じて変動する。給付対象となる所得の下限は、約106万円超、約74万円超、約53万円超と3案が併記された。給付を打ち切る所得の上限額は示されなかった。就労を促すため所得が増えるにつれて給付額を増やす仕組みとなる。

財源の議論が先送りに

将来的には、税額控除も含めるとともに、配当や利子など金融関連の所得や保有資産も反映させ、一層の制度拡充が図られることを期待したい。
 
ただしその際の大きな課題となるのは財源の確保だ。社会保障国民会議で新たな給付制度の取りまとめが行われたが、財源についての議論は全く進んでいない。これでは、合意したことにならないだろう。制度設計と同時に財源確保の議論を進めなければ、一段の財政悪化につながるとの懸念が強まる。それは円安を促し、物価上昇率を高める。物価高対策を意識した新たな給付制度の議論が、物価高の問題をより深刻にしてしまう恐れがあるだろう。
 
それは、食料品の消費税率引き下げについても同様だ。財源の議論が進まない間は、実施に向けた議論は前に進めるべきではない。

食料品の消費税率引き下げの位置づけが揺らぐ

ところで、物価高対策と位置付けられる食料品の消費税率引き下げは、この新たな給付制度(当初は給付付き税額控除)を導入するまでの「つなぎ」と位置付けられている。政府・野党は、食料品の消費税率引き下げを迅速に導入するため、税率を当初想定された0%まで引き下げるのではなく、1%にする方針だ。残る1%分については、2027年秋頃に所得と連動した給付を行うとしている。そしてこの給付は、2029年度に導入予定の給付制度を先取りする「先行版の所得連動給付」という位置づけとされている。
 
それが2027年秋頃に実施可能なのであれば、新たな給付制度も早期に導入可能であり、その結果、「つなぎ」としての食料品の消費税率引き下げは必要性を失うことになるのではないか。
 
給付制度導入までの「つなぎ」であるはずの食料品の消費税率引き下げ策の中に、給付制度を先取りした制度が組み込まれる、という複雑な制度設計となってしまっている。
 
(参考資料)
「控除なし所得連動給付、29年度導入 対象は年収53万円~など3案」、2026年7月16日、日本経済新聞電子版
「所得に連動した新給付制度、29年度から導入で与野党大筋合意…食料品対象の消費税減税は議論継続」、2026年7月16日、読売新聞速報ニュース

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。