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日本銀行に関する記述を修正

政府は7月21日に「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」を閣議決定する見通しだ。高市首相の政策姿勢を強く反映した今年の「骨太の方針」は、その原案が提示されると、円安・債券安など金融市場が大きく反応した。それは「骨太ショック」とも呼ばれ、例年になく注目を集める「骨太の方針」となっている。
 
「骨太の方針」の原案では、「『強い経済』の実現に向けては、適切な金融政策運営が行われることも非常に重要」といった文言が盛り込まれた。金融市場はこれを、政府による日本銀行の利上げ牽制を意図したものではないかとの見方が広がり、円安と債券安が進んだ。政府の牽制で日本銀行の利上げが遅れれば、将来の物価上昇率が大きく上振れてしまう、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」への懸念の高まりを反映したものだ。10年国債利回りは、一時2.9%と約30年ぶりの水準にまで達した。
 
これを受けて政府は、閣議決定する「骨太の方針」の最終版では、該当する文言を見直し、脚注で日銀法第3条に触れて、「金融政策の具体的な手法については日本銀行に委ねられる」と記載する方向だ。

日本銀行への政治介入の懸念は払拭されず

日銀法第3条はその第1項で「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」と謳われている。政府はこの日銀法第3条に言及することで、日銀の自主性を尊重する姿勢を金融市場に示そうと意図したのである。
 
他方、高市政権が日本銀行の金融政策を巡って、その発足当初から念頭に置いていたのは、日銀法第4条だった。それは「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」と規定している。
 
高市政権は、この第4条を根拠に、日本銀行は単独で金融政策を決定するのではなく、その方針は財政政策と同様に政府が決める、と主張してきた。
 
「骨太の方針」の文言の修正は、日本銀行の金融政策への対応の重点を、政府が日銀法第4条から第3条に移したように見える。しかしながら実態はそうは言い切れないだろう。
 
文言を修正する方向になってからも、高市首相を始め閣僚らは、「金融政策の具体的手法は、日銀に委ねられるべきだ」という説明を繰り返している。これでは、政策金利引き上げなどの政策手段の選択は日本銀行に委ねられるが、政策変更を実施するか否か、いつ実施するかなどの決定は日本銀行には委ねられず、政府がその方針を決めるという従来の政権の考え方を修正していないように読める。
 
金融政策の具体的手法は、日銀に委ねられるといっても、いまや金融政策の主な手段は政策金利の変更のみであり、選択の余地はない。
 
本当に日本銀行の自主性、独立性を尊重するのであれば、「金融政策は日銀に委ねられるべき」と簡潔に説明すべきだ。こうした点から、「骨太の方針」の文言の修正だけでは、政府による日本銀行への政治介入の懸念は払拭されない。

「財政健全化」という文言が削除

「骨太の方針」の原案でもう一点注目を集めたのは、今まで使われてきた「財政健全化」​という文言が削除されたことだ。これについては、「骨太の方針」の最終版でも修正されない。高市首相は17日の国会で文言削除の理由を問われ、国‌際機関などが用いている「財政の持続可能性に用語を統一したため」と説明した。
 
しかし、長年政府が使ってきた「財政健全化」という文言を削除することは、財政健全化に向けた政府の姿勢が後退したと受け止められるのは自然なことであり、円安・債券安を促すなどデメリットが大きい。
 
これに連動して、財政健全化(財政の持続可能性)の目標も、従来のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化から、政府債務のGDP比率の引き下げへと重点が移される。これも、金融市場では財政健全化姿勢の後退と受け止められている。
 
政府債務のGDP比率は、財政環境の実態を遅れて示すなどの遅効性があり、目標としては適切でない面がある。

食料品の消費税減税については「8月上旬までをめどに方針を決定」

政府は閣議決定する「骨太の方針」に、食料品の消費税減税について「8月上旬までをめどに方針を決定する」と明記する方針だ。超党派の社会保障国民会議で並行して議論してきた所得に連動した新たな給付制度については、中間とりまとめが実現できたが、食料品の消費税減税は党派間での意見の隔たりが大きく、合意が見えていない状況だ。
 
食料品の消費税減税についても、新たな給付制度についても、財源の検討が進まないまま、実施に向けた議論を進めていることが問題だ。これは、金融市場の財政悪化懸念を高め、円安・債券安を助長しているだろう。
 
「骨太の方針」の文言を修正するという小手先の対応だけでは、政府の積極財政政策や日本銀行への政治介入への金融市場の懸念は払しょくされない。
 
政府は経済と金融市場の安定を大きく損ないかねない円安・債券安を「市場の警鐘」と真摯に受け止め、金融市場からの信頼を取り戻すために、政策姿勢を大幅に見直すことが求められる。
 
(参考資料)
「金融政策の具体的手法「日銀に委ねる」 骨太明記へ 食料品の消費減税「8月上旬めどに方針」」、2026年7月18日、日本経済新聞
「骨太から健全化の文言削除、「財政の持続可能性に用語統一」=高市首相」、2026年7月17日、ロイター通信
「食料品の消費減税「8月上旬までに方針を決定」 骨太の方針に明記へ」、2026年7月17日、朝日新聞

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。