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日米両政府が昨年合意した5,500億ドル(約90兆円)の対米投資計画について、次世代原子力発電所やガス火力発電所を建設する第2弾からは、米シティグループと米JPモルガン・チェースが融資の主体になる、と日本経済新聞が伝えている。このことは、対米投資計画が米国のための投資計画であることをより明らかにするものだろう。
 
5,500億ドルの対米投資計画は、昨年4月に導入された相互関税の日本への関税率を25%から15%に引き下げることを条件に日本が受け入れたもので、かなり不平等な取り決めだ。今年2月に相互関税に違法判決が下ると、通商法122条に基づく代替関税での10%の関税率にかわり、さらに7月24日からは通商法301条に基づく新関税で12.5%の関税率が課されている。
 
このように、トランプ関税は迷走してきたが、既に失効した相互関税の下で日米が合意した対米投資計画はそのまま続いている。対米投資計画は、日本企業が主導する投資計画として日本政府は当初、提案したとみられるが、最終的には米国の製造業の復活や電力・エネルギー確保のための枠組みに変容していった。米国政府・企業が主導するプロジェクトに、日本の政府系金融機関、民間銀行、民間企業が巻き込まれ、過大なリスクを負わされることも懸念された。
 
対米投資計画の本質が米国政府・企業が主導するプロジェクトなのであれば、米銀が融資の主体になっていくのは自然なことだ。しかし、この対米投資計画は、日本の政府系金融機関が融資、融資保証、出資を行うのが前提のものであり、それは変わらない。米国政府・企業、そして米銀が主導するプロジェクトに対して、日本の政府系金融機関が融資、融資保証、出資を行い、本来、日本国民に還元されるはずの利益がトランプ政権に吸い取られる一方、失敗すれば、日本国民の負担になるという問題が残る。こうした問題が多い対米投資計画は、根本から見直すべきだ。
 
対米投資計画では、米大統領が投資先を決定し日本に通知した45営業日後にドル建ての資金を銀行などが融資することが求められている。それができない場合には、米国側が日本への関税引き上げを行う可能性が出てくる。このドルの早期調達が大きな負担であった邦銀が、この懸念を日本政府に伝えていたとされる。
 
実際には、邦銀はこのドル調達の問題よりも、米国政府・企業が主導し、米大統領が決めたリスクの計測が難しいプロジェクトに対して融資を求められることを嫌った、という面の方が大きかったのではないかとも推測される。
 
対米投資計画では、邦銀はドルを調達したうえ米国でドル建ての融資に回すことから、為替市場のドル需給には中立的だ。邦銀が融資から手を引いても、ドルの需給は変わらない。
 
(参考資料)
「日本の対米90兆円投資 シティ・JPモルガン参加」、2026年7月26日、日本経済新聞

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。