&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

大企業の夏のボーナスは初めて100万円超に

経団連が​8月6日に発表した夏のボーナスの最終集計(従業員500人以上の22業種163社)によると、増加率は昨年の3.44%を上回る7.04%となり、金額は104万2,537円となった。夏のボーナスが100万円を超えたのは初めてで、増加は5年連続だ。
 
製造業では非鉄・金属(21.64%)、造船(9.97%)、食品(8.41%)などの増加率が目立った。非製造業は建設(59.59%)が202万6,633円となり、業種別で200万円を初めて超えた。それ以外には鉄道(5.43%)も堅調だった。
 
ボーナスが増加した背景には、物価高などによる業績の拡大を企業が労働者に還元する前向きの側面と、人手不足下での人材確保のための防衛的な増額の側面とがあるだろう。また、昨年の夏と比べると、トランプ関税による業績悪化への懸念が和らいだことが、ボーナス増加の一因だろう。

大企業と中小・零細企業で格差は拡大

一方、帝国データバンクの調査によると、中小・零細企業も含む1,043社の夏のボーナスの平均は、前年比1.8万円増の47.7万円だった。
 
ボーナス支給に関する企業の説明では、「業績が向上したため、社員へ還元する」(建設)のように、業績改善分を労働者に還元するとの考えが多く聞かれた。他方、「業績が悪化したが、物価高騰のなかで、人材確保、従業員のモチベーション維持を考え賞与をアップせざるを得ない」(機械・器具卸売)など、人材確保のための防衛的なボーナス増加もある。
 
また、「ナフサ由来の原材料の値上がりと品不足で業績が大幅に悪化したため、賞与の支給額を大幅に減らすことになった」(機械製造)、「中東情勢などにより先行き不透明感が強すぎるため賞与は減額」(建材・家具、窯業・土石製品製造)など、中東情勢の不透明感やコスト高による業績悪化への懸念から、ボーナスを減額する企業の声も聞かれる。
 
今回の夏のボーナスでは、円安の恩恵を大きく受け、円安や原油価格上昇によるコスト増加を製品価格に転嫁できる大企業で、好調な業績を夏のボーナスの増加に反映させる動きが目立ち、ボーナス支給額は初めて100万円を超えた。他方、円安の恩恵を相対的には受けにくい一方、コスト増加分を製品価格に転嫁しにくい中小・零細企業では、業績の改善幅は限られ、ボーナスを大きく増額できる環境にないと言えるだろう。
 
帝国データバンクの調査によると、大企業の4割超が夏のボーナスは「増加する」と回答したのに対し、小規模企業ではその割合が10ポイント以上低く、規模間の格差が拡大した。また、中小・零細企業では、人材確保のために、業績への悪影響を覚悟でボーナスを増加させる防衛的な姿勢もより目立つ。

大企業勤務の世帯では、ボーナスの増加で原油高による家計負担は打ち消される

夏のボーナスの増加によって、大企業で働く一人を含む4人世帯の2026年の所得は6.9万円増加する。一方、中小・零細企業を含むすべての企業で働く勤労者一人を含む4人世帯の2026年所得は、1.8万円増加する。4人世帯の2025年平均所得に対して、それぞれ0.82%、0.21%となる。
 
これから本格化する原油価格高騰による物価高は、4人世帯に年間4.7万円~5.3万円の負担になると試算される。大企業で働く一人を含む家計では、今回の夏のボーナスの増加は、この物価高による年間家計負担増を上回る。政府による物価高対策がなくても、夏のボーナスの増加だけで物価高による家計負担は打ち消される計算となるのである。
 
しかし、中小・零細企業も含む平均でみると、夏のボーナスの増加は原油価格高騰による物価高の家計負担のうち、3~4割弱程度の軽減にとどまる。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。