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長期金利の大幅上昇は国内要因による部分が大きい

国内では、長期金利の上昇に歯止めがかからない状況が続いており、10年国債利回りは1996年以来、約30年ぶりとなる3%台乗せが目前に迫っている。日本の長期金利の上昇は、AIブームや原油価格高騰などによる物価上昇リスクの高まりを映した世界的な長期金利上昇の流れの一環、との捉え方がされている。しかし、これは必ずしも正しくないだろう。
 
米国の10年国債利回りは、2025年8月平均値の4.3%から足元の4.7%まで、1年間で0.4%程度上昇した。同時期にドイツの10年国債利回りは2.7%から3.3%まで0.6%ポイント程度上昇した。
 
一方、日本の10年国債利回りは、同じ時期に1.6%から2.9%に1.3%ポイント程度も上昇している。日本の長期金利の過去1年間の上昇ペースは世界の流れから逸脱しており、国内要因によって引き起こされている面が強い。それゆえ、日本が世界の経済、金融市場の混乱の震源地になることが海外で警戒されている。

足もとの10年国債利回りの大幅上昇は実質金利の上昇が主導

10年国債利回りは、2016年1月に決定されたマイナス金利政策を受けて大幅に低下し、一時マイナスとなった。その後、2020年頃から上昇傾向を続けている。
 
図表1は、10年国債利回り、10年物価連動債利回り、そして両者から計算した市場の10年期待インフレ率、いわゆるBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)の3つの推移を示したものだ(10年国債利回り=10年物価連動債利回り(実質金利)+BEI(期待インフレ率))。
 
昨年からは、10年国債利回りの上昇ペースがBEIの上昇ペースを上回っている。それは、10年物価連動債利回り、つまり実質長期金利が急速に上昇していることを意味する。
 
足もとの急速な10年国債利回りの上昇を主導しているのは、金融市場のインフレ期待(物価上昇見通し)の上昇ではなく、実質長期金利の上昇である。実質長期金利は、経済の成長力を示す潜在成長率が高まる際に上昇する傾向があるが、足もとで、経済の成長力が急に高まったとは考えられず、実質長期金利の上昇は他の要因によって引き起こされていると考えられる。
 
図表1 10年国債利回りと予想物価上昇率(BEI)
 

期待インフレ率の上昇の影響は3分の1程度

そこで、10年国債利回りの過去1年間の上昇について、その要因別寄与度を推計した(図表2)。1年間で10年国債利回りは1.30%ポイント上昇したが、そのうちBEIに示される期待インフレ率の上昇の影響は0.44%ポイントと3分の1程度の寄与となった。
 
他方、実質政策金利の見通しの変化を、BEIを差し引いた実質2年国債利回りの変化に代替して計算すると、それは10年国債利回りを0.21%ポイント押し上げた計算となる。10年国債利回りの上昇の16%程度の寄与となる。
 
図表2 過去1年間の10年国債利回りの変化と要因別寄与度推計(%ポイント)

海外要因、需給要因の寄与も大きくない

それ以外がいわゆるタームプレミアムの変化の寄与となる。このうち、海外要因である米国10年国債利回りの上昇の寄与は0.08%ポイントとかなり限定的となった。やはり、国内での長期金利の大幅上昇は、国内要因に主導されたものと考えられる。
 
また、需給要因として日本銀行が保有する国債の割合を用いた。その変化は10年国債利回りを0.08%ポイント程度押し上げた計算だ。これもかなり限定的な影響と言えるだろう。

財政悪化リスクと円安リスクが、過去1年間の10年国債利回りの最大の要因

これら4つの要因以外の「その他」の要因による10年国債利回り上昇は、0.49%ポイントとなった。10年国債利回りの上昇の4割近くの寄与となる。10年国債利回りを上昇させた要因として残された「その他」の要因として最も有力なのは、財政悪化リスクの高まりだろう。また、財政悪化リスクの上昇が通貨価値を下落させ、円安傾向をもたらすことで、その分、海外投資家は日本国債利回りにプレミアムを求めることになる。このため、財政悪化リスクと円安リスクは一体である。
 
財政悪化リスクと円安リスクが、過去1年間の10年国債利回りの最大の要因と考えられる。

市場の警鐘を真摯に受け止め「悪い金利上昇」を止める政策修正を

長期金利の上昇が、すべて期待インフレ率の上昇を反映したものである場合には、実質長期金利の水準は変わらないことから、経済に悪影響を与えることはない。また、長期金利の上昇が、潜在成長率の向上など経済の成長力の高まりを映したものである場合にも、経済には悪影響は生じない。これらは「良い金利上昇」と言えるだろう。
 
しかし、それ以外の要因によって長期金利が上昇する場合には、経済への悪影響を生じさせる「悪い金利上昇」となるだろう。それは、国内経済活動を萎縮させ、金融機関の財務にも悪影響を与え得る。
 
財政悪化リスクと円安リスクを反映した足もとでの長期金利の大幅上昇は、国内経済活動を萎縮させ、金融機関の財務にも悪影響を与え得る「悪い金利上昇」であることを政府はしっかりと認識する必要がある。また、長期金利の大幅上昇を市場の警鐘と真摯に受け止め、債券市場や為替市場からの信頼を回復するために、より健全な財政政策運営へと軌道修正することが求められる。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。