原油調達の脱ホルムズ海峡が必要に
中東情勢の緊迫化と原油価格高騰を受けて、政府は「エネルギー需給構造の強靱化総合パッケージ案」を打ち出した。ここでは、1)化石燃料の調達先多角化やリスクの低減、2)原子力や国産再生エネルギーなどのGXの加速・強化、3)日本が主導するエネルギー調達の枠組み「パワーアジア」を通じた各国連携による強靱化、が掲げられた。
ホルムズ海峡経由での原油調達に全体の90%以上を依存する日本の原油調達構造の脆弱性が、ホルムズ海峡の封鎖によって一気に露呈された。原油・ナフサなどの安定調達の観点からは、調達の多角化が求められることは疑いがない。
一方、調達先の見直しは、原油調達コストの増加を招く。70年代のオイルショック以降、地政学リスクが大きい中東産原油への依存度を下げることの必要性が叫ばれてきたが、地理的に近く輸送費が低い、また原油の原価も安い中東原油への依存度は下がらなかった。そもそも中東の国々は、自国消費ではなく輸出のために原油の生産を行う傾向が強く、輸入国にとっては、長期契約のもと安価で安定した調達を行うのに適した地域だ。
また、中東産原油を前提に国内の石油精製設備などが構築されたことで、中東産原油への高い依存が定着してしまった。
地政学リスクを考慮に入れなければ、原油調達を中東に依存することは経済合理性にかなっている。従って、企業の自主的な取り組みに期待するだけでは、原油調達の多角化は今後も進まない可能性がある。
ホルムズ海峡経由での原油調達に全体の90%以上を依存する日本の原油調達構造の脆弱性が、ホルムズ海峡の封鎖によって一気に露呈された。原油・ナフサなどの安定調達の観点からは、調達の多角化が求められることは疑いがない。
一方、調達先の見直しは、原油調達コストの増加を招く。70年代のオイルショック以降、地政学リスクが大きい中東産原油への依存度を下げることの必要性が叫ばれてきたが、地理的に近く輸送費が低い、また原油の原価も安い中東原油への依存度は下がらなかった。そもそも中東の国々は、自国消費ではなく輸出のために原油の生産を行う傾向が強く、輸入国にとっては、長期契約のもと安価で安定した調達を行うのに適した地域だ。
また、中東産原油を前提に国内の石油精製設備などが構築されたことで、中東産原油への高い依存が定着してしまった。
地政学リスクを考慮に入れなければ、原油調達を中東に依存することは経済合理性にかなっている。従って、企業の自主的な取り組みに期待するだけでは、原油調達の多角化は今後も進まない可能性がある。
供給と需要のミスマッチ
そこで政府は、原油調達の分散化、多角化を進めるため、それに積極的に取り組む輸入業者にインセンティブを付与することを計画している。
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、石油元売り、石油化学メーカー、商社などのすべての輸入業者から「納付金」を徴収する。それを原資に、ホルムズ海峡を経由しない原油・ナフサの調達に積極的に取り組む事業者に「交付金」を支給する仕組みだ。輸送費や船舶保険料などの面で割安なホルムズ海峡経由で調達した原油と、それ以外の経路で調達した割高な原油との価格差を埋めることで、原油調達の分散化、多角化を進める。
ただし、原油やナフサの輸入調達先の分散化は、一部の事業者ではなく、すべての事業者が前向きに取り組む必要があるのではないか。政府が主導してきた代替調達によって、ホルムズ海峡封鎖以前の水準の原油、ナフサの調達が可能になったとされる。しかし、実際には供給と需要のミスマッチが相応に生じていたとみられる。
原油の代替調達は、米国の割合が半分程度に達したとみられるが、米国から輸入する原油は軽質油が中心であり、中東産重質油に概ね対応した日本の設備では、石油精製に支障が生じ得る。米国からの原油輸入を拡大しても、精製が進まずに原油のまま国内で積み上がっているということがあるのではないか。
また、ナフサも軽質と重質があり、さらに成分によって様々な種類がある。政府主導でナフサの代替調達を進められても、ホルムズ海峡を経由した特定の国からのナフサでないと製品が作れない、という企業が少なくなかったのではないか。
このように、政府による代替調達の課題は、需要と供給のミスマッチだったと推察される。この教訓を十分に生かすのであれば、原油、ナフサの調達の多角化は、個々の事業者が関与して、調達先の選択などをきめ細かく進めていく必要があるのではないか。
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、石油元売り、石油化学メーカー、商社などのすべての輸入業者から「納付金」を徴収する。それを原資に、ホルムズ海峡を経由しない原油・ナフサの調達に積極的に取り組む事業者に「交付金」を支給する仕組みだ。輸送費や船舶保険料などの面で割安なホルムズ海峡経由で調達した原油と、それ以外の経路で調達した割高な原油との価格差を埋めることで、原油調達の分散化、多角化を進める。
ただし、原油やナフサの輸入調達先の分散化は、一部の事業者ではなく、すべての事業者が前向きに取り組む必要があるのではないか。政府が主導してきた代替調達によって、ホルムズ海峡封鎖以前の水準の原油、ナフサの調達が可能になったとされる。しかし、実際には供給と需要のミスマッチが相応に生じていたとみられる。
原油の代替調達は、米国の割合が半分程度に達したとみられるが、米国から輸入する原油は軽質油が中心であり、中東産重質油に概ね対応した日本の設備では、石油精製に支障が生じ得る。米国からの原油輸入を拡大しても、精製が進まずに原油のまま国内で積み上がっているということがあるのではないか。
また、ナフサも軽質と重質があり、さらに成分によって様々な種類がある。政府主導でナフサの代替調達を進められても、ホルムズ海峡を経由した特定の国からのナフサでないと製品が作れない、という企業が少なくなかったのではないか。
このように、政府による代替調達の課題は、需要と供給のミスマッチだったと推察される。この教訓を十分に生かすのであれば、原油、ナフサの調達の多角化は、個々の事業者が関与して、調達先の選択などをきめ細かく進めていく必要があるのではないか。
脱原油、脱炭素も意識したエネルギー政策の見直しに
また、原油調達の分散化、多角化による原油価格上昇、輸送費の上昇、保険料の上昇だけでなく、米国産軽質油などに対応した国内の石油精製設備の修正などのコストも発生する。
最終的にそれらがすべての輸入業者から「納付金」で賄われるとすれば、それを消費者負担として転嫁するのが自然なのではないか。
現状では、原油の代替調達による追加コスト分は、政府のガソリン補助金の中で賄われている。財政で賄われるこの政府の補助金は、最終的には国民の負担ではあるが、それは意識されにくい。政治的にはこの点は重要になるのだろうが、補助金でガソリン価格を安定化させることは多くの弊害も生む。消費者のガソリンなど燃料消費の節約の妨げになることが、その一つだろう。
今回の中東情勢の緊迫化や原油調達の困難化が日本に残した教訓は、中東産に限らず、原油依存度の高さだったと言えるが、それは脱炭素の遅れでもある。
脱炭素を進めるには、電源構成に占める化石燃料の比率を下げることに加えて、消費者もガソリンなど燃料の消費の節約を進める必要がある。原油調達の分散化、多角化によるコスト上昇が消費者に転嫁されれば、それはガソリン消費の節約などを促し、脱炭素化を後押しする面があるだろう。
高市首相は、元売り業者への補助金を通じてレギュラーガソリンの全国平均価格を1リットル170円程度で抑える現在の補助金政策を、なお続ける考えを示している。
しかし財政負担や、脱炭素政策に逆行することなどの弊害を踏まえると、この補助金政策を長く続けることは望ましくない。そろそろ出口に向けた修正を検討すべきではないか。エネルギー政策の見直し策には、こうした脱炭素を促す要素を組み込むことが重要だ。
他方、ガソリン価格の上昇で生活が圧迫される低所得層に対しては、低所得層に絞った給付金などの支援策を別途講じるべきであり、高額所得層も含めたすべての消費者への一律のガソリン補助金制度は見直していくべきだろう。
(参考資料)
「原発と再生エネルギーを最大活用、脱炭素へGX加速…エネルギー多角化へ政策パッケージ案」、2026年8月26日、読売新聞速報ニュース
「経産省、原油・ナフサ値差支援へ 脱ホルムズを促進」、2026年8月19日、化学工業日報
「原油調達多角化へ、政府主導で互助的支援も 石油供給構造強靭化WG、パブコメ募集開始」、2026年8月13日、石油通信
最終的にそれらがすべての輸入業者から「納付金」で賄われるとすれば、それを消費者負担として転嫁するのが自然なのではないか。
現状では、原油の代替調達による追加コスト分は、政府のガソリン補助金の中で賄われている。財政で賄われるこの政府の補助金は、最終的には国民の負担ではあるが、それは意識されにくい。政治的にはこの点は重要になるのだろうが、補助金でガソリン価格を安定化させることは多くの弊害も生む。消費者のガソリンなど燃料消費の節約の妨げになることが、その一つだろう。
今回の中東情勢の緊迫化や原油調達の困難化が日本に残した教訓は、中東産に限らず、原油依存度の高さだったと言えるが、それは脱炭素の遅れでもある。
脱炭素を進めるには、電源構成に占める化石燃料の比率を下げることに加えて、消費者もガソリンなど燃料の消費の節約を進める必要がある。原油調達の分散化、多角化によるコスト上昇が消費者に転嫁されれば、それはガソリン消費の節約などを促し、脱炭素化を後押しする面があるだろう。
高市首相は、元売り業者への補助金を通じてレギュラーガソリンの全国平均価格を1リットル170円程度で抑える現在の補助金政策を、なお続ける考えを示している。
しかし財政負担や、脱炭素政策に逆行することなどの弊害を踏まえると、この補助金政策を長く続けることは望ましくない。そろそろ出口に向けた修正を検討すべきではないか。エネルギー政策の見直し策には、こうした脱炭素を促す要素を組み込むことが重要だ。
他方、ガソリン価格の上昇で生活が圧迫される低所得層に対しては、低所得層に絞った給付金などの支援策を別途講じるべきであり、高額所得層も含めたすべての消費者への一律のガソリン補助金制度は見直していくべきだろう。
(参考資料)
「原発と再生エネルギーを最大活用、脱炭素へGX加速…エネルギー多角化へ政策パッケージ案」、2026年8月26日、読売新聞速報ニュース
「経産省、原油・ナフサ値差支援へ 脱ホルムズを促進」、2026年8月19日、化学工業日報
「原油調達多角化へ、政府主導で互助的支援も 石油供給構造強靭化WG、パブコメ募集開始」、2026年8月13日、石油通信
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。