2016年「九州ふっこう割」、2024年「北陸応援割」に続き、「九州応援割」を実施へ
7月に発生した熊本地震は、観光業に大きな打撃を与えている。熊本県は8月21日に、地震後の宿泊キャンセルが約19万人泊分、約27億円相当に達した、との暫定推定値を発表した。
熊本地震で大きな打撃を受けた観光業を支援するため、政府は旅行・宿泊料金を割り引く支援策「九州応援割(仮称)」を実施し、観光需要を喚起する方針だ。
その概要については、2016年の熊本地震後に実施された「九州ふっこう割」がモデルとなるだろう。その際には、九州7県が対象となり、熊本と大分は最大で7割、他の5県は最大5割の割引がなされた。実施期間は2016年7月から12月末までで、第一弾(7~9月)の割引率が高く設定され、第二弾(10~12月)では割引率が段階的に引き下げられた。政府の予算総額は約180億円だった。
今回の「九州応援割(仮称)」の制度設計では、2024年に能登半島地震を受けた「北陸応援割」も参考にされるとみられる。新潟、富山、石川、福井の4県を対象に、同地域への旅行商品を半額で購入できるようにした。この制度は約9か月程度続けられた。また、政府の予算総額は94.4億円だった(コラム「「北陸応援割」の経済効果は605億円:現段階では給付金による観光事業者支援が妥当」、2024年1月29日)。
今回の「九州応援割」でも、支援対象は九州7県になるとみられる。また、熊本旅行の補助率は6割で調整されているとされる。その場合、2016年の「九州ふっこう割」の熊本、大分の最大7割よりも割引率は低めとなる。実施については、早ければ9月のシルバーウィーク前の開始が検討されている。
熊本地震で大きな打撃を受けた観光業を支援するため、政府は旅行・宿泊料金を割り引く支援策「九州応援割(仮称)」を実施し、観光需要を喚起する方針だ。
その概要については、2016年の熊本地震後に実施された「九州ふっこう割」がモデルとなるだろう。その際には、九州7県が対象となり、熊本と大分は最大で7割、他の5県は最大5割の割引がなされた。実施期間は2016年7月から12月末までで、第一弾(7~9月)の割引率が高く設定され、第二弾(10~12月)では割引率が段階的に引き下げられた。政府の予算総額は約180億円だった。
今回の「九州応援割(仮称)」の制度設計では、2024年に能登半島地震を受けた「北陸応援割」も参考にされるとみられる。新潟、富山、石川、福井の4県を対象に、同地域への旅行商品を半額で購入できるようにした。この制度は約9か月程度続けられた。また、政府の予算総額は94.4億円だった(コラム「「北陸応援割」の経済効果は605億円:現段階では給付金による観光事業者支援が妥当」、2024年1月29日)。
今回の「九州応援割」でも、支援対象は九州7県になるとみられる。また、熊本旅行の補助率は6割で調整されているとされる。その場合、2016年の「九州ふっこう割」の熊本、大分の最大7割よりも割引率は低めとなる。実施については、早ければ9月のシルバーウィーク前の開始が検討されている。
一定の想定の下で「九州応援割」の経済効果は4,800億円程度と試算
まだ制度の詳細は決まっていない「九州応援割」であるが、以下の想定の下で、その経済効果を試算してみた。
九州観光機構の統計によると、九州7県の2025年の旅行消費額は3兆5,200億円だった(図表)。また熊本県の統計によると、2024年の同県の旅行消費額は3,795億円だった。九州7県の2025年の旅行消費額が前年比で7.6%増加したことから、熊本県の2025年の旅行消費額も同率で増加したとして計算すると、2025年の旅行消費額は4,084億円となる。
ところで支援の対象となる旅行関連消費額の中心は、宿泊代、交通費といったサービス消費だ。内閣府の分析によると、サービス消費の価格弾性値は-0.8である。これは、価格が1%低下すると実質サービス消費は0.8%増加する傾向にある、ということを意味している(コラム「東京除外で減少するGo Toトラベルの消費押し上げ効果は1.5兆円程度か」、2020年7月17日)。
「九州応援割」では、上記のように熊本県は6割、他の6県は5割の割引が行われると仮定する。それは、旅行消費をそれぞれ48%(0.8×60%)、40%(0.8×50%)喚起する計算となる。その額は、年間ベースでそれぞれ1,961億円、12,446億円である。
さらに実施期間を4か月とする場合、旅行消費喚起額はそれぞれ654億円、4.149億円で、九州7県の合計は4.802億円となる計算だ(予算上限による制約は考慮していない計算)。これは2023年度の九州(除く宮崎県)の名目GDP47.9兆円の約1.0%に相当する規模だ。
- 対象は九州7県
- 割引率は熊本県が6割、他の6県は5割
- 実施期間は4か月間
九州観光機構の統計によると、九州7県の2025年の旅行消費額は3兆5,200億円だった(図表)。また熊本県の統計によると、2024年の同県の旅行消費額は3,795億円だった。九州7県の2025年の旅行消費額が前年比で7.6%増加したことから、熊本県の2025年の旅行消費額も同率で増加したとして計算すると、2025年の旅行消費額は4,084億円となる。
ところで支援の対象となる旅行関連消費額の中心は、宿泊代、交通費といったサービス消費だ。内閣府の分析によると、サービス消費の価格弾性値は-0.8である。これは、価格が1%低下すると実質サービス消費は0.8%増加する傾向にある、ということを意味している(コラム「東京除外で減少するGo Toトラベルの消費押し上げ効果は1.5兆円程度か」、2020年7月17日)。
「九州応援割」では、上記のように熊本県は6割、他の6県は5割の割引が行われると仮定する。それは、旅行消費をそれぞれ48%(0.8×60%)、40%(0.8×50%)喚起する計算となる。その額は、年間ベースでそれぞれ1,961億円、12,446億円である。
さらに実施期間を4か月とする場合、旅行消費喚起額はそれぞれ654億円、4.149億円で、九州7県の合計は4.802億円となる計算だ(予算上限による制約は考慮していない計算)。これは2023年度の九州(除く宮崎県)の名目GDP47.9兆円の約1.0%に相当する規模だ。
図表 「九州応援割」の経済効果試算


旅行消費喚起の効果はあるが旅行事業者の支援策としては課題も
上記の試算のように、「九州応援割」は、その対象となる熊本県および九州全体に相応の経済効果をもたらし、地震による旅行消費額の落ち込み分を一定程度押し戻すことが期待される。
しかし、同制度の本来の狙いである、地震で打撃を受けた観光事業者の支援策として考えた場合には、課題もある。
第1に、観光業が特に打撃を受けたのは、地震で甚大な被害を受けた地域であり、まさにそうした地域の観光業を最優先で支援する必要がある。しかし、現時点でもなお余震が続くなか、「九州応援割」を開始しても、地震を警戒してそうした地域に観光客が足を運ばない可能性もある。さらに観光客が復旧の妨げになってしまう恐れもあるだろう。
一方、地震の影響で観光客が大きくは減っておらず、そもそも深刻な打撃を受けていない周辺地域の旅行事業者により恩恵が及ぶ形になってしまう可能性も考えられる。2016年の「九州ふっこう割」でも、その効果で観光客が増えたのは、被害の中心地であった熊本県ではなく、他の周辺県であったとの分析がある。同様のことが「九州応援割」で起こる可能性もあるだろう。
こうした点から、「九州応援割」の開始は、早くなりすぎないように慎重に決める必要があるだろう。
第2に、単純な割引率制度のもとでは、割引額が大きくなる比較的高額の宿泊、旅行パッケージなどで、制度が使われやすくなる可能性がある。その結果、高級旅館などに宿泊者が集中すれば、地震の影響で打撃を受け経営基盤が揺らいでいる、最も支援が必要な体力のない旅館など、中小の観光事業者への支援とはならない可能性があるだろう。
こうした点から、割引制度の設計には十分な配慮が必要であり、割引率ではなく定額補助とすることも検討すべきではないか。
第3に、「九州応援割」は、地震の頻発が続く地域への旅行を政府が補助金制度で後押しするのは、国民をリスクに晒すことになる、との批判が出てくる可能性もあるのではないか。
しかし、同制度の本来の狙いである、地震で打撃を受けた観光事業者の支援策として考えた場合には、課題もある。
第1に、観光業が特に打撃を受けたのは、地震で甚大な被害を受けた地域であり、まさにそうした地域の観光業を最優先で支援する必要がある。しかし、現時点でもなお余震が続くなか、「九州応援割」を開始しても、地震を警戒してそうした地域に観光客が足を運ばない可能性もある。さらに観光客が復旧の妨げになってしまう恐れもあるだろう。
一方、地震の影響で観光客が大きくは減っておらず、そもそも深刻な打撃を受けていない周辺地域の旅行事業者により恩恵が及ぶ形になってしまう可能性も考えられる。2016年の「九州ふっこう割」でも、その効果で観光客が増えたのは、被害の中心地であった熊本県ではなく、他の周辺県であったとの分析がある。同様のことが「九州応援割」で起こる可能性もあるだろう。
こうした点から、「九州応援割」の開始は、早くなりすぎないように慎重に決める必要があるだろう。
第2に、単純な割引率制度のもとでは、割引額が大きくなる比較的高額の宿泊、旅行パッケージなどで、制度が使われやすくなる可能性がある。その結果、高級旅館などに宿泊者が集中すれば、地震の影響で打撃を受け経営基盤が揺らいでいる、最も支援が必要な体力のない旅館など、中小の観光事業者への支援とはならない可能性があるだろう。
こうした点から、割引制度の設計には十分な配慮が必要であり、割引率ではなく定額補助とすることも検討すべきではないか。
第3に、「九州応援割」は、地震の頻発が続く地域への旅行を政府が補助金制度で後押しするのは、国民をリスクに晒すことになる、との批判が出てくる可能性もあるのではないか。
現状は給付金で旅行業者を支援する段階
このように、過去の経験も踏まえると、「九州応援割」には幾つか課題がある。現時点で観光事業者を支援する枠組みとしては、政府による給付金がより妥当なのではないか。地震で観光客が減り経営に打撃を受けている事業者に対して、売上高の減少分を補填するような枠組みが考えられる。これであれば、地震で打撃を受けた中小・零細事業者をピンポイントでしっかりと支援し、経営を支えることができるだろう。
そして、被災地の復興がある程度進み、観光客の地震への不安が和らいだ段階で、「九州応援割」は観光事業者支援の有効策になってくるのではないか。
いずれにせよ、政府は給付金制度も選択肢に入れつつ、最適な観光事業者の支援策の設計を慎重に進めるべきだろう。
そして、被災地の復興がある程度進み、観光客の地震への不安が和らいだ段階で、「九州応援割」は観光事業者支援の有効策になってくるのではないか。
いずれにせよ、政府は給付金制度も選択肢に入れつつ、最適な観光事業者の支援策の設計を慎重に進めるべきだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。