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ベッセント財務長官が日銀の利上げへの期待を表明

ベッセント財務長官と植田日銀総裁は8月30日、米ノースカロライナ州アッシュビルで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議で会談した。9月1日には米財務省が、その概要について公表している。それによると「ベッセント財務長官は、インフレ期待をつなぎとめ、過度な為替変動を回避するために、健全な金融政策の策定とその発信(コミュニケーション)が重要であると強調した」「さらに長官は、円の大幅な過小評価に対処するための日本による決然とした市場・金融面での措置を強く支持する意向を表明するとともに、円安が日本国内のインフレ圧力の一因となっている点についても言及した」。
 
これらは、ベッセント財務長官がドル高・円安阻止のため、日本銀行の利上げを求めていることを示唆する内容であり、それを公表することで利上げ実施への圧力をかける狙いがうかがわれる。ベッセント財務長官は、以前より、日本銀行の利上げを通じてドル高・円安を食い止めることへの期待を表明してきたが、7月末の日米協調介入をきっかけに、その圧力がより強まっているように見える。
 
この会談に先立ってベッセント財務長官は、「(日銀に指図するつもりはないが)日本はもう『アベノミクス』(リフレ政策)の終わりに来ていると思う」との見解も示していた。
 
こうした発言は、日本銀行の利上げを求めるものと読むこともできるが、それに加えて、日本銀行の利上げを牽制してきたとみられる高市政権に対して、日本銀行の利上げを妨げないように釘を刺す狙いもあるのではないか。

金融市場の9月利上げ観測を追認

日本時間の9月2日には、G20会合後の片山財務相・植田日銀総裁による共同記者会見が行われた。その場で植田総裁は、海外の政策当事者が日本銀行の金融政策について発言することについて、「それはそれぞれの判断であり、コメントしない」とした。
 
米政府が期待するように、9月の金融政策決定会合で日本銀行が利上げを実施する可能性は高まっている。それは、米政府の期待に応えるという面ばかりでなく、円安進行や原油高による基調的な物価上昇率の上振れリスクへの対応、という面も大きいだろう。
 
共同記者会見で植田総裁は、9月の金融政策決定会合の利上げの可能性について、否定的と受け止められる発言を一切しなかった。これは利上げを強く予想する金融市場の見方を追認するものだ。
 
植田総裁は、前回7月の会合以降得られた経済データなどは、展望レポートに概ね沿ったものであり、利上げを通じた金融緩和の調整が既定路線にあることを示した。また、現在の金融政策はリスクマネジメントの政策であり、今までよりも(インフレ率の)上振れリスクに気を配って政策を進める必要があり、その上振れリスクの一つの要因である為替にも配慮するとした。

中東情勢、AI需要、円安の3つの要因が利上げペースを加速させる

植田総裁は改めて、7月の会合で示したように、緩和の調整のタイミングやペースについては、中東情勢、AI需要、円安の3つの要因が影響すると説明した。足もとでは、原油高と円安がさらに進んでおり、利上げペースの加速が後押しされる外部環境となっている。
 
10年国債利回りが3%を超えたことの経済への影響を問われた際に植田総裁は、最近の上昇は原油高によるインフレ懸念の高まり、AI関連投資の資金調達の増加、各国の財政政策に対する見方の変化、の3つを挙げた。そして、長期国債利回りの上昇が経済に与える影響は、利回り上昇の要因によって異なる一方、その要因を特定するのは難しいとした。

財政リスクの高まりによる長期国債利回りの上昇は経済に悪影響

明言は避けたものの、成長力の高まりやインフレ期待の上昇以外の要因で長期国債利回りが上昇する際には、それは経済に悪影響を及ぼすことを示唆したものだろう。特に、日本の財政リスクの高まりが長期国債利回りの上昇を引き起こす場合には、それが経済にマイナスの影響をもたらすリスクがあることを、植田総裁は懸念しているのではないか。
 
日本銀行による9月の利上げの確率はかなり高いが、それ以降の金融政策運営には、政府の財政政策とそれを受けた長期国債利回りの動き、そして円安の動向が大きく影響を与えるだろう。植田総裁は、利上げの影響は累積的に出てくることから、政策運営を慎重に判断する、とも発言している。
 
当面は利上げペースが加速する可能性は高いが、それ以降の金融政策運営については、なお不確実性が高い状況であり、日本銀行は日本政府と米国政府の双方から影響を受ける環境にある。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。