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食料品の消費税率引き下げと財源確保

自民党は、食料品の消費税率引き下げと所得に応じた給付制度の導入を盛り込んだ税制改正大綱案を9月11日に了承した。日本維新の会との調整を経て、15日にも閣議決定される見通しだ。
 
食料品の消費税率引き下げは既定路線となっており、それを含む税制改正大綱の閣議決定が、金融市場に与える影響はほぼないだろう。
 
一方、年間5兆円規模に達するその財源についての議論は進んでいない。安定した財源確保は極めて難しい状況だ。2年後に食料品の消費税率を元の水準に戻すことが政治的に容易ではない点を踏まえると、それが恒久減税になる場合に備えて、2年間の財源確保も、恒久的な財源に転換できるものとしておかなければ、金融市場の財政悪化懸念を払拭できないだろう。しかしそれに向けたハードルは、極めて高いと言える。

内閣改造と党役員人事

税制改正大綱を15日に閣議決定することを前提に、高市政権は16日に自民党役員人事を決定し、17日に内閣改造を実施することを現時点では予定している。
 
党役員人事では、麻生太郎副総裁のほか、鈴木俊一幹事長、小林鷹之政調会長、萩生田光一幹事長代行が留任する見通しだ。また内閣改造では、木原稔官房長官、片山さつき財務大臣の留任に加えて、昨年の総裁選を争った茂木敏充外相、小泉進次郎防衛相も留任の見通しとされる。彼らが総裁選に出馬しにくい状況を作り、2027年9月の自民党総裁選での再選の可能性を高める狙いが、高市首相にはあると指摘されている。
 
全体的に、党役員人事、内閣改造ともに小幅な見直しにとどまる見通しである背景には、政策面で「高市カラー」をさらに強く打ち出すよりも、政策の継続性・安定性を優先し、来年9月の総裁選での再選につなげる布石があるとの見方がされている。

片山財務相の再任見通しに注目

特に注目したいのは、片山財務相が再任される見通しであることだ。片山財務相は高市首相が掲げる「責任ある積極財政」を支えてきたが、高市首相との間には政策を巡る温度差も一定程度あると考えられる。
 
片山財務相は、財務省出身でもあり、積極財政を支持していると言っても、一方では財政規律を重視していると考えられる。また、財政悪化懸念による長期金利の上昇が経済や財政環境に与える悪影響を懸念しているとみられる。
 
片山財務相は就任前のロイターの単独インタビュー(2025年3月26日)で、「ドル/円は120円台の時期が長かったので、120円から130円、120円台が実力との見方が多い」という発言をしていた。
 
こうした考えは、先般の衆院選挙の際に円安のプラス面を強調する発言をし、また、積極財政政策が生じさせる金融市場での円安・債券安(長期金利上昇)の動きを強くは警戒していないように見える高市首相とは異なるものではないか。

高市首相の3つの配慮

高市首相が自ら掲げる政策をさらに前進させることを重視するのであれば、片山財務相らよりも積極派の人物に変えてもおかしくないところだ。しかしそうしなかった背景には、3つの配慮があるものと考えられる。
 
第1が党内融和への配慮だ。自民党内では食料品の消費税率引き下げに明確に反対する勢力が出てきている。こうした声にも一定程度配慮し、党内融和を尊重することで、政権の安定と総裁再選につなげる考えが高市首相にはあるのではないか。この点で、麻生副総裁からの意見を受け入れた面もあると推察される。
 
第2が金融市場への配慮だ。「責任ある積極財政」など「高市カラー」の強い政策をさらに加速させれば、金融市場での円安・債券安を後押しする。それに対する高市首相自身の懸念は必ずしも大きくないとしても、それがもたらす物価高や資金の借り入れコストの上昇は、国民生活を圧迫し、国民の不満を高めてしまう。
 
第3が米国への配慮だ。トランプ政権は、日米協調介入で日本の円安抑制への取り組みに協力した見返りとして、円安・債券安を促す経済政策の見直しを日本に要求しているとみられる。こうしたなか、日米協調介入でトランプ政権との調整を担ってきた片山財務相を退任させることは、トランプ政権からの要求を受け入れない姿勢とも解釈され、トランプ政権との関係を悪化させかねない。

財政政策の修正はあるか

こうした3つの配慮から、高市首相は大幅な人事の見直しを見送る方向と解釈できるのではないか。
 
ベッセント財務長官による日本銀行の利上げ期待の強い表明は、日本銀行への圧力というよりも、日本銀行の利上げを水面下で牽制することで円安を促してきた高市政権への牽制、という側面が強いだろう。恐らくその効果も一定程度発揮され、日本銀行は「利上げペースの加速」に向かっており、9月17日~18日の金融政策決定会合での0.25%の利上げはほぼ確実とされる。
 
金融市場の関心は、トランプ政権の影響のもと、金融政策に続いて、高市政権の積極財政政策も一定程度修正されるかどうかに向けられている。以上で述べた大幅な人事見直しの見送りは、その一つの兆候と言えるかもしれない。しかし、それが明確な兆候であるとまでは、まだ言えないことも確かである。
 
そこで金融市場は、消費税率引き下げの安定した財源確保、秋の補正予算編成の有無、年末にかけての防衛3文書の見直しと防衛力強化計画、2027年度予算の政府案策定での歳出抑制の有無、といった年末にかけての主要イベントから、高市政権の財政政策の修正の動きを探ろうとするだろう。
 
それらから、積極財政政策の修正姿勢を一定程度読み取ることができれば、それは為替市場での円安修正を後押しするとともに、債券市場では3%近傍にある10年国債利回りの低下につながるのではないか。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。