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物価目標達成との判断は政治的圧力の後退が背景か

時事通信は、日本銀行が基調的な物価上昇率について2%程度に到達したとの判断を9月29・30日に開く金融政策決定会合で示すことを検討している、と報じた。
 
この決定会合では「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」が示される。日本銀行は現在、基調的な物価上昇率が2%程度に達する時期を「2026年度後半から2027年度」としている。目標達成時期については、トランプ関税を受けて昨年、先送りしていた。
 
基調的な物価上昇率は、特定の経済指標によって示されるのではなく、日本銀行が独自に判断するものであり、国民や金融市場にとっては分かりにくいものだ。
 
日本銀行は今まで、基調的な物価上昇率が2%にかなり近づいているが、まだ到達していないと繰り返し説明してきた。こうした説明は政治的な背景による部分が大きいと思われる。高市政権は、日本銀行の利上げは景気を悪化させることを警戒し、利上げを牽制してきたとみられる。日本銀行は、利上げをしてもまだ金融緩和の状態にあり、そうした中での利上げは金融引き締めではなく金融緩和の縮小であるとして、高市政権に対して利上げへの理解を求めてきたのだろう。
 
仮に日本銀行が基調的な物価上昇率が2%に到達との判断を示すとすれば、そうした政治的配慮の必要性が低下したと考えたためだろう。トランプ政権は、高市政権による日本銀行の利上げ牽制を批判してきた。それは円安を助長し、米国経済にもドル高という弊害が及ぶためだ。
 
高市政権はこうしたトランプ政権からの働きかけを受けて、日本銀行の利上げに対するけん制姿勢をかなり後退させてきている。これは、日本銀行の金融政策の独立性を回復させ、政策決定の自由度を高めるものだ。

日本銀行の金融政策の正常化は仕上げの段階に

日本銀行が基調的な物価上昇率について2%程度に到達したとの判断を示す場合には、それは政策金利が中立水準近辺に達していることを意味するだろう。この点から、そうした判断は、日本銀行の利上げ、正常化策が仕上げの段階にあることを示唆するだろう。
 
現在の日本銀行の政策方針は、2本柱に基づいて進められている。第1の柱は、経済・物価が展望レポートの見通しに沿っており、基調的な物価上昇率が2%に近づいている確度に応じて、政策金利を緩やかに引き上げ、金融緩和の縮小を徐々に進めるというものだ。これが、2024年3月以降の金融政策正常化の過程で進められてきた政策方針だ。
 
他方、第2の柱は、基調的な物価上昇率が2%を超えて高まることを回避するための政策対応だ。9月から、日本銀行の政策は「利上げペースの加速」局面に入った。植田総裁はこれを「政策の局面変化」と表現している。

日本銀行は柔軟な金融政策運営に

日本銀行が基調的な物価上昇率について2%程度に到達したとの判断を示す場合には、政策方針は第2の柱のみとなり、経済・物価環境に応じて(データ・ドリブン)金融政策を柔軟に変更する、通常の金融政策運営となる。
 
第2の柱について、利上げの時期やペースを決めるのは、①中東情勢、②AI、③為替の3点と日本銀行は説明している。この3つの要因が基調的な物価上昇率を、2%を超えて高めるリスクがある場合には、さらに利上げを進める一方、そうしたリスクが後退すれば、利上げを停止する、あるいは利下げを行う余地も出てくる。
 
日本銀行が基調的な物価上昇率について2%程度に到達したとの判断を早期に示すか否かに関わらず、日本銀行は今年12月に政策金利を1.5%に引き上げ、来年から再来年にかけて1.75%~2.0%まで引き上げると筆者は予想する。その後、物価上昇率及びインフレ期待が低下していけば、利下げの余地が出てくると考える。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。